第4話③ イケメン宦官五人衆、登場!!
◤四の宦官──監察宦官長:ルーファス◢
「ふふ……エドガー様は相変わらず、数字がお好きなようで」
黒髪を後ろに束ねた男が、エドガーの隣から、場の緊張をさらりとすり抜けるように声を差し挟んだ。
「父が見事にやらかしてくれたおかげで、“姓”は剥奪され、いまや私はただのルーファス。
──監察宦官長として、華楼公に絶対の忠愛を」
(うわ、話し方が妙にサラッとしてる……けど中身、めちゃくちゃ重くない!?)
「あれ? ルーファスって、クーデターを起こした王弟の息子だよな?
なんでそんな彼が監察官なんだ?」
「はい。国家転覆未遂の罪で“去勢刑”を受けて宦官となり……誰からも信用されない立場だからこそ、
“監察官”という役を任されているのですわ」
(え、そういう“向いてるから配属された”みたいな理屈で配属されるの!?)
(むしろ、立場が信用されないから見張り役って、完全に皮肉の効いた人事異動なんだけど!?)
「単なる身体的な罰ではありませんわ。家の未来と誇りを断絶する刑──
“恥をさらして生き続けよ”という、生き地獄の宣告なのです。
家も地位も未来も奪われたことで、華楼公に尽くす以外、存在価値が残されていないのですわ」
(存在価値とか言われると、こっちも背筋伸びるわ……!)
まるでその会話が聞こえているかのように、ルーファスは目を細め、肩をすくめた。
「華楼公、ご安心ください。
私は──牙を抜かれ、首輪を付けられた、忠実なる貴方様の猟犬にございますので」
(……いや、“忠実”って言ってるけど、その笑顔で“猟犬”名乗るの怖すぎない!?)
(牙抜かれたどころか、今にも逆に喉元に噛みついてきそうな空気なんだけど!?)
「彼の首には爆破の魔導具が仕込まれておりますわ。
裏切りを働いた際に起動できるように……私とリーゼのみが知ってますの」
(……えっ……今なんて……?)
笑ってる。ずっと笑ってる。どこまでも涼しげに。
(……ごめん、ここまでのキャラ紹介で一番ヤバいやつ、いたわ……)
(“笑顔で首輪つけて爆破される立場”を受け入れてる時点で、もう俺の価値観じゃ測れない!!)
涼しい顔でそんなことを言ってのける彼の笑みは、どこまでも軽やかで──
底が知れなかった。
(“爆弾付きの首輪つけた猟犬”って、完全にB級サスペンスなんだけど!?)
(あれ? 今のところ“見た目フレンドリー系で一番怖いのこの人じゃない!?)
◤五の宦官──薬餌宦官長:バルドル◢
「ねえねえ旦那様っ、まずはごはん食べよ! お腹ぺこぺこでハーレムなんて無理無理〜っ!」
パァァッと満開の笑顔で駆け寄ってきたのは、金髪ふわふわの少年。
くるんとした大きな目と、やたらとハリのある声が、場の空気を一気に軽くする。
「いっぱい食べて、ぐっすり寝て、むふふな時は元気が出るお薬あげるからねっ!」
「いやいやいや!! お薬で“むふふ”って何!? 表現がもうアウトなんだけど!?」
「ボク、バルドルっ!
薬餌宦官長として、旦那様のごはんとかお薬とか、健康まるっと担当しちゃいます」
(めっちゃ可愛い……でも、宦官ってことは男なんだよな……)
無邪気な笑顔に違和感を覚えたユーリは、こっそりセリーヌに尋ねた。
「……この子、見た目すごいピュアだけど……まさか、過去がエグい系?」
「ええ。聖法国の枢機卿のご子息ですのよ」
「えっ!? 可愛いボクっ子枢機卿の息子が宦官ってどういう経路!?」
「禁忌の研究で異端認定され、去勢刑。
その後、足の骨を抜かれ、魔獣の巣に放逐されたそうですわ」
「ええぇええええっ!?!?」
「でもご安心を。魔獣の骨で補助骨を作り、自力で戻ってきたそうですの。
すごいですね。あの笑顔のままで」
(すごいとかの問題じゃねえよ……! なんでそんな地獄を突破して、テンションだけ無傷で帰ってきたんだこの子……!)
「さあさあ旦那様〜、まずはお茶とおにぎりだよ〜。
胃が動かないと愛も始まらないもんねっ!」
(この子、今完全に“愛は内臓から”って言ったよな!?)
(なにこの笑顔の災厄。
ていうか一番爆弾抱えてるの、たぶんこの子で確定だろ……!)
「……はい、これで皆の紹介は終わりましたわ。
濃い方ばかりで、さぞお疲れになったでしょう?」
(うん、心のHPバーが完全に赤になってるの、俺だけだよね……)
(ていうか、全員“サブキャラ”じゃなくて“ラスボス候補”だった気がするんだけど……)
セリーヌの言葉で、宦官たちはそれぞれ静かに一礼すると、左右に分かれて道をあける。
その先にあるのは──金と銀の細工が繊細に施された、荘厳な扉。
中央に嵌め込まれた水晶が、ほんのかすかに光を帯びていた。
まるで、「ようこそ、現実へ」と告げるかのように。
アレクシウスが一歩前に出ると、優雅に腰を折る。
「後宮の花々が蕾を膨らませております。
どうか……お手を触れてくださいませ」
(ちょ……比喩が優雅すぎて逆に怖いんだけど!?)
(“お手を触れて”って、それ摘んだら爆発するタイプじゃない!?)
戸惑うユーリの背に、セリーヌがそっと手を添える。
まるで優しく背を押すように──けれど、その手は、あたたかかった。
「この扉の先には──皆、旦那様の一歩を待っております。
どうぞ、ご自身の歩幅で──ゆっくりと、お進みくださいませ」
少し離れたところでは、リーゼロッテが視線を逸らしつつ、小さな声でぽつりと呟く。
「……もし迷っているのなら。少しくらい、背中を押して差し上げますわ。
……いまだけ、ですけれど」
その横顔に、思わずユーリは振り返る。
彼女はふいに口元を緩め──すぐにツンと顔をそらした。
「……べ、別に期待しているわけではありませんけれど。
貴方らしい後宮になれば……いいですわね」
「本当にリーゼは素直じゃありませんわね。
ふふ……そんな様子では、他の妃に先を越されてしまいますわよ?」
セリーヌがくすりと笑い、からかうように言えば──
「そ、それくらいで先を越されるようでしたら……
勇者様も、所詮はただの破廉恥男ですわ!」
(まぁ……これから沢山破廉恥なことするわけだから、否定できないんだけど……)
(でも言われると地味に効くんだよ、あれ……! 心がスースーするっていうか……)
奥の扉から、かすかに香の香りが漂ってくる。
甘く、妖しく、まだ見ぬ世界からの誘いのようだった。
(……ほんと、ハーレムって言葉だけ見て期待してたあの頃の俺、出てこい。しばく)
(でも――)
(それでも、この扉の先に俺の“役目”があるって言うなら、やるしかない)
ユーリは一歩、前へ踏み出す。
(どうせ破廉恥男扱いされるなら、
せめて、誇りある破廉恥男になってやるよ)
(……いや、自分で言っててちょっと恥ずかしいけど)
──後宮の内門の扉が、音もなく開かれていく。
中から立ち上るのは、ほのかに甘い空気と──
物語の、ほんの始まり。
【あとがき】
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