第4話② イケメン宦官五人衆、登場!!
◤一の宦官──大宦官長:アレクシウス◢
「──これは失礼を。星霊に導かれし華楼公様。ようこそ、後宮へ」
銀糸の髪がさらりと揺れ、男は優雅に一礼した。
儚げな美貌と静かな微笑み。その一挙手一投足すら洗練され、まるで宮廷画に描かれた理想像のよう。
けれど、その背筋には凍てつくような威厳が宿っている。
「大宦官長、アレクシウス・ディ・オルハンと申します。
後宮の政務一切、私が取り仕切っております」
(アレクシウス・ディ・オルハン ? どこかで聞いたような……)
困惑するユーリの耳元に、セリーヌがそっと囁く。
「アレクシウス様は、宮政院の長。
宦官や宮女の管理、妃たちの教育、それから──“お渡り”の手配も、すべて彼の管轄ですわ」
「……あの、“お渡り”って、もちろん、女性……だよね?」
「も、もちろんですわ。でも……もしかして──男娼もご用意なさいます?」
「い、いいえっ!! 全員女性でお願いしますっ!!」
「ふふっ、冗談ですわ。でもちなみに──彼はオルハン帝国の第八皇子。そして、私の甥にあたりますの」
「で、なんでその第八皇子が宦官に!?」
「帝位争いに敗れ、男としての生も断たれ、使節という名目で後宮に送られたのですわ」
(お、おぉぉぉ……!? さっき“ポエム王子”とか呼んでたの誰だよ俺!? ごめんなさい、そんな軽いもんじゃなかった……!)
(俺が“異世界でちょっとモテたいな〜”とか言ってたの、もはや道端の石に謝るレベルで浅かったのでは……!?)
◤二の宦官──禁衛宦官長:ライガ◢
「さっきは驚かせて済まなかったな。……あれでも礼儀のつもりだったんだが」
腕を組んだまま、腰の長刀をチラつかせつつ、黄金のたてがみを揺らしてユーリを見下ろす。
視線だけでプレッシャーが押し寄せる。これで“礼儀”だというのなら、たぶん文化が違う。
「禁衛宦官長、ライガだ。
任務だ。剣の指南は俺の担当になってる。
あんたの覚悟──俺の剣で、確かめさせてもらう」
(いや、それ威嚇じゃん!? 礼儀の皮を被った威圧じゃん!?)
値踏みするような鋭い視線が、足先から頭のてっぺんまでを這う。
ユーリはそっと後ずさり、セリーヌに顔を寄せる。
「ちょ、後宮で刀ってOKなの!? 俺、このあとハーレムの甘味ルート入る予定なんだけど!?」
「旦那様……彼は獣人の国・ハクオウ皇国からの“預け人”──すなわち人質ですわ。
形式上は禁衛隊長ですが、実務はほぼ補佐官任せですの」
「人質が武装してるって、むしろ不穏じゃない!?」
「ご安心ください。刃は潰してありますし、ライガ様は皇国でも名の知れた武士。
“迅雷の雷牙”と呼ばれる実力者ですのよ」
(名前のゴロが強キャラじゃん! 異世界RPGなら三章あたりで戦うやつじゃん!)
「……あの方は、将軍家と実権を奪われた朝廷の思惑により、
“誠意の証”としてその牙を奪われ、後宮に送られた獅子。
けれど誇りだけは、決して捨てなかったお方ですわ」
(“誠意”とか言ってるけど、要は去勢されて強制送還されたってことでしょ!?)
(えぐい! 背景がえぐい!!)
「“忠誠”の踏み絵に去勢って……シャレにならないし!
えっ、俺、まさか“平和の生け贄”として異世界召喚されたんじゃ……!?」
「どちらかと言えば、慈愛の女神が遣わした“愛の伝道師”ですわ」
「あ……ありがとう……言い方だけポジティブ……」
そんなユーリの動揺をよそに、ライガがすっと刀の柄に手を添える。
(お、おい!? それ“教える”の構えじゃなくて、“やる気スイッチ”の方じゃない!?)
「ちょ、ちょっと待って!? 今ここで“覚悟を見せろ”って抜く展開じゃないよね!?」
「大丈夫だ。……たぶん」
「“たぶん”は信用できないんだよおおおおお!!」
(こっちは命が軽いタイプの主人公じゃないんだからああああ!!)
◤三の宦官──財務宦官長:エドガー◢
「君が華楼公を脅してどうする……人選を誤ったようですね」
静かに響いた声は、氷のように冷たい。
銀縁の眼鏡が光を反射し、蒼灰色の瞳が、損益表でも見るようにユーリを測っていた。
青みがかった短髪、無駄のない立ち居振る舞い、整然とした軍服めいた衣装。
そのすべてが無機質な機能美に満ちている。
「財務宦官長、エドガー・ド・メレヴィル。
後宮の会計全般を統括しております」
「彼は自由都市同盟の元首の孫。若くして歳入改革を成功させた、財政界の“切り札”ですわ」
「また濃い人が宦官になってるんだね……ちなみに、彼も……?」
「ええ。“優秀すぎた”ばかりに、政敵に罪をでっち上げられ、“断たれて”後宮へ。
皮肉ですわね」
(才能と去勢が比例してどうすんのこの世界!?)
「後宮維持費は月額およそ四千五百クラウン金貨。
衣装・香・医療──ぜいたく抜きで、それです」
淡々とした口調が、逆に胃にくる。
しかもまだ続く。
「現時点では、六華妃二名、十二星妃三名、三十六麗妃が数名、百八淑妃が数十名──
定員補充が進めば、年間支出は八万クラウンを超えます。
王国の現歳入では、五年以内に詰むでしょう」
(なんか、数字の話してるだけなのに……心臓に悪い!!)
「今後も妃を増やすなら、今のうちから財源確保が必須です。
でなければ──この後宮は“甘い香”から“ギロチン台”へ一直線ですね」
(香りが甘いのに話は苦すぎるんだけど!?)
「そ、それじゃあ……辺境でのんびり暮らす方向で、調整お願いできます……?」
「……華楼公様。それは“現実逃避”という名の支出増大策に他なりませんよ。
“中央で後宮を率いる華楼公”という看板を下ろすことは――」
「分かった、分かったから、エドガーさん!
その話、夜にでもゆっくりでいいから!! 夜にね!!」
わずかに眼鏡が光を帯び、冷たく返される。
「どう考えても、夜の方が忙しい華楼公に、
いつそれをお聞きになる時間があるのか……興味深いところですな」
(ぐっ……夢のハーレムが、ただの金食い虫だったなんて……)
(このままだと、好感度上げる前に財政赤字でバッドエンドなんだけど!?)
(……もう誰か財務チート持った美少女出してくれ。頼むから……)
【あとがき】
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