第4話① イケメン宦官五人衆、登場!!
「俺のハーレム、まさか男ばっかり、とかじゃないよね?」
王宮の奥深く──
黄金に輝く扉の前、ずらりと並ぶイケメン五人に、ユーリの夢は開始0秒で爆散した。
(……は?)
儚げ王子、ワイルド獣人、インテリ眼鏡、チャラ男貴公子、天真爛漫ボクッ子。
なぜか全員、堂々としてる。
(えっ……俺の後宮ルート、どこいったの……?)
後宮へと外門を越えた時点で、脳内ではバラが咲き乱れ、美女たちのハグ祭りが開幕していたというのに。
(俺の夢、スタートと同時に池ポチャENDて何!?)
深いため息が漏れた。前庭で、ユーリはしばらく天を仰いだ。きらめく空が無情すぎる。
本来ここは、絢爛たるドレスを纏った美女たちが自分を取り合う、夢のハーレム王国だった。
甘い声と笑顔に囲まれ、両手に花どころか花園状態になる予定だったのに。
(なのに今目の前にいるのは、完璧すぎる顔面五銃士──どういう地獄!?)
そしてその一人が、妙に艶っぽい声で囁いた。
「お目にかかれて光栄です……華楼公様。その瞳、まるで月光に濡れた黒曜石のようだ」
(なんだそのポエム!?)
続いて、銀縁眼鏡の青年が一歩前に出る。
懐から帳簿……帳簿!? 本!?
「華楼公様、僭越ながら……後宮の帳簿でございます」
(なぜそこで事務処理!? 絶対、今じゃないよね!!)
さらには、黒髪を束ねた男が低く笑う。
「ふっ、みな華楼公様の寵愛を受けたくてしかたないのです。かくいう私もですが……どうか、嫌わないでください」
(待って!? なんで会ったばかりなのに恋愛フラグが立ってるの!?)
ユーリの頭の中に──見えないウィンドウが浮かぶ。
▶「ポエム王子に心を開く」
▶「帳簿を一緒につけてあげる」
▶「束ねたリボンを解いてあげる」
▶「獣王に抱っこされる」
▶「ボクっ子に膝枕してあげる」
(無理! どれを選んでもBADしか見えない未来……!)
そこへ──ひときわ存在感を放つ影が前に出る。
岩のような胸板、陽の光を跳ね返す黄金のたてがみ──まさに、歩く王者の風格。
「異世界の勇者って聞いてたが……思ってたより貧相だな。俺が守ってやるから安心しな」
(ちょ、なんで近寄ってくるの!? こっち防御力ゼロなんですけど!?)
思わず一歩後退──
その瞬間。
「ふふっ、つかまえた」
耳元でささやかれた声に、心臓が跳ね上がる。
「ッッ!? 誰!?」
振り向いた瞬間、時間がひとコマ止まった気がした。
そこにいたのは──さっきまで正面にいたはずのボクっ子。
(嘘でしょ!? あの子、さっきまで前にいたよね!? ワープした!? 瞬間移動!? どこで習得したのそのスキル!?)
ぱっちりした目で見上げながら、口元だけが甘く緩む。
「華楼公のお兄ちゃん、気分でも悪いの? ボクがお姫様抱っこして中に連れて行ってあげようか?」
(……お姫様……抱っこ……?)
ボクっ子の腕が、すでに抱える気満々で伸びてくる。
(お願いやめてぇぇ!! 俺のプライドが! この異世界での男としての尊厳があああ!!)
──そのときだった。
「貴方がた、おふざけもいい加減になさい」
ピシャリと響く声に、場の空気が一瞬で凍る。
振り返ると、良識の女性──セリーヌが五人の男たちを一喝していた。
(あっ……正気枠、来た……!!)
ユーリの胸に、かすかな希望の光が差す。
やっと登場した“まともそうな人間”に、魂が泣きそうになった。
「誰が叔母様ですか、お姉様と呼びなさいといつも言ってるでしょう」
「いや、お母様……お姉様はちょっと無理がありませんか? 事実、叔母なのですから」
(……あれ?)
「リーゼロッテ」
「は、はいぃぃぃ、ご、ご、ごめんなさい、お姉様です。これまた立派に若々しいお姉様です!!」
「はい、よろしいですわ」
(なにこの空気? なんか急に“まとも”の定義がグラついてきたんだけど)
「肌に艶もあってプルプルしてるんだから、お姉さんを強要しなくたって、セリアは十分可愛いよ」
「だ、旦那様……いけませんわね、そういうのは……夜に言ってくださいまし」
セリーヌは照れたように両手で口元を押さえる。
「なんて女たらしなんでしょう、この破廉恥勇者は……」
リーゼロッテの冷たい呟きが、グサッと耳に刺さった。
「いやだって、後宮と思って来たら、こんなむさくるしい男たちに歓迎されるとか、誰が想像しますかって話で……」
「それ、完全にあなたの願望ですわよね? 女だけで後宮が回る訳ないではありませんか」
「いや、まあ……そうなんだけど」
(正論なんだけど、ちょっとぐらい夢を見たって良いじゃん!!)
後宮への夢も、開幕秒で崩れた誇りも、今や黙って土に還ろうとしている──
と、そのとき。
「コホン」
セリーヌが咳払いをひとつ。まるで空気を切り替えるスイッチのように。
「ちょっと嬉しさのあまり取り乱してしまいましたが、内門を潜ったらちゃんと女性ばかりですよ」
「えっ、ホント」
(救いだッ……! 今、天から救いの声が降ってきた!!)
ユーリは内心で号泣した。
長かった。絶望の時間、約3分半。
肉体的には無傷、精神的には全損。
(よかった……まだ俺のハーレム、死んでなかった……ッ!)
「はい、本当です。なのでご安心ください、旦那様」
(ありがとう、セリア!!)
神様って、いたんだな……
「それに、ここにいる五バカ……じゃなかった、五人は後宮の管理を担う宦官長達です」
「五バカって……」
(今なんかさらっと雑に爆弾投下しませんでした!?)
「たまに登場するぐらいの男たちでしかありませんが、宦官ですので、旦那様の後宮が散らされることはありませんから、そちらも、ご安心くださいな」
「せ、セリアさん!!」
(そっちの“機能オフですので寝取りは発生しません”みたいな説明、逆に聞いててつらいんだけど!?)
セリーヌはくすりと笑い、手をすっと掲げて五人へと合図する。
「では、五人とも順番にご挨拶を。
──我らが華楼公様に、改めて“忠愛”をお示しくださいませ」
(ちょ、待って!? “忠愛”って、それヤバいやつだよね!?)
(俺の貞操、大丈夫!? えっこれ、そういう展開なの!?)
(やっぱりヒロインポジなの!? 誰か否定して!! モブでもいいから!!)
【あとがき】
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