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契約離婚したのに、元夫(王太子)が迎えに来ました ~隠し子と穏やかに暮らすはずが、執着されてます~  作者: 穴澤 空@4/11ドアマットヒロイン発売


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第二話 ノアを隠さなきゃ!

 お父さまがカイエンと話があるというので、私はノアの元へ行くことにした。


(カイエンは私も同席して欲しそうだったけど……)


 視察の話は、辺境伯と王太子でしておいて欲しい。


(面倒なことには巻き込まれたくないしね)


 私がカイエンとの契約結婚を言い出したのには、理由がある。

 戦争で荒廃した我が領地を、私の力で復興したかったのだ。

 もちろん、領主を継ぐのはルーファスお兄さまだけど、当分は王城で政治のややこしいことに対応している。その間はお父さまと私で、農業や交易で領地を盛り立てたい。そう思っていた矢先の王命による結婚だったからだ。

 結婚なんてしてしまったら、面白くなってきた農業の研究も、領地を駆け回る自由もなくなってしまう。


(それに、カイエンだってきっと、王都の華やかなご令嬢と結婚した方が、良いだろうしね)


 久しぶりにカイエンに会ったからか、出会った当初のことを思い出してしまう。 


(彼も、私との結婚は王命だから、くらいの気持ちだったろうし)


 戦後復興の会議に、お父さまの名代で参加したときに、カイエンとは初めて顔を合わせた。私の顔が誰かに似ていたのか、彼は一瞬驚いた表情を浮かべていた。


(誰かに似ていたのかしら?)


 でも、すぐに納得したように笑っていた気がする。人違いと気付いたのだろう。


(あの会議の最後に、いきなり陛下が私とカイエンの結婚を命じたのよね)


 長い会議の後なのに、カイエンと二人きりで話をしろなんて言われて……。


(カイエンったら、私を気遣って『王命ではなくても、大切にするよ』なんて言ってくれたのよね。あら、いい男じゃない)


 思い出して、つい笑ってしまう。


「お母さま、なに笑ってるの?」


 気付いたら別館の廊下まで来ていたらしい。

 私を見つけたノアが、駆け寄ってきた。


「ふふ。ちょっと昔のことを思い出していたのよ」

「むかしのこと?」

「ええ。ノアが生まれるよりも、少し前のこと」

「ふぅん」


 ノアを抱き上げ、頬ずりをする。

 真っ赤な、ガーネットのような瞳が私を映す。


(カイエンと同じ──王家の色の瞳)


 直系王族にのみ現れるこの瞳の色をカイエンが見たら、彼の子だとすぐにばれてしまうだろう。

 カイエンが今後、新たに結婚をするときに、ノアが王位継承争いに巻き込まれてしまうことだけは、避けたい。


(そのときはきっと、綺麗な令嬢を妃として迎えるんでしょうね)


 そう考えると、ほんの少しだけ胸がちくりと痛んだ。


「ノア、今夜は一緒にご飯が食べられないの」

「なんでぇ?」

「お客様が来ていてね。サリーと一緒に食べてくれる?」

「うん! 僕、サリーと二人でごはんたべる!」

 

 ノアを抱いたまま、別館の中庭へ出る。

 庭に着くと、ノアは私の腕の中から飛び出て、ブランコで遊び始めた。

 小さな中庭は、ノアを自由に遊ばせるにはちょうど良い広さだ。


(そういえば、避妊薬って完璧じゃないって知ったのも、今くらいの時期だったわねぇ)

 

 それはつまり、私がこの領地に戻ってきた時期でもある。

 三年の結婚生活を終えて、円満に別れ戻ってきた。そのすぐ後に、妊娠が発覚したのだ。


 (まさかそんなことってある? なんて思ったけど……。生まれてくれて、嬉しかったわ)


 ブランコに夢中になっているノアを見て、幸せを噛み締める。


(別れて戻ってきたときも、妊娠発覚のときも、お父さまたち皆、優しく受け入れてくれて──家族っていいものよね)


 あのとき、戻ってきた私にお父さまは「殿下から話は聞いている。お前を守るためとはいえ──殿下もよく決断してくれたな」なんて言ってくれた。カイエンも、お父さまに話を通してくれたのね。


(でも、「私を守るため」ってそんな──王命だったから仕方ないのに、お父さまったら気にしてたのかしらね)

 

「お嬢さま、そろそろお時間です」


 サリーがもう一人侍女を連れて、声をかけてくれた。


「ありがとう。ノア、サリーとご飯食べててね」

「はぁい」


 本館へと戻り、晩餐会の準備にとりかかろうと部屋に入ると、見慣れないドレスが飾られてある。


「アリサ、あれは?」

「カイエン殿下からの贈り物ですぅ」

「は?」

「視察でお嬢さまにもお話を伺うことになるでしょうし、そのお礼ではないでしょうかぁ」

「あ、そっか」


 私の瞳の色と同じ深い青色のドレスは、金色の刺繍が施されていた。


「ん? このウエストのリボンの刺繍って……」

「王家の模様ですねぇ」

「だよね。もしかして、このドレスプレゼントじゃなくて、貸し出し……?!」

「まさかぁ! プレゼントですって、私は執事のオセバさんから聞いていますよぉ」


 確かに、ドレスをわざわざ我が家に貸し出しをする意味もない。

 では、王家からのプレゼントという意味で、王家の模様が刺繍されているのだろうか。


「うーん。でも、王家の模様を身に纏うなんて、いいのかなぁ」

「お嬢さまは、一度は王家に嫁がれた身ではありませんかぁ。殿下にとっては、家族なのかもしれないですよぉ」


 そういえば、庭で会ったときも、今まで通りの口調や呼び方で良いと言っていた。

 彼なりの優しさなのかもしれない。


「そうね。せっかくいただいたものだし、綺麗に着ましょうか」

「はい! お任せくださいぃ」


   ***

 

 晩餐会、といってもお父さまとカイエン、それに私の三人だけだ。

 ダイニングルームへと入ると、二人はすでに座っていた。


「リュシー! 着てくれたのか。似合ってる」


 部屋の扉を開けるやいなや、カイエンは私の方に駆け寄り、手を差し出す。


(エスコートしてくれるのね)


 彼の手にそっと私の手を重ねる。


「ドレスありがとう。私の髪と瞳の色なのね」

「ああ。それと……」


 あと数歩で席に到着するというところで、彼の足が止まった。

 私の前に立ち、そっと髪に触れる。


(なんだろう。ちょっと……ドキドキしちゃう。カイエンにとっては、四年前までと変わらないことなんだろうけど)


 そう。カイエンは、私の髪の毛を触るのが好きだった。

 結婚していたときには、やたらと頭を撫でたり、髪にキスしたりしてきていたな。


(やっぱり王家の人って、そういう所作が洗練されているのよねぇ)


 カイエンは、ポケットから何かを取り出すと、私の髪を緩く纏めている箇所に、それを挿した。


「殿下……。あなたという人は」

「辺境伯、このくらいは許して欲しいな」


 それを見ていたお父さまは、苦笑いを浮かべている。

 

「髪飾り?」


 カイエンが挿した部分に手を触れれば、何かの石と細工の形が感じ取れた。


「あとでゆっくり見て。すごく──似合ってる」


 彼の目が優しく揺れる。


「カイエン……あなた」

「リュシー」

「離婚してるのに、私のこと家族みたいに思ってくれてるのね!」

「……リュシー」

 

 カイエンの眉が微かに動いたように見えた。


「どうしたの? 何度も名前を呼んじゃって」


 カイエンは軽く頷くと、再び私の手を取った。


「リュシー、君は──」


 何かを言いかけた。

 でも、その続きを言わずに、カイエンは微笑むだけだった。


(まぁ、いっか。何かあれば、そのうち言ってくるよね)


「リュシーは変わらないな」

「ふふ。王城にいたときよりも、腕力はついたわよ」

「農地改革で、現場に出てるから?」

「それにノ──、アっと……。そうなの。農業って腕力いるからね」


 引かれた椅子に座る。彼は優しく笑みを浮かべ、隣に座った。


「殿下──とりあえず、リュシーは相変わらずです」

「ある意味、安心しましたよ」

「なぁに、二人して」

「いやまぁ、とりあえずいただこうか」


 お父さまがワイングラスを掲げる。


「では、殿下のしばらくのご滞在が、実り多いものであることを祈って」

「えっ!」

「なんだリュシー。とりあえず、乾杯を」

「は、はい」


 高くグラスを掲げ、私たちはワインを口に含む。

 我が領地の南方ブドウで作られたワインが、口の中で甘く広がった。


(相変わらず美味しい──って、そうじゃなくて!)


「お父さま、カイエンの滞在って」

「ん? とりあえず三週間ほどはいらっしゃると」

「そういうわけだ。よろしくな、リュシー」


 カイエンがワインを片手に微笑む。


(う、嘘でしょ。ノアを……どうやって隠し続ければ良いの──!)

 

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