表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

《神童の付人》のちに、

 ―――それからの事はあまり覚えていません。目が覚めた時にはディア様が私に泣きついていたのだけは覚えているのですが、その前後の記憶が曖昧で、ここからは色々な人から聞いた内容となります。


 ディア様は聖女選抜試験の一日目に行われた学科、実技ともに優秀な成績を残されたらしいです。―――けれど、この町を支えてきた大聖堂が燃えていることを知ったディア様は二日目の最終面接を辞退してガラクと共にこの町へと戻り人命救助に尽力されたようでした。




「……ディア様! ―――ディア様!!!」


 体力が戻り、私が動けるようになったのは火災発生から三日目、完全鎮火した直後でした。そして、同時にディア様が倒れたという話が町中に流れ、軋む体でディア様の元へと駆けつけました。



 火事はあれからも広がり続け、彼女は動けぬ者がいると聞けば火の粉の中にも飛び込んで治癒を施していたようです。急患で運び込まれる患者の対応も寝ずに行い、誰一人死なせることなく、火傷も残さない治療をし続けた彼女の体はボロボロで、至る所に火傷の痕が残り、精神力が尽きて―――ついには倒れたのでしょう。


「多くの命を救ってきた貴女がここで死んでしまっては救われた者たちは、―――体は救われても、心は一生救われないではないですか!」


 ―――けれど、彼女を助けられる者はこの場に誰もいません。多少の知識を付けた程度ではどうしようもない現実に、私は無力を呪いました。


「そうです! 石蛇草で石化させれば!」

「やめておきなさい。この子を殺す気ですか」


 私は明暗だとばかりに鞄から毒草を取り出そうとすると背後から腕を抑えられ止められました。


「まったく。あれほどの代金を受け取ってしまったのに何もせずに帰っては《聖女》の名折れ。これくらいは私にさせてください」

「マリ……アンヌ……様?」

「はい。この私、《聖女》マリアンヌが来たからには安心なさい。というより、来るように仕向けたのはエリス、あなたですよ?」

「夢でも何でもいいのでディアを、ディアを助けてあげてください!」


 《聖女》マリアンヌ様が都合よく現れたという目の前の現実を私は理解できず、私は必至で縋りつくことしかできませんでした。マリアンヌ様の力により傷も消え、健やかな寝息を立てるディア様を見てようやく私も落ち着きます。


「ディア様を助けていただきありがとうございました。それと、さきほどは大変失礼しました」

「大切な人なのでしょ? これからもこの子と変わらぬ関係でいてあげてくださいね」


 マリアンヌ様のその言葉を聞いて、聖女選抜試験を途中で抜けてきたディア様は間違いなく不合格となっているだろうということを思い出しました。


「やはりディア様は《聖女》にはなれないのでしょうか……」

「あなたのせいではありません。このディアという少女が選んだことです。それに、試験など私の権力でどうとでもなりますし、そういう話ではないのです」

「……それは一体どういうことですか?」


 言っている意味を理解しようとしても理解できず、マリアンヌ様に訊ねます。


「すぐにわかります。それと、あなたに貰った金貨3枚、そのうちの2枚は保留としておきましょう。まったく、―――この者に《王都の聖女》の座を与えたかったものです」


 去り際のマリアンヌ様の言葉の意味を知ったのはその数日後でした。あの大火事で無理をしたためか、ディア様から治癒の力が消え失せていたのです。―――この日から、彼女を《治癒の神童》と呼ぶ者はいなくなりました。





 それから数十年の月日が流れました。


「大丈夫ですよ、エリス。治癒の魔法がなくても人を救うことはできます」


 治癒の力を失ったディア様はそう言ってすぐに薬学を本気で学び始めました。『これはあの時の金貨2枚分よ』と書かれた手紙がマリアンヌ様から届き、王都にある国立アカデミーへの私たち二人への推薦状が一緒に入っていました。そこでディア様は功績を残したことで国の援助を受けるようになり、ついにはディア様は国一番の薬師として人々を救う存在になられたのです。


「あ、ディア様。そこの石蛇草取ってくれます?」

「……この草も懐かしいですね。エリス、私は《聖女》になれなくて本当に良かったと思います」

「なぜです? 最終面接まで残られたのですよね?」


 聖女になれはせずとも、難関とも言われる筆記・実技試験を突破し、町の人の命を全て救いました。その実績だけで例え治癒の力を失おうとも、十分に聖女と呼ばれてもいい実績だと私は思います。けれど、彼女は自虐的な笑いを浮かべながら当時のことを話し出しました。


「ええ、ですが実技試験で明らかに私よりも凄い力を見せられて、やはり私は《聖女》と呼ばれるような器ではなかったと知ったのです。私は町の火災を知り面接を辞退したのは、一刻も早く駆け付けたかったのもありますが、《聖女》という不相応な称号から逃げたかったのです」

「……どうであろうと私はディア様を尊敬しています。憧れています。だから―――、いくらあなたが嫌だと言ってもプレイベート以外ではディア様と呼ばせてもらっているのです」


 もう何度目になるかわからない政府を私が言うとディア様は諦めて私に石蛇草を渡して自分の作業を再開しました。


「……大人になれば只の人になるような私には元神童という言葉が相応しいのだと思います。それにあの時の私には力がありましたが、エリス、あなたにはありませんでした。それなのにあれだけの大立ち回りは……、私を《聖女》と言うならあなたは《英雄》ですよね?」

「いや、あの時はディア様の付人として恥ずかしくない立ち振る舞いをするのに必死で……」

「ふふっ、冗談です。ただの思い出話ですよ」


 時は経ち、私たちはもう子どもと呼べるような歳でもなくなりました。あの頃にディア様が呼ばれた《治癒の神童》という呼び名は名実ともに元神童へとなり果て、その付人だった私は《ディア様の付人》として今もともに人々を助けたいという彼女の想いと共にあります。


「そうですね。これも思い出話なのですが。ディア様、けれどあなたは確かに治癒の力を持ち、その力で多く人を救っていらっしゃいました。私もその救われた一人です。―――《治癒の神童》に確かに救われたのですよ」


 神童、その期待を込められた言葉を背負わされた彼女は立派に責務を果たしたです。元、と付こうがその当時は町中が彼女が《聖女》になることを期待し、それに応えようと頑張っていたのを私は隣で見てきました。そして、その努力によって救われた命も確かに存在するのです。


「ちなみに今、貴女がなんと呼ばれているかご存じですか?」

「知ってますよ……、《治療の神》ですよね? 《聖女》ですら直せない難病すらも完治させるとかなんとか言われてますけど今代の聖女様が知識不足なだけでしょうに」


 当たり前のようにいう彼女は治癒の力が使える時から勉強を怠らりませんでした。知識がなければ効率的に癒せないと神童の時から言っていました。そして、治癒の力すらも不要な医薬技術を確立させたのです。


「今なら貴女が《聖女》を名乗っても文句は言われませんけどどうです?」

「冗談を。私はただの薬師、それで充分です。それに薬ならほとんどエリスも作れるではないですか」

「……それもそうですね」

 

 只の薬師となった元神童と、只の人だった薬師の私は共に薬を続ける。


「ディア、あなたの付人で私は充分なんですよ。神童の付人でなくなっても、高名な薬師でなくても、一緒に同じ景色を見たいだけなのですから」

「知っています。―――貴女も誰かを救っていますよ。少なくとも私もエリス、あなたに救われていますから。そのことは覚えておいてくださいね?」


 ディア様はしてやったりという言葉が聞こえてくるような笑顔でウインクを私に投げます。


「まったく、貴女は傷や病気だけでなく、無力を嘆いていた私の心まで救ってしまうのですから大した元神童ですよ」




 ディア様と《神童の付人》、のちに《神の付人》と呼ばれる私の物語はこれからも続いていくのでした―――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ