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《炎上》

 着いたのは日の沈んで数時間ほど過ぎた頃で、―――私の目の前に広がる光景はまさに火の海でした。


「……数件ではなかったのですか? これはあまりにも酷い」

「町の半分以上はいってそう」


 早馬で半日、大聖堂で大火災の報せを聞いてからなので恐らくは丸一日は経っているはず。ですが炎の勢いは衰えておらず、家屋を焼き燃え広がり続けていました。


「エリス!? どうしてお前がここにいる! ディア様の選抜試験はどうした!」

「ディア様を大聖堂に送り届けた後、この町の火災を知り戻った次第です。ディアさまはまだ聖女選抜試験を受けられているかと」


 私を見て怒り狂う町長にうんざりしながら事務的にディア様のことを伝えます。宥める町民をよそに会話が出来そうな人物を探すとディア様のご両親を見つけました。


「エルデさん、ケイトさん、ご無事で何よりです」

「ええ、ありがとう。あなたはセシリア様を心配して戻ってきたのかしら?」

「はい。教会が火元だと聞き居ても立っても居られませんでした」

「あの方ならあちらのテントでケガ人の救護をされてますよ」

「ありがとうございます。ディア様には護衛のガラクが付いています。試験が終わったらすぐに戻ってこられると思います。失礼します」


 私は二人に礼を言って教えてもらった場所へと向かうと、簡易なテントでせわしなく働くセシリア様を見つけました。


「よかった。無事だったのですね」

「ええ、私は大丈夫ですが町は酷い有様です。消化と救助にあたっている人たちが負傷しています。あなたはそちらへ応援をお願いします」

「そちらの救急箱は持ち出してもよろしいですか?」

「問題ありません。それは予備です―――」

「わかりました。では行って参ります」


 大切な人の無事を確認し、私はすぐに自分の為すべきことをするために行動を開始しました。ここにディア様はいない。小さな傷ですら簡単には治らないのです。


「あなたが無事に試験を終えて戻られた時には全てが終わっているように私が……」


 そんな決意を胸に、可能な限り最小限の被害で抑えるために消化活動の状況を見ながら町民から逃げ遅れた人がいないか尋ねながら町中を駆け回ります。


「―――強くなりましたね」


 そんな言葉が去り際に聞こえた気がした。けれど、本当に強いのはディア様だ。彼女は常に最善を探し、その結末に辿り着けるように日々努力している。私は彼女の横に並べるような人でありたいと、今の自分にできることを必死にやっているだけなのだから。


「姉ちゃん! あっちの家に子どもが残ってる!」

「ありがとう、ホープ。すぐに行くわ。―――これでよし。すみません! あそこのテントでもっとちゃんとした治療をしてもらえるのでどなたかこの方を連れて行っていただけませんか!」


 助け出されたばかりの動けない人に消毒をして包帯を巻く。もうすでに何度この作業を行ったかわからないが、それでもやらないよりはマシだと自分に言い聞かせて丁寧に処置を行う。声を張り上げて助けを呼び、応急処置をした女性のあとのことを近くの人に任せてホープの指さした方へ走り出します。


「それで、その子どもはどこ?」

「一番奥の部屋だと思う! 裏手に回った時に中から微かだけど声が聞こえたから!」

「消化は待てなそうね。私が行くからホープは誰か呼んできてから出口の確保をしておいてもらえる?」

「わかった!」


 もう何時間経ったかもわからない持久戦、疲労に鞭打ちを打って気合を入れ直す。どうやらこの家は燃え移ってまだ時間が経っていないようで、火災が広がっている大通りから少し離れているせいで周りの人たちは気付いていないようでした。


「だいじょうぶ、大丈夫……、火に飛び込むのは怖いけど、後悔するほうがもっと怖いから」


 自分に言い聞かせて火傷痕のある左腕を握りしめます。ディア様は私を救ってくれました。それは命をではないけれど、それと同等に大切な人生をでした。《治癒の神童》と言われ天狗にならず、その力でもっとたくさんの人を救いたいという彼女の想いを私は共有しているのです。


「よし、―――いこう!」


 木造の家は燃え広がるスピードが速く、中はすでに炎に包まれていました。私は鞄からタオルを取り出して口を覆い、できる限り煙を吸わないように低い姿勢でホープに教えてもらった左奥の部屋を目指します。


「っ!!!」


 途中で燃えた木片が落ちてきて私の左腕を掠めました。思ったよりも時間がないことを心に留め、慎重に周りを見ながら歩みを進めます。


「あっ! エリスお姉ちゃん!」

「ほんとだ! エリスお姉ちゃんだ!」

「―――リッドにソラ、無事ですか?」

「うん! お姉ちゃんは助けに来てくれたの?」

「そうだよ。怪我とかはしてない?」


 そこにいたのは教会で働いているクロードさんの息子たちでした。二人は私の姿を見て安心したようです。


「お父さんは外で頑張ってるからお留守番してた」

「うん。外は危ないって!」

「そうなんだ。けど、ここはもう危ないから私と一緒に家を出ようね」


 私はドアの外を指さして見せると二人は泣き出してしまいます。なぜならリビングの中が見渡せないほど火の勢いが増していたからです。泣き喚く子どもを二人も連れて火の中を進むのは自殺行為だと考え、抱えて走るしかないと腹を括ります。


「……ディア様、ごめんなさい。後のことはよろしくお願いします」


 私は覚悟を決めて石蛇草の軟膏を手足に塗り、丸薬にしたものも一気に聖水と共に飲み込みました。これで火の中で何が起きても私は平気なはずです。その後、全身が石になるでしょうがマリアンヌ様が治してくれることを信じることにしました。

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