《救助》
私たちは馬で街道を駆け抜けていきます。立ち寄ったあの村にまずは着くと違和感を覚えました。
「……血の匂い」
「まだ襲われたばかりのようだぜ!」
地面に残る血痕が乾ききっていないことからそんなに時間が経っていないようなので、急いではいますが助けられる人がいないか探すことにしました。
「姉ちゃんこっちだ! まだ生きてる!」
ホープに呼ばれて駆け寄るとそこには腕に斧が刺さったまま倒せている血まみれの男がいました。
「意識はありますか? 一体何が……」
「あ。……う、……逃げろ」
「―――まずはこれを飲んでください」
意識が朦朧としているようなので手持ちの聖水を飲ませます。斧は引き抜くと出血がひどくなりそうなので可哀想ですがそのままにさせてもらいました。
「はぁはぁ……、ありがとう。助かった、だがお前らも逃げろ。見たこともない巨大なコボルトに襲われたんだ。あいつは俺を襲って食料を奪うと去っていったがまだ近くにいるかもしれない」
「ディア様の予想通り、何か起こったみたいですね。……とりあえず、あなたは治療を。マリアンヌ様がもう少ししたらいらっしゃるのでそれまでなんとか生きてください―――」
男が話せる程度まで体力が回復するのを待って何が起こったかを聞きました。そして私は彼を励ます中でディア様が言ってた言葉が頭をよぎりました。
『エリス、毒も薬も使いようだよ。もし一刻を争うような人が私の前に現れて、対応できませんと他の教会を紹介したとしたらどう? そこに辿り着く前に死んでしまうとは思わない?』
まさに今そういう状況なのではないか? そう思うと自然に体は動き、鞄の底にしまい込んだ薬を探して取り出していました。それは石蛇草という毒草からつくられた毒の軟膏、塗ると石化してしまう毒物でした。
「斧を抜いて止血します。命も腕も、失ってさえいなければ《聖女》のあの方なら直せるはずです」
このまま斧が刺さったままでは移動もできず、ただのコボルトにでも襲われたら殺されてしまう。それどころか、出血によりもっと早くに死んでしまうかもしれない。そう思うと覚悟は驚くほど速く決まり、ホープに腕の斧を抜いてもらい軟膏を塗ります。すると次第に効果が表れ、傷口から石化が始まり肩まで石となっていきます。
「おいっ! 腕が石になってきてるけど薬を間違えたんじゃないのか!?」
「問題ありません。ディア様と実験を行い安全性は確保されています」
塗布する量も問題なかったようで、きちんと腕が固定され血も出てこないことを確認して包帯を巻きました。
「このような事態まであなたは見越していらしたのですね。……ありがとうございます」
ディア様の慧眼に私は感嘆し、彼を無事に助けられそうなことに安堵します。―――それは私が誰かを見殺しにして後悔するという事態を回避させてくれたことも意味し、ディア様に感謝しました。
「もう村には人もコボルトもいないようだぜ?」
「そうですか。ならこの方を放置するわけにもいきませんし移動しましょう。他の村人たちはどちらへ避難されたのですか?」
「離せ! 助けてくれようとしている事には礼を言う! だが、オレはここで村を守らなければならんのだ!」
「先ほども申し上げましたが、もう少ししたらマリアンヌ様がいらっしゃいます。そしてその護衛に腕利きの騎士を連れてくるとおっしゃっていました。あなた方の話していらしたコボルト清掃戦、それに参加するために」
私が清掃戦の話をすると《治癒の神童》と共にいた付人だと思い出したようで、《聖女》が来る目的を話したところで男の目に光がようやく宿りました。
「そうです。あなたが命をかけて守らなくてももういいのです」
「そう……、なのか……。だが、なぜあの少女ではなく《聖女》様が……」
「その話は村を離れてから道中でお話します。ここはまだ危険ですので」
ディア様の素晴らしさとともに、彼女がこの村を助けてほしいと《聖女》に対して依頼を出したことを伝えると、昨日の無理な引き留めを悔いているようでした。もし村の方が清掃戦を強行した場合、ディア様は恐らく同行されたでしょう。けれどその場合、聖女は動かず、コボルトたちも徹底抗戦となるため犠牲も大きかったはずです。
「今は命の無事を喜んでください。その方がディア様も喜ばれます」
男を村が見渡せる小高い丘へ連れていくと、避難していた村人に引き渡しました。そして、男にした説明と同じ内容を村長に伝え、再び馬を走らせてスタック町へと私たちは向かったのでした。