《治癒の神童》
癒しの力、それは8歳前後の少女のみが覚醒する稀有な力で、神様からの祝福とも呼ばれていて、力に目覚めた少女たちはこのカルメディ王国の庇護のもと管理下に置かれ各地の教会でその力を振るっていました。
「早く腕を出してください。そのままでは皮膚に服がくっついてしまいますよ? ―――エリス、聖水をください」
「わかりました。―――どうぞ」
このスタック町の教会で治療にあたっているのは《治癒の神童》と呼ばれているディア様で、私はその付人をしています。火傷を負ったという女性が服を捲って腕を露出させると大きな水膨れができており、治療を施さなければ痕が一生残ると私が見ても分かるほどの火傷を負っていました。
「沁みますけど我慢してくださいね」
「―――っ!」
「大丈夫ですから。力を抜いて―――」
ディア様は患部を聖水で清めてから両手を女性の腕に触れるか触れないかの位置まで持っていき、女性に声を掛けてから癒しの力で治療を始めます。手のひらから淡い緑の光がじわりじわりと広がって周囲の赤みが次第に引いていき、数分後には水膨れも消え去りました。
「はい、これで終わりです。もう火傷をしないように気をつけてくださいね」
「はい! ディア様がいなければ一生を長袖で生活するところでした。本当にありがとうございました!」
「女性の火傷痕は特に痛々しいですからね……。すぐに治療すれば痕も残りませんから、周りの方にも火傷を負ったらすぐに私の元へ訪れるようにお願いします。時間が勝負ですから優先的に診させていただきます」
臨機応変、優先順位は付けるが訪れる全ての者に等しく癒しの力を振るう姿にディア様を聖女と呼ぶ者さえいましたが、聖女と呼ばれるほどではないと本人はそれを否定し《治癒の神童》という呼び名が定着しています。
「お疲れ様でした、ディア様。さすがは《治癒の神童》と呼ばれるだけはあります」
「ありがとう、エリス。けど、それは皮肉かしら? 私は聖水の力を借りなければあの程度の火傷も直せないのよ?」
「治ってしまえば同じですよ、患者は気にしません。それに、もうすぐ《聖女》と呼ばれるようになるかもしれないのですから最後の戯れだと思ってください」
4年に一度、聖女選抜試験というものが行われ、国の威厳を示すための御旗となる《聖女》の称号を得る機会が訪れます。ディア様は《治癒の神童》と呼ばれながらも本人の言うように力自体は普通より少し下のようです。けれど、ディア様を知る人間は誰もが《聖女》となられることを信じていました。
「ディア様、本日もお疲れ様でした。こちら炊き出しの南瓜スープになります。よろしければどうぞ」
「ありがとうございます。セシリアさんもお疲れ様です」
診療時間も終わり、セシリアさんが私たちの元へとやってきてディア様を労ってくれます。国から派遣されてきているセシリアさんはこの教会の最高責任者であり、ディア様のお目付け役のような人でした。
「―――何人も祝福持ちの方を見てきましたが、大半は今の生活のために嫌々でしたからね。身の入らぬ治療など雑としか言えませんでした。その点、ディア様は十分すぎるほど頑張られておられます」
「え?」
「先ほど、エリスが言っていた話です。力の大小など治ってしまえば患者にとっては関係ありません。《聖女》となられる方に大切なのはディア様のような丁寧な仕事と心遣いだと私も思います」
「……そう言ってもらえるなら少しは報われますね」
そんなセシリアさんからの言葉はディア様に響いたようで、南瓜スープを口へと運ぶディア様からは安堵した表情が見て取れて、本心でそう思っているのだと感じました。
「私はまだ仕事があるので失礼しますが―――、ディア様はいつもの図書館へ行かれるのですよね?」
「はい。今はなんとかなっていますけど、もっと学ばなければいざという時に役に立てませんので。それに聖女選抜試験も近いですから……」
「そうですか。―――エリス、これを。ディア様をお願いします」
「わかりました。お疲れ様でした」
私に聖水の入った瓶を一本渡して教会の奥へと戻っていったセシリアさんは、恐らくこれから書斎に籠って事務仕事を始めます。昼間は表に出て炊き出しを指示していたはずなのに休みなしで働き続けるあの人も、ディア様同様に少しは休んでほしいと私たち教会で働く人間は願っていますが無理なのでしょうね。