森で育った少年.1
「おはよう!!」
まだ、太陽が森を照らすよりも少し早い時間に元気な少年の声が森を駆け巡った。
大樹フラナルの枝に住んでいるエルフも、
人の半分ぐらいある大きくおかしな色をしたキノコの中に住む小人族も、
生い茂った森を抜け大きな滝を渡った先に住んでいる動物たちも
ほんの5年前から毎朝この声で起こされている。
フランダル「おはよう!フィン!今日も元気だね」
エルフのフランダルはこの少年の声を目覚まし替わりにしている。
ピピノ「おはよ!フィン!後で一緒にさ森で遊ぼうなのさ!!」小人族のピピノとは友達で毎日楽しく森で遊んでいる。
朝が来る。フィンの大好きな一日が始まる。
朝、フラナルの住人に挨拶を済ませたフィンはまず日課の剣の素振りをする。まだ12歳のフィンは長い剣を振るうことは出来ないので短剣より少し長い剣を振るう。
そして、森の動物達と手合わせをする。
フィンの相手をするのは、ガルモンドである。
ガルモンドは真っ白で綺麗な毛並みを持ち、まるでサーベルタイガーのように大きな牙をしている。そしてホワイトタイガーよりひと回りも大きい巨体で素早く動く。
そんな彼はフラナルで随一のスピードと攻撃力を誇る動物であり、フィンの狩りの師匠兼育ててくれた親代わりである。
フィン「ねぇ、ガルモンド!僕、強くなった?」
12歳になっても純粋で屈託のない笑顔は昔から変わらない。
12年前、嵐の夜に大樹の根本で見つけたあの日から
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このフラナル大陸にはいろんな動物、種族もいるが唯一人間族と魔族がいないのだ。
聞いたこともない大きな雷の音を聞きつけガルモンドたちは雷が落ちた場所に確認しに行った。
雷が落ちたわりに被害がなく、ただ雨が降っていた。
ふと横に目をやると光る籠が落ちていた。
ガルモンドが見つけ近づいたとたん光が消え中から子供の泣き声が聞こえてきた。
フランダル「な、なぁ、ガルモンド。これ、、、」
フランダルは驚いた。
突如現れた籠の中から人間族の子供の泣き声が聞こえる。
あたりを見渡しても誰かがおいていった形跡はなかった。
ガルモンド「魔力探知を行った。この周囲にこの籠以外の反応はない。
ただの雷ならさほど気にならなかったが、、、」
フルル「これは、あまりにも、これは、、この子の放つ魔力なのかの?」
小人族の長であるフルルは何よりもその膨大な魔力を放つ赤子に一種の恐怖を感じていた。
フランダル「ガルモンド、この子は危険だ。人間族っていうだけでフラナルでは警戒されるのにこんなっ膨大な魔力、、、危険すぎる。」
困惑と苦悶の表情を見せた。
森にとっては一大事である。
人間族はフラナルの森でとれる珍しい植物や動物を乱獲し密輸入した過去があった。
ゆえに人間族に対していい印象を持っていない。
そして、この魔力は別格の量だった。
人間族は多種族よりも基本的に魔力量は多い。
魔族、エルフ族に次いで多いがこの赤子は魔族のそれに匹敵する。
フルル「結論を早まるな!フランダル!さすがに赤子に手をかけるのは気が引けるの。
しかし、危険であることは変わりない。
一体どうしたものか、、人間族はこのフラナルでは受け入れられないの。
この子をここに置いていても何もいいことが起きないの。
はっ!!フラナルの外に置いていこう!!
フランダル!ガルモンド!人間の子は人間に任せようの!!」
フルルは最良の案だと思った。
ガルモンド「赤子だぞ!!もし、フラナルの外に置いて人間に気付かれなかったらこの子はどうなる。魔物に襲われたら?後味が悪すぎる。それに見ろ。」
一同はその籠の中に目を向けた。話し合いが行われている間いつの間にか風も雨もやんでいた。
雲の切れ目から漏れた光が籠を差した。
籠の中の赤子はガルモンドたちをまっすぐ見つめていた。
大きな目に少し緑がかった青色の瞳。
透き通るような白い肌に綺麗な白い髪。
そして、屈託のない笑顔だった。
ガルモンド「俺が育てよう。
隠す必要もない。みんなに認めさせる。
この子は脅威ではないと思ってもらえるようにまっすぐに素直に育つように。
幸いにもここにはフラナルを支える三人がそろってる。」
フランダル「しかし!!」
異を唱えようとしたフランダルを遮るようにフルルは口を開いた。
フルル「ガルモンドが面倒みるなら安心だの。
それにこの笑顔を見てしまったらもうほかの選択肢はないだろう。
フランダルも協力してくれるかね?」
フランダル「しかし、、、もしも脅威としてこのフラナルに不幸をもたらしたら例えばその子を理由に人間族が攻めてきたりでもしてきたら。」
何よりもフラナルを想うフランダルはまだ不安をぬぐい切れなかった。
ガルモンド「その時は俺が責任をもって戦い。
この子を殺そう。俺なら遅れを取ることはない。
説得は二人に任せた。
フランダル、お前が言うならきっとここに住む者たちも説得できる。
フルルも頼む。この子が正しい心を持って育つようにみていってやってくれ。」
フランダル「、、、、わかった。お前の言葉だ。約束を違わないだろう。」
諦めた顔をした。そして、その中には安堵の様子も見せた。フランダルも殺すことに納得していなかったのだ。不安のあまりに思ってもいないことを口走ってしまったことを後悔した。
フルル「しかし、この子の名前はどうする。私たちでつけるかの?」
フランダル「籠を見ろ。何か書いてある。それに何か入ってる。」
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ガルモンド「フィン、まだまだだな!!そんなんじゃいつまでたっても俺には勝てねーぞ?」(正直、この年でこんなに強くなるとは思っていなかった。魔法は魔力量が多いから生活魔法程度しか教えていないが、、、、これは自分で練習してるな)
フィン「お父さん!!いつか、お父さんみたいに大きくなって僕一人でも生きていけるようになる!!それでね!いつか、、その、、、冒険に、、」
ガルモンド「だめだ。ここに何の不満がある。ここで俺たちと一緒に過ごすんだ。それにそんな弱かったらフラナルの外に出た瞬間殺されるぞ!!」
ガルモンドは不安だった。
フラナルを出てしまったらフィンは戻ってこなくなってしまう。
そしてきっと人間族に騙されて路頭に迷ってボロボロになっちゃったりなんかしちゃったりして、、、、
そんじゃそこらの人間族なんかに負けないぐらい強く育てた。
でも、、、、フィンと離れるのは嫌だと思うのであった。
フィン「はい、、、(それでも僕は外の世界を見てみたい。冒険に出てみたい。)」
フランダル「おーい!フィンくーん!
今日はフィンの好きなハクル川で取れるバンクフィッシュとルンゴの実を持ってきたよー!!
朝は挨拶ありがとうね!
フィン君こんな奴と毎日毎日修行って大変じゃないかい?
私のところで毎日ゆっくりお茶菓子でも食べながら過ごしてもいいんだよ?
実は、フィン君のための部屋を作るために家を拡張しているところなんだ!!
もちろんフィン君の部屋が一番大きいよ!!
こんな小屋じゃなくて私のところくればいいよ!
本当に可愛いね!
フィン君!よくこんなやつのことろで育って礼儀正しく育ったものだよ。」
ガルモンド「やめろ。フィンが怖がってるだろ。まず、離れろ。頬ずりをやめろ。」
フィン「だ、大丈夫だよ。お父さん。僕の好きなものばかりだ!いつも本当にありがとう。フランダルさん!!あとでお父さんと一緒に三人で食べよ?」
フィンは少し困った顔をしながら笑みを浮かべて言った。
フランダル「フィン君なんていい子なんだろう!!あとで一緒に食べようね。いや、今食べよう!一緒に食べよう!!」
フィン「今は一緒には食べれないんだ!この後、ププルとピピノと三人で遊ぶ約束をしてるんだ!!だから行ってくるね!お父さん!フランダルさん!」
ガルモンド「おう!あまり遠くの森へ行くなよ!」
小さくなっていく背中を見送るガルモンドは少し寂しい表情を浮かべた。
フランダル「本当に真っ直ぐで優しい子に育ちましたね。フィン君は今もまだ?」
ガルモンド「あぁ、この大樹の森フラナルを出て冒険をしたがっている。まだ、一緒に居たいがこれ以上フィンを留めていても不満が募るばかりだ。それに、、、」
フランダル「自分が何者であるかを教えなくては行けないね。周りのみんなと違う事に違和感を感じてくる頃だ。」
ガルモンド「そうだな、そろそろうちの可愛い可愛い息子に教えてあげなければ行けないな。今夜、話をしてみよう。いよいよ、この時が来たって感じだな」