忘れ物
己で決めた「1か月1執筆」相変わらず意志も頭も弱く破るのはこれで2回目ですが、
言い訳させてください。
えぇ?聞きたくない?すみません。
「お待ちしておりました。」
重たく分厚く冷たく、まるで外界との関りを拒絶しているかの様な大きな鉄の扉を開けると、
何時も聞いている様な、でも誰の声か分からない優しい声が耳に届く。
「『お待ちしておりました』とは占い師かの様な口ぶりだな。」
「はい。私は占い師なので。貴方の言う通り『お待ちしておりました。』は、
占い師の挨拶みたいなものですね。」
「じゃあ何か?此処は占ってくれるのか。」
男は、その言葉を自分で理解した時、(何故、自分は占い師の所に居るのか)疑問に思った。
「貴方自身が何故、此処を訪れているのか解せない。ということも解っておりますよ。」
「俺の言葉から得た事実を後から、さも知っていたかの様に言いやがって、
いちいち癪に障る奴だな。」
「いいえ。貴方を見れば良く分かります。」
「じゃあ、俺を何処を見て如何分かるのか説明してみろよ!」
男がそう言うと占い師は黒く重いフードから顔を半分覗かせ隻眼で男と目を合わせる。
男がその顔を見た時、何時も見ている様な、でも誰の顔か分からなかった。
「1つ...」
「1つ?ッチ!」
「その苛々です。貴方は此処が何処かも分からず入ってき私に対して横柄な態度をとっています。
2つ目、何故、貴方は此処が何処か分からないのでしょうか。
3つ目、貴方が発する酒の香り、手の震え。
以上の事から貴方はアルコール依存症であると分かります。」
「...。それだけでアルコール依存症と決めつけやがって。」
「そのペットボトルの中身、もしかしてウイスキーではありませんか?
そうやってお茶のラベルを付けたままウイスキーをペットボトルに入れ持ち歩いている。
それをこの数分で何度も飲んでいる。
つまるところ社会のストレスにさらされアルコール依存症になり故に仕事が手に付かず、
会社もクビになり夜も眠れずこんな夜遅くまで外で飲み歩いている。」
「...」
「図星ですね。もうそのマスクもガムも必要ありませんよ。
そんなことをしても貴方から発せられる酒の香りは誤魔化せません。」
そう言われるも男はマスクもガムも止めない。
「ふん。占いとは名ばかりだな。お前が今言ったことは名ばかりの目に見える真実だけじゃねぇか。
占い師なら俺がこれから先どうなるのか占ってみろよ。
実際は俺が今日、この時間に、この場所へ来ることすら占えなかったんだろ。」
「私は貴方の全てが分かりますよ。貴方は2分後に再度ペットボトル内の酒を飲みます。」
「ククク...クク...ぶぁはははは!何だそれ!?それが占い!?俺はてっきり
『貴方は今年アルコール依存症が治りますよ!』とか『今年は良い女と出逢えますよ!』とか、
そういう占いを期待していたんだがな!!はっはっはっはっ!
お前は少しは頭の切れる奴だと思っていたが、
とんだ期待外れだな!!!開いた口がふさがらねぇとは良く言ったもんだぜ!!!!あはっ!あははははは!!」
「...」
「んぁ?あぁすまねぇ...俺...ククク...笑い、笑い上戸でよ!!ぶぁはははは!」
重苦しかった空間が男の側のみ、これでもかと笑いに溢れる。
「んですね...」
「あ?」
自身の笑い声に占い師の声が掻き消され男が聞き直す。
「...」
「悪かった。悪かったよ。ほら、もうこんな時間だ。そろそろタクシー捕まえて帰るか。
いや~最初はいけ好かねぇ奴だと思っていたが、こんなに笑ったのは久々だぜ!また来るわ!」
男はそう言いながら自身の腕時計に目をやるがそれが無い
「あれ?腕時計が無い...おい!俺の腕時計を知らねぇか!?」
男があちこち見渡し腕時計を探していると再度、占い師が言う
「そうやって全て忘れるんですね。」
そう言うと占い師は机上のある場所を指差す。
「ん?」
指差す先には男が付けていた腕時計が光っていた。
「あぁ!良かったぁ!知らねぇ店で忘れもんしちゃ取りに行き様がねぇからな!はっはっは!」
そう笑いながら腕時計をジャケットの胸ポケットに入れペットボトル内の酒を飲む。
そうすると占い師が机上にスマートフォンを置き電源を入れると、その画面は2分を示していた。
「何だよ」
男は疑問に思いながらも再度扉に手をかけ重い扉を重いが故にゆっくりと開ける。
「本当に忘れているんですね。」
そう占い師が言うと扉が支えられない程の重さになり扉が閉まる。
扉は更に冷たくなっていた。
「なんだよ...!」
そう言いながら男は振り返り、フードから見える占い師の半分の顔を再度見るが未だ思い出せない。
「2分」
「2分?」
「貴方を占いました。」
占い師は机上に自身の右肘を置き右掌を宙に浮かせ言う。
「何だ?あのイカサマ占いで金でも取ろうってのか。」
「いいえ。占いはまだ終わっていません。
『2分』これは先程、私が『2分後にペットボトル内の酒を飲む』
と貴方を占った際の時間です。」
占い師がそう言うと男は自身の左手首を見るが、其処には何もない。
「先程の貴方の時計。女性物ですから小さく失くし易いのでお気を付けて。
また、そんな場所に入れておいては失くされますよ。
動いていないにも関わらず貴方は、その腕時計を大切にしているのですから。」
「そんなことをいちいち言う必要があるのか。喧嘩を売ってるのか...?
そもそもそのスマホの『2分』なんて予め準備しておけば幾らでも占えるだろ。」
再び部屋は重たい空気で充満する。
「喧嘩は売っておりません。ですから再度そちらにお座りください。」
促す為、占い師は机上の右掌で男が座っていた席を指す。
再び扉を開けようとするが扉はもう開かない。
男は諦め席に着く。
「先程の占い。貴方の言い分は半分正解ですが半分間違えです。」
「本当いちいち癪に障る言い方しやがって。」
「占いの『2分』は私の為の2分です。」
「どういうことだよ。」
「私が2分後に貴方にそれを飲ませたのです。
貴方は気付いてないでしょうが私がこのお茶を飲んだ時、
ミラーリングと言い貴方もその酒を飲んだんです。」
「なんだ。今度は心理学か?占い師なんてお前の様に恰も相手の未来が見えているかの様に話しながら、
実際はお前の様な奴ばかりなんだような。それが言いたかっただけなら俺はもう帰るぞ。」
男が言い終えるの待った後、占い師は男の胸を指差す。
「その時計、何故、付けないのですか。女性物だからですか。それとも動いてないからですか。」
男は怒り机を叩く叩きながら言う。
「それがお前に何の関係があるんだ!?俺の勝手だろうが!」
「貴方は、そうやって何度失敗してきたんですか...!」
今まで優しかった占い師の声が硬くなる。
「貴方は社会に耐える為、酒に頼ってしまった。
者が信じられなくなっていたが故に物に頼ってしまった。
周りには貴方の力になってくれる人が居たのに貴方はもう既に周りが見えなくなっていた。
順序を誤ったのです。周りに迷惑をかけまいと酒で自身を制御しようと考えた。
しかし貴方は酒に呑まれてしまった。決して酒が悪いとも酒に頼るなとも言いません、
貴方は酒に頼り過ぎた。それよりも前に頼る人が居たはずです。貴方自身。それから奥さん。
その時計は奥さんが忘れて行ったとても大切な思い出の腕時計。
貴方は、そうやってペットボトルの酒、マスク、ガム...
自分ではちゃんと気付いているじゃないですか。
その証拠に私の占いを半分見破った。貴方は弱い人間ではないはずです。」
何時の間にか占い師の隻眼が涙で光る。
男は呆気に取られていた。
自分が散々さっきまで馬鹿にしていた似非占い師。
占いと言うだけでこんなにも自分の事を当てられるものなのかと。
「貴方が私の占いを馬鹿にした時を覚えていますか。」
「い、いや...」
「貴方はこう言いました。
『貴方は今年アルコール依存症が治りますよ!』『今年は良い女と出逢えますよ!』と、
いっけん占いの定番を言っている様に聞こえますが貴方は言っていたんです無意識に自分の願望を」
男は無意識に腕時計を握り締めその拳は涙で濡れていた。
「今から私が貴方の未来を占いましょう。」
そう言って何か準備するかと男は思ったが占い師は矢継ぎ早に話す。
「貴方の、その願望...叶いますよ。」
涙が溢れた。
自分が壊れた時、何度も何度も聞いたその他人事の励ましの言葉。
だが何故か、その占い師のそれは違っていた。
重く自身の底にとんでもない存在感で沈んで行く...。
底に沈んだ時、舞う砂煙。
その時、大量に大切な思い出が登って来る。
何度も何度も神に裏切られ最後に辿り着いた神が男にとっては酒だった。
その酒にすら裏切られていたが、もうその頃には止められなくなっていた。
「貴方だけではありません。皆がそうなのです。
皆この世の中、何かに依存していなければ生きて行けないのです。
ですが1つに依存してはいけない。依存先は複数なければ仮に依存先が無くなってしまった場合、
その人は最悪の決断をしてしまうのです。
そういう人は周りが見えなくなっている。目の前が真っ暗になっている。
それは貴方も知っていますよね。」
男は涙で前が見えなくなっていた。
「夢に寿命は確かにあります。ですが貴方の夢に寿命なんてありません。
あの女は壊れる前の貴方を知っている。酒を断つことが出来れば必ず帰ってきますよ。
その時は、一緒に娘さんも帰って来てくれるはずです。
貴方はとんでもない過ちを犯しました。その事実に変わりはありません。
ですがその夢が叶う確率、これからの貴方次第で幾らでも変わります。」
男は多少落ち着きを取り戻し聞く。
「貴方は、一体...」
占い師は半分の口で微笑む。
「私は常に貴方の側に居ます。
ですが分かっていると思いますが。もう2度と私と会うことは出来ません。
これが最後の警告です。
私は何時でも貴方の味方です。」
「そうか...ありがとう...何故こんな所に来たのか全く思い出せないが貴方に会えて本当に良かった。」
「さぁその扉はもう厳しくないはずです。」
「ああ。ありがとう。私、今なら叶う気がします!」
「あ、ペットボトル忘れてますよ!ってもう居ないか!」
男が目を開けると先程の暗い店内とは打って変わり暫く目が眩んでいた。
右手首に違和を感じ慣れた目で見ると点滴の針が刺さっていた。
「先生!目を覚ましました!」
左手首には腕時計が付いていた。
言い訳タイム。
思いつくアイデアで全然キャラクター達が動いてくれず幾つもアイデアの片鱗は思いつきますが、
能の奥深くにまで浸透せず鋼の石頭になっていました(どっちやねん)。
この話は一瞬でキャラクター達が動いてくれたので助かりました。
書けない時って皆さん如何してるんでしょうか...