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9. 自覚

目を覚ますといつものように真横に感じる温もりにルークがいるのだと気付いたクリオネットは起こさないようにそろりと抜け出し、朝食の準備を始める。

あの日からとても顔色の良くなったルークは遠出こそしないものの忙しそうに仕事に勤しんでいた。

自分が恩返しできるのは、与えられた仕事を完璧にこなす事だけだと言い聞かせながら準備をしていると階段から降りてくる音が聞こえてくる。


「おはよ、リネット。」


「おはようございます。」


「いつも思うけど、朝早くない?もっとゆっくり寝てて良いんだよ。」


「それはルーク様ですよ!昨日も遅くまで作業されていたのですからもう少し寝てて下さい。」


「リネットが寝るなら考えてもいいけど?」


「私はもう目が覚めたので…。」


「なら俺も同じだよ。それより久しぶりに町に行かない?新しい服を買おう。」


「今あるもので問題ありませんよ。」


「リネットと一緒にお出掛けしたいって意味なんだけど。断られてるってこと?」


「そ、そういう意味だったんですね。私で良ければ是非!」


その言葉に嬉しそうな表情をするルークに良かったと安堵の息をついた。

朝食を終え、準備を済ませると町へと歩き始める。


「今日はターバンされないのですか?」


「せっかくリネットと二人で出掛けるのにあれ付けてたらおかしいだろ。」


ふっと笑み浮かべたルークのその姿は角をしまっているとはいえ、明らかに周りから逸脱した存在で。

慣れ始めたとはいえつい顔を赤らめてしまった。

隠すように少し歩幅を緩め、辺りを見渡すことで気持ちを落ち着かせようとしているようだ。

初めてここに来た頃は全てが新しい発見ばかりでずっと視線を彷徨わせていたが、気付けばもう約三ヶ月。

少し慣れてきたとはいえ、まだまだ彼に迷惑をかけることが多い。

暫くすると現れたのは以前行った港町ではなく、ステンドグラスの大きな窓が印象的な建物が立ち並ぶ美しい町だった。


「綺麗…。」


「ここはガラス細工が盛んな町だからね。それに装束の生産も盛んなんだ。ここがオススメかな。」


促されるまま中へと入るとお洒落なワンピースや、夜会に着ていく派手なドレスなど様々な物が並べられている。


「あら、ルーク様。来てくださったのね。」


透き通るような綺麗な声に振り返ると、白銀のロングヘアを靡かせながらこちらに歩いてくる美女が現れた。

ルークの横に並んでいても引けを取らないほどの彼女は笑みを浮かべながら楽しげにしている。


「シャイア、彼女の服をいくつか用意してくれないか。」


彼の言葉にやっとクリオネットに視線を向けると上から下まで見て困ったような表情を見せた。


「まだ子供じゃない…。ルーク様とはどういうご関係かしら?」


「一緒に住んでる。」


「え…?それってどういう…?」


「す、住み込みのお手伝いとして雇って頂いてます。」


「そうだったの。ルーク様にご迷惑をかけてはダメよ。さぁ、こちらにいらっしゃい。」


手招きされるがままフィッティングルームに入れられ着せ替え人形のように次々とワンピースを試着して行く。

ルークの好みはハッキリしているようで、ひと目見て良し悪しを判断しているようだ。

2時間程で新しい服を決め、フィッティングルームから出る頃には会計まで済まされている。


「ル、ルーク様!私、払いますよ!?」


「俺からのプレゼントなんだから受け取ってよ。要らないなら捨てる。」


「い、要ります!ありがとうございます。」


「うん、それでいい。」


「ルーク様。少しお話したいことがあるのですが、お時間いただけますか?」


潤んだ瞳を向け声を掛けたシャイアに仕方ないと小さくため息を吐いた彼はすぐ近くにあるカフェガーデンにある席へとクリオネットを座らせ、紅茶とケーキを頼むとここでいい子にしてるように伝え少し離れた位置で彼女と話し始めた。


…何の話かな。


二人だけの空間は別世界のようで道行く人々の目を引くのは十分過ぎるほど。

聞こえてくるお似合いの二人という声に心がチクチクと痛むの

はなぜだろうか。

ルーク様にとって私はただの子供。

妹のように思われているだけ。

きっとあの時の"キス"もただ体調不良を治すための手段に過ぎなかったのかもしれない。

こちらをチラリと見たシャイアの表情は冷たく、明らかに敵対心を持っているのがわかる。

育った環境柄、悪意等にはかなり敏感だ。


私、また邪魔者になっている…?


確かに周りの人が言うように二人はお似合い。

よろけた彼女を抱きとめたルーク。

そして二人の唇が近づいていくその姿にこれ以上見ていたくないと立ち上がったクリオネットはその場を離れるべく町外れへと移動した。

ここで良い子にと言われたけれど、どうしてもあの場にいられないと衝動的な行動をしてしまったことに少し後悔しながら邪魔にならないよう街の立て看板の横にしゃがみ込み膝を抱える。


「…どうした?」


いきなり聞こえて来た声に反応して視線を上げると茶髪に蒼眼の青年が心配そうに覗き込んでいた。


「だ、大丈夫です。」


「その割には目が潤んでるぞ。」


「っご、ごめんなさい。」


「謝る必要はねーって。それより、ここは昼から急激に冷えるんだ。その格好で外にいたら凍えちまう。」


そういった彼は近くにある小屋へと案内した。

暖炉には既に火がつけられ暖かい。

確かに急激に気温が下がっているようで窓が温度差で結露し始めている。

テーブルに椅子が二つとベッドが一つ。

そして、木細工用の道具が整然と並んでいた。


「オレはキースだ。よろしくな。」


「私はクリオネットと申します。いきなりお邪魔してしまい申し訳…。」


「オレが連れてきたんだ。気にする必要はねーよ。この辺の人間じゃないよな?一人で来たのか?」


「いえ、連れてきて頂きました。」


「お、連れがいるのか。心配してねーの?」


「…。」


「なるほど。連れと何かあったんだな。狭いとこだけどゆっくりしていけよ。ハーブティー飲めるか?」


机に用意されたマグカップに入れられた薄緑色のハーブティー。

促されるまま椅子に腰掛け手に持って口元に近付けるとカモミールの香り。

久しぶりに飲むそれにホッと一息吐いていた。


「…美味しい。」


「それは良かった。」


「ありがとうございます。」


「気にすんなって。」


ニカリと笑みを浮かべた彼は特に何を話すこともなくハーブティーを飲みながら外を眺め始める。

クリオネットも同じように窓を眺めていると二人のことを思い出して涙目になっていく。

それに気付いたキースは彼女に近づくとそっと自分の胸へと抱きこんだ。


「泣きたい時は泣けばいいだろ。オレ以外誰もいねーし。」


「でもっ。」


「オレは何も見てない。何も聞こえない。」


髪を撫でられ、ついポロリと涙を流すととめどなく溢れてくる。

どこに居ても私は邪魔者になる。

今だってキースさんに頼るばかりで、自分では何も出来ない。

そんな自分自身は大嫌いだと強く拳を握り込むのだった。

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