7. 神殿
あの日からルークは家を開けることがなくなり、ダイニングの奥にある立入禁止の部屋で作業をしているようだ。
あまり煩くしてはいけないと、家の外で出来ることをしようと畑に向かって歩き出した。
「リネット、何処行くの?」
「ルーク様?お仕事はもう終わられたのですか?」
「まだだけど、リネットの気配が外に移動したから気になってね。」
「ごめんなさい。静かにしたつもりだったのですが…。」
「俺は神獣だから静かにしててもわかるよ。それで?何処行くの?」
「畑にお水を…。」
「俺が雨を降らせておくからこっち。」
手招きされるまま彼の下へ向かえばそのまま地下へと続く階段に促される。
ここは立入禁止にされていた場所のはず。
何かあったのだろうかと気になりながらも暫く歩いていると、地下とは思えないほど開けた場所に出た。
緑豊かで小川が流れるそこは光り輝いて見える。
一瞬自分が地下にいることを忘れてしまいそうだ。
「綺麗…ここは?」
「俺の神殿かな。」
「神殿…。」
「リネットならいつでもここに来ていいよ。ほら、あれが俺の宝玉だよ。」
少し歩くと見えてきた白い建物の中央には黒い玉が見え、鈍く光っている。
元々あの色なのだろうか。
濃く嫌な雰囲気の瘴気が地面に溢れ、周りの草木を枯らしていた。
「…大丈夫なのですか?」
「ん?」
「何だか危険な感じがして…。」
「…気にしなくていいよ。あぁなるのはいつものことだから。」
「いつもの…?」
「人間の醜い感情を常に吸い上げてるんだ。浄化しても追いつかないだけ。」
「それは本当に気にしなくてよいのですか?御身体に触るとか…。」
「…大丈夫、大丈夫だよ。」
自分に言い聞かせるようにいう彼に気になったが、それ以上問うことは出来なかった。
それから数週間が経ち、再び出掛けるようになったルークを見送ってから彼の神殿へと入っていく。
前回見たときよりも明らかに広がった枯草に顔色の悪くなった彼が思い浮かんだ。
きっと神獣である彼は無理しているのだろう。
私に出来ることなど殆ど無いが、彼の宝玉が少しでも浄化されるように祈ることは出来る。
そっと膝を付いてから祈りを捧げるこの行為は彼女の日課になっていった。
最初は広がっていくそれに意味がないんじゃないかと不安になったが、1ヶ月ほど経つと少しずつだが改善の兆しが見える。
私の祈りが届いたなんて痴がましいことは思わないが、少しでも足しになれたならとほっと息を吐く。
いつものように部屋に戻り、夕食の準備をしようとキッチンに立ったはずだったのに、その後の記憶が抜け落ちていた。
次に目を覚ますと2階にあるふかふかのベッドで、額には冷たいタオルが乗せられている。
「…っリネット!?良かった…。」
「?」
「帰ってきたらキッチンで倒れてたからとても驚いた…。気分はどう?」
「…大丈夫です。」
「何があったの?朝は問題なさそうだったのに…。キッチンに行く前は何してた?」
「と、特に何も。」
「本当に?」
「いつもどおりお掃除をしたりしてましたけど、特別変わったことは何も。」
「そう。あまり無理しないでね。心配になる。」
「…それなら…私よりルーク様ですよ?顔色が優れませんし、無理されているのでは…?」
その問いかけに答えることなくただ笑みを浮かべる彼にあまり良くない状態なのだと理解した。
もし、ルーク様に何かあったらどうしようと不安になるが私に出来ることは少ない。
せめて迷惑は掛からないようにしなければと心に決めるのだった。