10. 理性
あれから泣き疲れたクリオネットはいつの間にか眠っていたようで、目を覚ますと見慣れない天井に頭を傾げた。
「目、覚めたね。」
「ルーク様?」
「あれ、誰。」
指で示す先には蔦で雁字搦めになったキースの姿が見える。
眠っている間に何が起きたのか分からないが、口元に笑みを浮かべながらも明らかな怒気のオーラと角を出した姿に血の気が引いていく。
「答えないなら彼、死んじゃうかもよ。」
「え…?」
「もがけばもがくほど締まる呪いの蔦。俺のに手を出すんだから仕方ないよね。」
「…ルーク様にはシャイア様が居らっしゃるのに…。」
「ん?あーなるほどね。もしかして嫉妬してくれた?」
「…し、してません!」
「これで一歩前進かな。シャイアには感謝しないと。」
「…。」
「そういうムッとした表情も可愛いけど、いつもみたいに笑って。俺はリネット以外、興味ないよ。」
「…私はただの子供です。ルーク様には相応しくないです。」
「相応しいって誰が決めるの?その辺の通行人?違うだろ。俺に相応しいかどうかは俺自身が決めることだ。」
「…それは…。」
「シャイアは昔、瘴気から助けたことがあるから話したりするけど。リネットみたいに可愛がったりした覚えはないな。ちゃんと自覚してくれないと困る。」
「…自覚…?」
「こういうまどろっこしいのは苦手なんだけど、人間の女性は16歳で成人なんだろ?それまでは子供扱いするしかない。これでも理性をフル活用して我慢してるんだ。まぁ、前回のアレはちょっと本能が暴走したけど。」
「…私に我慢しているんですか?」
「悪い意味じゃないよ。大切にしたいってこと。もっと俺を信用して甘えろ。」
「…甘えてばかりです。」
「リネットの中で今が甘えているのなら俺の許容範囲はもっと広いってこと。我儘って思うことも大歓迎だよ。例えば、二度とシャイアと話してほしくない、とかね?」
「そんなこと…言えません。ルーク様を束縛する権利はありませんし…。」
「はぁぁぁ、俺のことちょっとは独占してくれてもいいのに。例えリネットが束縛してくれなくても俺は束縛するけど。次、俺が居ない所で俺以外の男と話したら神殿で一生過ごそうな?」
流石に冗談だろうと彼を見てみると本気で言っているのだとすぐに理解出来、何度も頷けば少しだが機嫌は直ったようだ。
相変わらず怒ると怖い。
「あの、キースさんを…。」
「キース?あぁ、これね。ちゃんと後で治しておくよ。それより、そろそろ帰ろうか。」
その言葉と同時に視界がブレ、見慣れたベッドの上に座っていた。
神獣の姿のままということはまだ完全に許してくれたわけでは無さそうだと顔色を伺っていると満面の笑みを浮かべる。
「そんなに不安そうな顔しなくてももう怒ってないよ。嫉妬してくれたってわかったからちょっと危なかった。角を出したままなのはその名残り。」
「?」
「神獣は神と同じ存在だから理性で行動できるはずなんだけど、リネット相手だと意味ないね。」
照れたようにそう言うとクリオネットの髪を指に絡めくるくると弄び始めるのだった。