小悪魔orリザードマン
3体の魔物は驚く事なく、蹴破られたドアの先に立つ小悪魔を見つめた。
「なんじゃ……気色の悪い奴じゃの……」
リザードマンが両目をグッと細め、とっくりを持ち上げおちょこに酒を注ぐとグッとひと煽り。
サイクロプスは樽から直接エールを飲み。
ハーピィはグラスに入っている、ルビーを溶かしたかのような煌めく液体を恍惚とした表情で愛でている。
「未来の目を持つリザードマンってのは、アンタで間違いないよな」
カウンターを見ていたリザードマンはゆっくりと視線を動かす。
「そんな事わざわざ確かめんでも、お主の眼で見えておるんじゃろ?」
「はは、やっぱアンタすごいよ!俺の“鑑定眼”(かんていがん)も気づいてるんだな」
「人の力量を不躾にジロジロと見おってからに」
リザードマンは不愉快そうに酒を大きく煽る。
「いいな、その目!欲しいよその目!欲しい、欲しくて仕方ない!」
目を輝かせ、興奮気味に語る小悪魔。
「生憎じゃが、ワシのスキルは売り物ではない。さっさと立ち去れ」
自身の髭をいじりながら、しっしっと手をはらうリザードマン。
それに小悪魔は、一切の躊躇もなく
「いや、くれよその眼」
リザードマンに指刺した、その瞬間。
“ダッ!”という風切り音が店内に響き渡り、一瞬のうちに小悪魔の首に刃が立てられ、
「忠告はしたぞ」
躊躇なく刀を横に薙ぐ。
ゼロ距離から振るわれた刃に小悪魔の首は宙を舞う。
そう、未来を見るリザードマンの瞳には映っていた。
が、しかし現実は。
首は飛ぶ事なく振り抜いた筈の刃は、小悪魔を傷つける事もなく止まったのだ。
「!?」
後ろに大きく跳ね距離を取るリザードマン。
刃が触れていた箇所に触れ首をコキコキと鳴らす小悪魔。
「効かなくてもイテェ………てか速!全然、見えん」
リザードマンはギラっと小悪魔を睨みつけると
「そんな不思議がる事ないだろ?“対刃スキル”を持ってる奴なんか」
「確かに珍しくはないの。ゴーレムやゴースト、そこにおるサイクロプスに至るまで刀が通用しない。そんな者ら、ごまんと相手してきたわ」
リザードマンはゆるりと刀を構え直すと
「じゃが、わしの知る限り悪魔族で全く刃が通用せん者はたった1人を除いておらなんだ」
小悪魔を睨みつけた目をより鋭く尖らせる。
「その歳になっても新しい発見ができて嬉しいなジジイ。宣言通りもらうぜ!」
両手を広げ天井を仰ぎみる小悪魔。
「竜族。それも歴戦の覇者にだけ発現する。その目に刻まれたスキル“竜の眼”。」
語る口元には、悪戯好きの邪悪な笑みが貼り付けられている。
すると、後ろでエールを飲んでいたサイクロプスが
「お前、もしかして巷で噂のスキル狩りか?」
「……スキル狩り?」
サイクロプスの言葉に反応したハーピィは、小悪魔の方へと顔を向ける。
「正解!」
「他人のスキルを奪うか。趣味の悪い事をしておるの」
「ちなみにアンタの刃が届かなかったのも、奪ったスキルのおかげだぞ。それより……」
小悪魔はカウンターに置かれた飲みかけのとっくりとおちょこを眺め
「酒は好きかジジイ?」
リザードマンは刀を逆手に持ちかえると姿勢を低くし、完全なる臨戦態勢を取る。
「生きがいじゃ」
「そうか、じゃあ。スキル“トリックオアトリート”発動。要求は、“一生涯酒を飲めない体or竜の眼”」
続きます