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逃走or幽霊屋敷

お久しぶりの連続投稿です。


「はぁはぁ……」


 息が切れる。


 だだっ広い螺旋状らせんじょうに歪んだ廊下をひたすらに駆ける。


 行手をはばむかのように、窓が一枚ずつ割れてはガラス片が頭の上に降りかかる。


 俺は、姿勢を低く頭を守りながらも足だけは止める事をしなかった。


 後ろからは、ゆっくりと距離を詰めてくるゴーストとウェアウルフを引き連れたゴーストメイド。


「襲え」

「ガルルルルゥウアアア!」


 直線上にいる俺を捕らえようとウェアウルフが突進してくる。


 目の前には、廊下の終わりを告げる壁。


 迫るウェアウルフ。


 絶体絶命かと思った矢先、廊下の並びに部屋を見つけて迷う事なく飛び込んだ。


 暗い部屋に入り鍵をかける。


 ドンッ!!ガンガン!!!ガリガリ!!!!


 ドアを爪で引っ掻く音が小さな部屋の中に大きく響く。


 物置きに使われている狭い部屋の奥へ奥へ足を進める。


「ハッ……ハッ……フゥ……ッツ……最悪だ」


 壁に背を預け、ウェアウルフに引っ掻かれ、えぐられた左腕を支える。


 身が抉られて流血が止まらないのに加えて、肩は脱臼だっきゅうしている。


……あんなにも懐いていたウェアウルフがなぜ俺を襲い始めたかと言うと。


___数分前。


 ゴーストが俺に向かって飛んできたあの時、ウェアウルフが俺をかばってゴーストメイドの攻撃を受けた。


 すると、ウェアウルフはグッタリと倒れ込んだ。


 俺は駆け寄り、「おい!大丈夫か?」と声をかけるが全く反応しない。


 体が段々と冷たくなっていくのを触れて感じていた。


 死んだ……


 そう思い、顔をそむけ立ち上がった次の瞬間、


 のそりと起き上がり、俺を背後から噛みついてきたのだ。


 その時は、なんとか避けられたものの、意思を持ち合わせていないような姿は、間違いなくゴーストメイドに操られている様子だ。


“ネクロマント”


 ゴーストメイドがそう唱えると、ウェアウルフは一目散に俺だけを強襲きょうしゅうする。


 きっと、ゴーストメイドのスキルか魔法だろう。


 俺も“トリックオアトリート”で応戦しようとしたものの、ウェアウルフに対してスキルが発動出来なかった。


 この肩の傷は、その時に油断してできたものだ。


 操られて意識がないから発動できなかった。


 あるいは、完全に獣になった事で言葉が通じないから二択を迫れなかったのか……


 どちらにせよ。それは紛れもなく“トリックオアトリート”の弱点部分だ。


 いや。それにもっと絶望的なのは………


「“トリックオアトリート”でしたか?凡庸ぼんようなスキルでございますね」


 そう口にしたのは、鉄仮面をつけているのかというくらい、表情を変えない半透明なメイド。


「………ッツ!」


 俺は歯を強く噛み締めて、


「スキル“トリックオアトリート”M(萌)豚共の夢orウェアウルフ!」


「…………」


 まだ繋がっているのが不思議なくらい、ズキズキと痛む腕を抱き、俺を見下ろすゴーストメイドを俺は無力に見上げる事しか出来ない。


 そこにあるは、絶対零度ぜったいれいどの表情。


 ウェアウルフにだけならまだ分かる気がする。


 だけど、、、何で、、、何でこいつにも俺の“トリックオアトリート”が通用しないんだ………


 そう、この時俺は小悪魔デビルになってから2度目の死を覚悟した……


___一旦、逃げられたのは良いものの、スキルが効かない相手にどう立ち向かえばいい?


 肩で息をしながら打開案を考える。


 抉れた腕とは反対の拳で頭を何度も小突きながら、巡る思考を邪魔するゴーストメイドの絶対零度の表情を消し去るが如く考える。


 焦り、様々な考えが頭を飛び交う、そんな時、ふと頭によぎった光景を思い返した。


 それは、俺がウェアウルフに腕を抉られた瞬間に垣間見たゴーストメイドの表情。


「………あの時、一瞬見えたアイツの顔……」


 そう呟き、深い思考に落ちそうになった時、


 ドガァ!バキッ!!ガリガリガリ!!!


「!!」


 グルルルゥウ!!ワフッ!ワフワフッ!!!!


 扉が壊され、穴が空いた箇所に顔を突っ込んだウェアウルフの大きな口と鋭く尖る牙。


 どうやら、悠長に考えている時間はないらしい。


 俺は、何か武器になるものはないかと部屋を探り始める。


 入った部屋は、ほうきなどの細長い棒のようなものはあるが、武器になりそうなものはない。


 箒を折ってウェアウルフに突き刺すか……いや、ウェアウルフの身体を貫くほどの力を俺は持っていない。


 迷いの最中にドアを破壊し部屋へと入ってきたウェアウルフ。


 主人を忘れた獣は、ターゲットを目視するとよだれの垂れる大きな牙をギラつかせた。


 まさに、その牙が俺の喉元に到達するまで、あとほんの少しというところ。


 瞬間、


 行き場のない絶体絶命の中、壁に背中を預ける。


 すると、


 壁に穴のようなものがあり、指が偶然そこに入ると、ガシャッと壁が開く。


「うぉっ!」


 体重を預けていた俺は、倒れるように隠し扉の中に落ちていった。


 石段の階段を2回、3回と転がった先に少し開けた部屋にたどり着く。


「イテテ……危なかったぁ」


 俺は、脱力しながら立ち上がる。


 目の前を覆ったウェアウルフの尖った牙を思い返すと全身から震えが止まらない。


「どこだ、ここ」


 記憶を探っても見たことがない部屋。


 そこは、灯籠とうろうが淡く光る場所。


 さっきの物置部屋よりも幾分か明るい。


 しかし、部屋のど真ん中に大きな姿見がひとつという質素しっそな場所。


「なんだこれ?」


 俺は、姿見を覗き込んだ。


 特に大きさ以外は他の姿見と変わらない、何の変哲へんてつもない姿見。


 しかし、すこしすると。


「!?」


 動いてもいないのに、鏡の中の俺が勝手に動き出した。


 びっくりし、後ずさる。


 しかし、鏡の中の俺はニヤッと怪しい笑みを俺に向けると、ゆっくりと指を差してきた。


 俺は、指された方向に顔をやる。


 すると、さっきまで持っていなかった“物”を俺は手に掴んでいた。


「これは!?」


 鏡の方へ振り返るが、そこに俺の姿は一切、映ってはいなかった。


 不思議な鏡。


 俺は手に持った“物”を見ては、大きく息を吸い込んで。


「“コレ”でどうしろと?」


 俺は、困惑こんわくした表情で手に持っている“物”を見つめた。


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