ゴーストorメイド
「“トリックオアトリート”でしたか?凡庸なスキルでございますね」
そう口にしたのは、鉄仮面をつけているのかというくらい、表情を変えない半透明なメイド。
俺は小悪魔になってから、2度目の死を覚悟した……
ボロくて古い城を眺める。
遊園地のホラーアトラクションそのもののようなおどろおどろしい城。
「デケェ……」
………自分でもわかっている。つまらない感想だ。
だが、記憶にあっても実際に眺めてみると本当にデカいのだから仕方がない。
さらに雨が降ってきて、雷が鳴っているから、不気味さはより際立っている。
「ここに住むのか……一生、慣れなさそう……」
小悪魔の住居であり、俺がこれから住む城。
俺がウゲェっとした顔をしていると「ワフッ!」っと元気の良い鳴き声がかけられた。
横には、連れて帰ってきたウェアウルフが舌を出しながらお座りしている。
「あー、連れて帰ってきちゃったけど……そういやお前、どうしよかな?」
頭をひとつ、ぽりぽりとかく。
そんな俺を(ハッハッ)しながらつぶらな瞳で見つめてくる。
「んー、でもやっぱり家の中はないかな……“アイツ”嫌がりそうだし」
「……クゥン」
頭のいい子だ。
こちらの言葉を理解して落ち込んでる。
「ひとまず、雨のかからない扉の前で待っとけよ」
扉に手をかけると、離れたくないのか耳を伏せてしょんぼりとした姿を見せつけてくる。
別に犬派でもなんでもないが、居た堪れない気持ちになって、
「まあ、ダメ元で説得してやるよ。俺も顔とある程度の性格知ってるだけで初対面なんだから」
そう声をかけ、ギギギ、と軋んだ音を立てながら大きな扉を開ける。
すると、
「おかえりなさいませ。おぼっちゃま」
俺の頭に浮かんでいた、この城に住んでいるもう1人の住居人の声。
使用人のメイドが深々と頭を下げて目の前に立っている。
「ただいま」
頭をあげたメイド。
顔は驚くほど整っているのに、表情も存在感もなんとも乏しい。
俺の、というより。
小悪魔の使用人であるゴーストメイドだ。
この家には、俺とこのゴーストメイドとの2人だけで親はいない。
ちなみに、小悪魔の記憶を遡ってみても親の顔は見たことがない。
生まれてからずっとこの城で暮らしてきて、親代わりに育ててくれているのが、このゴーストメイドだ。
「………お服が汚れていますね。またイジメられたのですか?」
心ない口調でゴーストメイドが語りかける。
俺は、肩を落としてハハッ……と軽く苦笑しては、
「まあね……でも、今日はやり返したけど」
小悪魔が、苦手に思っていた彼女のサバサバとした態度に(こういうところか)と心内で納得する。
「……そう、ですか。それは、お強くなられたようで」
「いや、相手が大した事なかっただけだよ」
ウェアウルフの件をどのタイミングで話すか考えながら何気ない会話をかわす。
「………」
「………」
話が途切れ、じっ、とこちらを見てくるゴーストメイドから思わず目を背ける。
お互い黙り込み、気まずい空気がだだっ広い部屋に漂う。
そんな空気を切るようにゴーストメイドがすました顔で
「お風呂をご用意いたしますね」
と、頭を下げて部屋を後にする。
俺は、1人部屋に残り深いため息をこぼしては、
「なるほど、あれは息が詰まるわ」
と、脱力した。
続きます。




