表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

1. 陽の巫女の誕生、おむすびころりんな出会い 後編


「『変身、月の白兎』!」


 言葉が終わった時、勾玉から白い気があふれ体にまとわりついていく。

 美しい白髪(はくはつ)は三日月の髪留めでツインテールに纏められる。

 更に、服装が巫女装束のまま、細部が異なるものへと変化していった。


 足元は赤い鼻緒のわらじ履き。動きやすいよう、袴は膝が見える短さに。

 腕の可動域を広げるためか、巫女装束が肩から二の腕にかけて省略された。

 最後に、袴のお尻の部分に白いボンボンが一つ付いていて、ツインテールと相まって全体的に兎を思わせる格好へと至る。


「『(ソラ)まで届く純白の決意』。――『陽』の巫女、『ラビットホワイト』見参!」


挿絵(By みてみん)


 神と縁で結ばれた少女は、キッと敵を見つめ威風堂々名乗りを上げた。


「おお!? すごい、動きやすくなってる!!」


 上白きずな、もとい白兎の巫女こと『ラビットホワイト』は仰天した。

こんな改造した巫女服のような衣装は、見るのも着るのも初だからだ。

 コスプレ、アニメ、ゲーム。そういった言葉は、彼女にとって縁がない。


「んなこと言ってる場合じゃないよ、敵の手が伸びてる!

 話は後でするから、今はとにかく戦いだよ!」


 いつの間にか頭の上にいた御ムスビ様が、ビル妖怪を指し示して騒ぎ出す。

 棒人間のような細い腕で、必死に白兎の巫女の頭をペチペチと叩いていた。


「何アレ? 一瞬で姿が変わった。……まぁいいや、やっちゃえ」


 ビル妖怪の屋上で、謎の少女は首をかしげている。

 変身に戸惑っているのだろう。

 だが、それはそれとして指示を出す。

 ビル妖怪の巨大な拳が繰り出された。


「ジャンプして!」

「分かった!」


 とっさに、白兎の巫女は御ムスビ様の指示に反応。

 大きく足を折りたたみ、高く跳ぶための姿勢をとる。


「それじゃあ力入れ過ぎだよ!」

「え?」


 だから、御ムスビ様がそう言った時にはもう遅かった。

 既に白兎の巫女の足は伸びきり、思いっきりジャンプした後だった。


 バビュン!と、巫女と神が吹っ飛ぶ音がした。

 同時に、跳躍の反動でドゴン!と道路のアスファルトぶち割れる音もした。

 風圧から解放された巫女が気づいた時には、目線が雲と同じ位置にあった。


「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!」

「今の君は身体能力が上がってるんだよ。全力で飛べばそりゃこうなるよ!」

「先に言ってくださいよぉぉぉ!!」


 高所からの急降下。

 特有の内臓が持ち上がる感覚を味わいながら、新米巫女は絶叫した。

 つまりそのまま落下している。


「どうしましょう! ねぇこれどうしよう! このままだと地面に大激突ッ!!」

「大丈夫、肉体の強度も上がってるから、例え大激突しても死なない。

 たぶん凄い痛いけど(ボソッ)」

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 空中で手足をばたつかせてみたが、無意味だった。


「何やってんだろ」

 謎の少女が、遥か上空を見上げ無感情に言葉を吐き出した。


「だぁぁぁ、もうしょうがない!

 空を飛べるわけでもないし、痛いのは我慢する!

 こうなったらいっそのこと、このまま突っ込んで攻撃してやる!!」


「その意気だよ、ぼくの巫女! 付き合うよ!」


 そのまま彼女は、重力を利用した体当りを仕掛けることにした。  


「避けちゃえ」

 ドゴォン!!

 そして、ビル妖怪に当たることなく地面に激突した。


「おぉぉ、体がバラバラになるかと思った……めちゃくちゃ痛い」


 土煙を全身にかぶりながら、白兎の巫女はどうにかこうにか体を起こす。

 その体はふらふらと揺れていたが、一切の傷を負っていなかった。


「すごい、あの高さから落ちたのに普通に無事だ。全身痛いけど」

 打撲による激痛も、時間経過で和らいでいく。


「御ムスビ様!」

「うぇ?」

「起きてください、相手が動き出しましたのでコチラも動きます!

 助言があればお願いします!」


 そうこうしている内に、ビル妖怪が移動し始めた。

 このままでは、もっと被害が拡大する。


「あの妖怪は恐れの感情、つまりは『陰』の気によって無理やり実体化した式神だ。つまり別の気をぶつけて上書きすればいい!

 狙うは陰の気の核の部分、流れる気の淀み。ずばりアイツの『一ツ目』だ!

 あそこに君の巫女としての力、『陽』の気をぶつければ浄化できる!」


 御ムスビ様が説明する最中も、ずんずんビル妖怪は背を向けて進んでいく。

 牛歩ではあるが、着実に距離は離れ始めていた。


「分かりました、やってみます!」

「また力入れ過ぎ!」

「あぁぁぁ!! またやっちゃったぁぁぁ!!!」


 変身によるパワーアップは本人の才能によって変化する。

 もともと強い霊力を持つ上白きずなの場合、身体能力の上昇幅は非常に大きい。

 そのため想定外に強すぎるパワーを得てしまい、自分の力に振り回されていた。


 今回は一歩を強く踏み出し過ぎて、頭からビル妖怪の背中に突き刺さった。


「オォン!?」

 コンクリートの壁に突き刺さる少女に、ビル妖怪から戸惑いの声が漏れる。

 彼女の上半身だけが壁を越えてビルの一室にあった。

 白兎の巫女と一緒に、頭の上の御ムスビ様も目を回している。


「ハッ!ぬ、抜けないっ!!」


 一応すぐに意識を取り戻したものの、体が穴にはまってしまっている。

 そんな巫女の視界に、おどろおどろしく浮遊するデスクが映った。

 霊的にそれらをぶつける、ポルターガイスト攻撃だ。


「え?あっ、ちょ、やばいっ!」


 明らかな敵意を持った物質が、霊的オーラをまとい飛んでくる。

 当たればひとたまりもないだろう。


「ああ、もう!」


 ヤケだ――とばかりに、やぶれかぶれに巫女は拳を床へ叩きつけた。


 ドッゴォォォォォォォォン!!!

 その怪力による一撃は、周囲のビル妖怪の壁のごとまとめて破壊。

 偶然の産物ではあるが、脱出に成功する。


「こ、こんなに凄い力を出せるんだ」

「八百万の神々が力を合わせて作り上げた勾玉だからね!」


 ガレキを押し上げながら息も絶え絶えな様子の二人。

 しかし、どちらも目は死んでいない。活路を見出したのだから当然だ。


「私が全力で攻撃すれば、アイツの体を壊せる!

 てことは――御ムスビ様、危険ですので此処に!」


 覚悟を決めた白兎の巫女は、袖の中に御ムスビ様を押し込んだ。


「え、何する気?」

「突っ込みます!!」


 彼女は両足をそろえ、兎跳びの体勢に入る。

 そのまま両足を伸ばし、ビル妖怪に突っ込んだ。

 めちゃくちゃ痛いが、同時に壁が砕かれ床が崩れる。



(力を使いこなせないなら、使いこなせてなくてもいい使い方をするだけ!)


 彼女が選んだ戦術は実にシンプルだった。

 手加減無用で、跳びはねる。

 つまりは強化された身体能力による攻撃のゴリ押しである。


 縦横無尽に跳ね回る攻撃は、無軌道にビル妖怪の体を破壊していく。



「オオォォォォォン!?」

 がんがんがんごん、がんがんがん。

 コンクリートや鉄筋を、飛び跳ね頭突きでぶち抜いていく。


 白兎の巫女にもダメージは来るが、それでも痛いのが続くだけ。

 痛いは痛いが死ぬほどではない。であれば彼女は止まらない。



(一度やるって覚悟を決めて、限界も出さずに辞めますなんてありえない!

 口に出した言葉の責任は取る! これぐらい体を張らないでどうする!!)


 床を使って跳び壁を使って跳ね、ぶつかっては跳び壊しては跳ねる。

 どこかにはまれば周りを壊して脱出、衝撃で前後不覚になっても跳ね続ける。

 すると暫くして、とうとう白兎の巫女はビル妖怪の腹を突き破った。



「オ、オソ……」

「良かった、効いてる――ウゥッ」


 外に飛び出た白兎の巫女は、片膝をついたビル妖怪を見つつよろめいた。

 高速での突撃と加速の繰り返し。

 重力の負荷と揺れに加え、頭を何十回も打ち付けたのだから当然だ。


「む、無茶し過ぎ。君もだいぶ効いてるじゃなか……オェッ」

 巫女服のから這い出た御ムスビ様も、吐きそうな顔をしてえづきそのまま地面に落っこちた。



「取り敢えず、このまま陽の気を――ぶつける!」


 目を閉じて、神経を集中させた。

 激しい運動をした時に、ドクドクと動く血管を頭で感じ取れる事がある。

 それと同じように、全身を巡る『陽』の気の流れを彼女は感じとる。


 へその下、胸の奥、そして眉間。

 三つの丹田を中心に、流れはより大きくなっていく。


 特に胸元の『神様勾玉』が、肉体と精神に宿る気を増幅させていく。

 流れることでエネルギーが消費されない。

 寧ろ流れれば流れるほど、エネルギーの総量が増加した。


 物理法則とは、別の世界に存在するエネルギー。

 それを、彼女は敵にぶつけた。


「『神威(しんい)陽光波(ようこうは)』ーっ!!」


 技名という名の呪文と共に、全身から昂ぶった『陽』属性の真っ白い光が、全方位に向かって放たれた。

 白兎の巫女の光はビル妖怪を飲み込み、『お札』の一ツ目を消し去った。



「――――オォォォォォォォン…………」

 そして、断末魔と共にビル妖怪は消滅。


「ふーん、ちゃんとみんなに知らせとかなくちゃ、だ」

 その攻撃が当たる直前に、謎の少女は音も無く影の世界へ沈んでいた。

 言葉以上の意味が込められていない、何も感じない台詞をつぶやきながら。



「よっしゃ! とにかく今日は、私の勝ちィ!!」

 これを受けて、少女は勝どきを上げる。


 御ムスビ様の勾玉は全部で7つ、それぞれに宿る力は陰陽五行。

 白兎の巫女の『陽』の力。あとは『陰』と、五行の5つの力。


 覚醒する巫女は、まだまだ控えている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ