消えなかった流れ星
いつもの通りにしていればよかったと、彼女は何度目かになる後悔を、また抱いていた。
仲間たちと一緒に、四六時中、仕事をし続ける。そんな日々から、ふとはぐれてみたくなり、ひとり仕事場から遠くへ遠くへ、ひたすら何も考えず、離れていった結果がこれだった。
典型的な迷子。周りは見たことのない景色ばかり。見知った顔はひとりもいないと来ていた。おまけに空は完全に暗くなっている。
なにより彼女がこたえたのが、空腹だ。ここしばらくご飯にあずかっていない。
せめて雨でも降ってこないかと、頭上を仰ぎ見る彼女の視線の先を、黄金色の光が一瞬だけ横切った。
流れ星だ。
どこかで聞いたことがある。流れ星に願い事をすれば、それがかなうのだと。ただし、その気持ちが本物であれば、とも。
その夜は流れ星の数が多い。先のひとつに続いて、またひとつ、もうひとつ。
目にする光たちに向かい、彼女は一心に祈る。
――どうか食べ物にめぐりあえますように。
そう祈ること、14個目の星が過ぎたあとで。
15個目の星は、いままでと全く違った。
ずっと大きく、色は似ていながらも光を放たないそれは、彼女の視線を横切っても消えることはなかったんだ。
彼女が顔を動かしていくと、星はそのまま地面へ。さほど遠くない地表で、かすかに跳ねたような気がした。
彼女の動きは速い。だしぬけに現れた目標が、彼女の脚を突き動かし、現場へ急行させる。
近づくにつれ、落ちた星はこれまでに彼女が嗅いだのに近い、甘味の匂いを放っているのが分かった。
高まる期待のまま、その源へ急ぐ彼女は、やがて自分の図体に数倍する、大きな星の姿を目の当たりにする。
表面こそ木の皮に似ているが、そこから発せられるのは、ほのかな甘味の香り。仲間うちで楽しんだり、持ち帰ったりするお菓子たちと、大差なく感じられたんだ。
それだけ分かれば、空腹の彼女に拒む理由はない。
――これぞ、天の恵み!
彼女はありったけの力を、そのあごに込めて星へかぶりついたんだ。
**
「こら、とも。ビスケットは丁寧に開けなさいといっただろう」
レジャーシートの片隅で、お菓子袋の中身をぶちまけてしまった男の子に、お父さんがたしなめる。
「ごめんなさい」と頭を下げながらも、ともはあちらこちらに散らばったビスケットのカスを集めていく。
さすがに食べはしない。けれども公園を使う者として、汚して帰るのはいただけない。
夜の暗さに慣れてきた目を頼りに、ともはビスケットのかけらを集めていくものの、「あ」と声をあげる。
「見て見て、おとうさん。ビスケットをありが食べてる」
お父さんがとものもとへ寄ってみると、足元の芝生になかば隠れるようにして。
アリがビスケットのかけらへ、かじりついていたんだ。自分の身体の何倍もあるかけらをかかげ、かすかに動くたびにあたりの芝がさわさわと揺れる。
「ま、早い者勝ちというやつだ。そのかけらはアリにくれてやりなよ」
「はーい。……あ、また流れた。すごいなあ、流星群って。ねえねえ、お願い事していいのかな?」
「ああ、こんなにもたくさん流れているんだ。どこかの誰かの小さな願いくらい、いまもかなえてくれてるだろうさ」