蟷螂人捕
元ネタは聊斎志異です。
どうも、予約投稿忘れてた人間です。
「一体何があったんでしょうかね。」
藪をつついて蛇が出るか虫が出るか確認しながら道を進む。さっきから敵対MOBすら見ていないという異常さが、この森で何かあったことを色濃く教えてくれている。リポップすらままならないとはどれだけの速度で、どれだけの量を刈り取っているのだろうか。
「誰かが狩って回っているとするなら、私たちみたいに目標が同じなのかも。」
「ライバル早くも登場ですか。」
槍の穂先を確認する。大蜘蛛の牙毒をたっぷりと滴らせた先端は早くも獲物の匂いを感じ取ったのか、唾液を垂らすが如くその毒液を地面へと落としていく。なんか最近毒の量が増えたんだよな。あとまるで生きてるかのように見えてくるんだよね、怖いね俺の脳が。
「勘づかれましたかね。」
「可能性は低い、先行しているのはまだ虫班だけ。」
となるとやはり同時期に発見した同業他社というわけか。まるでゴールドラッシュ時期のアメリカ土地開発みたいだね、土地を急いで買っては開発して金採取を繰り返す。まだ発見されていない場所を求めて西に東によっこらしょ。今回のパターンでは一等星を得るために土地であるテントウムシを狩り続けている、露天掘りも真っ青な環境破壊だ。
「狩りしている奴らに会ったらどうしますか。」
「先ずは探るだけに抑える。」
先手必勝だけれども、何かの間違いで一般人をヤってしまったら問題だからね。そう付け足して段々と中央へと進んでいく。
この森の中央にある山の麓にはベースキャンプがあり、そこで一度馬を置いて山岳調査を行うらしい。森一帯にいる生物数が少なくなっている以上、付近の捜索は他の団員だけで済むと判断したためだ。それに俺という荷物を抱えての集団戦は限りなく不利であり、まだワンチャンスある山間に望みをかけたというところもある。
「カグヤ、寒くないか。」
「だいじょぶ」
ぐっと親指を立てて返事をする。よくやった蛤、お前の成果は段々と出てきているぞ。こうやって話せるようになってきたというのはなかなかに良い成長だ。発達は言語と共にあり、言語能力の向上は成長の証でもある。それにジェスチャーの習得も大きいぞ。
『じゃあ早く名前つけてくれます?』
「わかった、わかったから。」
考えているんだよ、ちゃんと考えているけどもハマグリに関連する名前なんて思いつくわけが無いんだよ。俺だって調べたさ、蜃って名前の妖怪だってことも分かったさ。だからどうしたというのが現状なのさ、なんて名前つけてやればいいのかわからんのだ。
「ロベリアはどう」
「えっ?」
コナラさんがまさかの名づけに参加、しかし何故紅蓮なのか。どこにも赤要素無いんだけども。
「花言葉は悪意、でも貞淑という意味もある。」
あ、そういうことか。ハマグリには貞操観念の見方がある、理由としては貝殻は同じものにしかくっつかないといったことからだ。
『いいじゃないですかロベリア、美しいワタシにはぴったりです。』
「それでいいんか。」
名前だけ聞いてあとの花言葉に関しては一切聞いていなかったなコイツ。まあ気に入ったのならそれでいいか。
『やったー!ついに名前だーー!』
「…ス…テ」
「良かったな。」
名前でこうも喜んでいる様を見ていると、もう少し早く付けてやればよかったなと何故か罪悪感が刺激される。
「タス……テ」
「ん、なんか言ったか。」
『いえ、何もしゃべっていませんが?』
「たすけて」
恐怖が襲う三秒前、体全身に鳥肌が立つ。今さっき確実に俺の耳が捉えた四文字の言葉は助けを呼ぶ声だった。しかもそう遠くない。
コナラさんも気づいているようで、腰に下げた剣に手を掛けている。カグヤも翅を開いて臨戦態勢を取り、ダンゾーは木に登って接近に備えている。
ゆらり、藪の向こうから男が出てくる。その腕は欠損判定にあるようで青く透明になっていて、グリッド線のみがそこに肉が付いていたことを教えている。
俺らに気づいた男は地獄で仏に会った顔をしながら向かってくる。あと一歩、こっちに近づこうとした男の姿が急に消える。
今までそれはただ背丈の大きい草だとでも思っていた。俺の錯覚だと思い込みたかった。男の首から上はもう無い、その草の正体に食われなくなったからだ。
「カマキリ……なのかこれ。」
それはカマキリと呼んでもいいのかと思うほど大きかった、人一人抑えて捕食できるぐらいには。男の体がみるみるうちに消えていく。なんという速さだろうか、一人食べるのに30秒もかからないだろう。
「逃げる、急いで。」
コナラさんから離脱の指示が出る。固まりかけていた俺の体は一瞬動きを止めたが、何とかその指示に従えるだけの行動はとれるようになった。
急いで馬にカグヤを乗せる。そして自分もと思うが、もう捕食を終えたカマキリが次の獲物と見定めた俺らの方へと進み始める。
『瓢箪の蓋開けてください!早く!』
ロベリアが主張を始める。何がしたいというのだろうか、それよりも早く馬を走らせてここから離脱しないと。
『ワタシの能力をお忘れですか!!』
その声でようやく気付く、こいつが何をしたいのかを。そういうことか、だったらそうしたいから開けてくれって言ってくれ、気が動転してるからさ。
『全く、一聞いたら十でしょ。』
そういいながら辺りに大量の蒸気を撒く。たちまち大量の白い霧に変わり辺り一帯を白く埋め尽くす。方向感覚を、認識を、全てを書き換える幻影の世界だ。
『ほら、ぼさっとしてないで逃げますよ。』
その一声で思考の渦から帰ってきた俺らはすぐさま離脱する。このことは他の仲間にも伝えておかなければ。
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