お喋り二枚貝
執筆前:まあまだ時間あるし予約投稿入れなくてもいいか
今 :やっべ
『それでですねぇあの海水の旨さは絶品でしてねぇ。』
はいはい、その話もう十回目だぞ。まことに不本意ながら大蛤を仲間にした後、さっきまでの光景は嘘であったかのようにすっきりと晴れ、普段の平原に戻っていた。手には貝、しかも喋ると来たもんで、さっきから見世物になっている。
『そうそう、旨さといえばまたあの浜に昔人が一攫千金を願ってやってきたことがありましてね。』
「あのな、話ってのは一方通行になっちゃいけんのよ。喋るだけなら鸚鵡だってできるんだからさ。」
うぐっと軽く悲鳴を上げて、ようやく迷惑になっていることに気が付いたのか黙り始める。でもまた口を開き始める。
『私はですね、ずっとあそこで暮らしていたもので誰とも話す機会が無かったんですよ。ようやくなんですよ、やっとこの言語機能を活かせるんですよ。』
「はいはい、誰も話すのを止めろとは言ってないだろうが。もう少し相手を考えて話せって言ってるんだ。」
よくある話だ、昔は普通にコミュニケーションを取れていたというのに一時でも会話などを一切行わないとこのようにしゃべり続けるか黙り続けるという二択の状況に陥りやすい。このバカガイもまた無駄に発達した言語機能を有していながらもそれを発揮する相手がおらず、今ようやく相手を見つけてしまったが故にこうもマシンガントークを繰り広げているのだ。
因みにさっきから道行く人たちはこの馬鹿みたいに大きい蛤を二度見して通っていく。一回目はその大きさに、二回目は喋ることに驚いてだ。なんだよ喋る貝って。
『これぞまさしく蛤のかい、なんちゃって。』
「やかましいわ。」
宿に着く、ここまで来るのに奇異の目が刺さりに刺さってもう外を歩けなくなるかと思ったぜ。いいか、いい年になったおっさんに羞恥攻撃は結構効くんだぜ、何故かと言えば世間体をめっちゃ気にするからだ。え、お前昆虫に関しては別にそういった目を向けられても大丈夫だって。いやそうでもないさ、別に今まで会ってきた全員に言ってるわけではないし、理解者の方が多いのだから少数派の目を気にする必要が無いだけだ。
「……なあお前って陸に上がってどうするんだ。」
いつもの安宿にありついたときにふと思ってしまった。貝の呼吸の仕方はそもそも水中に含まれる酸素をエラで取り込むといった方法だが、ここは陸上だしなんなら海水なんてものは存在しない。こいつちゃんとライフプラン考えてついてきたのか。
『それならご心配なく!ちゃんと住処は持ってきてますので。』
そういって何かぷっと吐き出す。瓢箪だろうか、そういえば昔は実家に瓢箪植えてあったのにいつからか無くなってたな。糸瓜にとってかわられたのはかわいそうだったな。
しかしその瓢箪で何をするのか、そう思っているとあれほどデカかった姿はみるみると小さくなってそのまま瓢箪の口から入っていける程にまでなる。
『ほら、これなら無問題でしょ!!』
「それできるなら最初からやっとけや。」
おい、小さくなってそこに入り込めるなら何故あんな羞恥プレイと言えるあんなことをずっとしていたんだよ。お前の命にも関わるし俺のこれからの行く末だって決まるんだぞ。
『……いやぁ、あのーなんというかー、忘れてたと言いますかぁー。』
「自分の命にかかわるようなこと普通忘れるか。」
『仕方ないじゃないですか、外の世界なんて初めてだったんですから!』
瓢箪の中から聞こえてくる。カグヤは興味を若干だが示していて、言葉をしゃべれる新しい仲間というところに親近感を覚えたようだ。
あ、そうだ、このお喋りさんに少し頼めることがあるかもしれない。
「なあ化け貝」
『いやぁちゃんと名前つけて呼んでくださいよぉ、泣きますよ。』
「俺が寝てる間でかつカグヤが起きている時に言葉を教えてあげて欲しい。」
『それやったらちゃんと名前くれます?』
「ああ約束しよう。」
まあ別にやんなくても名前は付けるんだがな。まあそうとも知らず大蛤は喜びに満ち溢れた声でしょうがないですねといってカグヤの言語教育に携わってくれることを確約してくれた。あ、くれぐれも汚い言葉を覚えさせるなよ。
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