人に在りて人に非ざる也、是何と言わん。
筆者はそこまで漢文に詳しくありません。
どうもお昼です。
「ご協力誠に感謝いたします。」
捕物に参加していた部隊の隊長だろうか、よく見れば他の隊員よりもそれなりに質の高い馬や装備に身を包んでいる。言葉の端に含んだものも感じさせない辺り、NPCからは俺らプレイヤーも同じ世界の住人に見えているのだろう。だってそうでなければ何故彼らを助けずに我ら異郷のものを救ったのかと聞くであろうから。
「いえ、人に非ざる行いをしたものを止めるのは、万人に課された責任というものです。」
まあそんなこと一切思ってもいないのだが。今回はたまたま馬上訓練をしたいといった欲望と、彼らを蹴散らすことが合致したし、やった悪事が大層なことだったから手を貸したに過ぎない。それにそんな奴の相手をするのはそういった相手に相当な恨みを持って地の底だろうが天の上だろうが関係なく追っていくPKKクランの皆さまや自警団系クランに任せればよかろう。流石に手の届かない範囲にいる人の不幸に涙し、無力感を覚えられるほどそう多感に生きてはいられないからな。
「ええ、いい御心がけですね。後日礼のものを送りますので滞在場所をお聞かせ願えますかな。」
「なんのなんの、当然のことをしたのに礼物などいただけません。それに私は根無し草、ただ風に吹かれて西に東に揺れ動くしがない旅人ですよ。」
そうやって断る。いや別物だと普通に考えれば分かるんだけど、どうしても前の詰所のやり取りを思い出してしまってね。正直に言って俺からすれば人の娘を罵倒するあいつらもまた人に非ざるのである。たしかそういうのを中国だと人非人と言うんだったか。
「ではこれにて、もし何か面倒事がありましたらキシル騎士団の名をお使いください。必ずや力になりましょう。」
そういって轡を返して街道の方へと走り出していった。さっきまでそこらに転がっていたプレイヤーも消えていることを見るに、捕まったら一瞬で飛ばされるように設計されているのだろう。防犯意識が高くてありがたいが、そういったものをNPC側にも適応してほしいのだがな。カグヤを化け物呼ばわりしたあいつは絶対に許さないからな。
それからもずっと馬上で槍を振るうのに慣れる為ずっと戦闘を続けた。カグヤは途中から飽きてしまったのかそれとも揺れ動く振動に眠気を感じたのかすうすうと眠り込んでいる。随分肝が太いようで、全く子供というものは親が知らない間にどんどんと成長していくのだな。あ、涙が出てきそう。
何合戦い続けただろうか、流石に化け物級のスタミナを誇るセレストも疲れがたまってきたようで、その足を前に出すことを渋り始める。ああやり過ぎてしまったか。
「悪いな、全然お前のこと考えられてなかったや。ここらで休憩にするか。」
そういって馬から降りてゆっくりさせようとする。物凄く恨めしい目でセレストは俺を見ながら草を食む。なんだ、そういう目ができるじゃんか。
カグヤはと言うと眠って体力が有り余っているからか、俺に遊んでくれとせがんでくる。よしよし、なにして遊ぼうか。
「こえ!こえ!」
カグヤが何か手に乗せてグイグイと進めてくる。何かと思えば、大きめの草にキノコを乗せて渡してくる。どこで覚えたのだろうか、これはまさしくおままごと、昔幼稚園に通っていた時に無理矢理女子に囲まれてやらされたあの悪魔的遊戯。まさかもう憶えてしまったのか、
「ありがと、美味しく食べるからね。」
流石に食えない。でもこうキラキラした目で見られたら受け取る以外にないだろう。君たちは溺愛している一人娘がもしガラクタか何かを大切そうに持ってきたら、それは捨てなさいなどと言えるのだろうか。俺は少なくとも言えないね、甘々だからさ。
これをいきなりはたき落として泣かせるような奴が人に在りて人に非ざる者だと言えるのだ。……最近話が飛躍しすぎだな俺。
とにかく貰ったキノコをインベントリに送り込んであたかも食べたかのようにふるまう。そのキノコは案の定というかまあ必然というか、毒キノコであった。
「たべる?」
なんだとみてみると、さっきと同じキノコをまさかのクイーンセレストへと勧めている。まってカグヤそれ毒キノコ、でもこれ言っちゃうと俺が心配されてしまう。
「あー、カグヤそれは一回俺が預かっておこう。まだ食べたくないみたいだからね。」
そんな俺のやり取りを見てセレストはヤレヤレと首を振る。なんだ食べたかったのかだったら食わせたろうかい。
こうすぐに逆上する俺もまた人に非ざるのかもしれないな。
ここで一つ本筋とは関係ないマメ知識でも。
皆さんカゲロウという昆虫はご存じでしょうか。そうわずかな時間で死ぬと言われている昆虫です。
ですが同じ名前であるカゲロウでもカゲロウ目とアミメカゲロウ目では別物だということは知っていますか?
すぐ死ぬのは前者の川虫であるカゲロウ目で、後者は成虫になった後バリバリに捕食して生きながらえます。なのでカゲロウを見ても種類によっては普通に生きますので下手なことは言わない方が良かったりします。
因みに私は昔それでやらかしたことがあります(3敗)。




