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目覚めるパワー(父性)

多分ノーマルか格闘。

どうも、もう0時ですよ。

 流石に勢いよく走り過ぎたのか、帰りの途中でバテ始めた。ほら言わんこっちゃない、恐らくレースの負け筋もきっとこうやって暴走してそのまま馬群に姿を飲み込まれていったとかなんだろうな。調教師は辛抱強さを鍛えられなかったのか。

 こういった生き物は人と違ってスタミナの回復に時間が掛かる、人間が例外だともいえるのだが。恐らく戻れるのはもう少し待たないといけないだろう。このゲームが何処までその性質を引き継いでいるかが問題だけども。

 長い縄を取り出して近くの木に結び付ける、懐いていないから何処か行ってしまいそうで怖いしな。まあその範囲内で草でも食べるなり横になるなりしてくつろいでくれ。

 セレストはそのままこっちをじっと見ながら草を食み出す。いやなんだよ、文句でもあるか。そうやってないとまた暴走してどっか行こうとするだろ。

 もしゃもしゃと食べている。タンポポが気に入ったのか、花を選んでそればっかり食べ始める。そういえば何処かでタンポポ食べ過ぎて太った話を聞いたことあるな。まあこの範囲内なら問題ないでしょうけども。

 そんな馬の姿に興味を持った子が現れる、カグヤだ。なんか最近性格がより子供のようになってきたカグヤだが、ここは例に洩れず好奇心が刺激されたようだ。馬に近づいては顔を触ったり腹を撫でている。何か反応があるとびくっとし、そしてこっちを見て笑っている。

 ああなんだろう、この胸の奥底から湧いてくる感情は、激情とも違ったこの体を焼き尽くすようでそれでいてこの身を包み込むような慈愛に満ちた感情は。

 「ああ、やはりこれが父性か。」

 そうだ、これが父性だ。俺はこの感情に従ってお父さんを遂行しないといけない、ああそうだそのはずだ。

 頭の中に流れるのは存在して欲しい記憶、またの名を幻想幻覚白昼夢。カグヤが公園で遊んでとせがんでくる、ブランコに滑り台、あ雲梯はまだ危ないんじゃないかな。そうだね砂場にしておこうか。服汚れたらパパが代わりに謝っておくよ。

 場面が切り替わる、カグヤの誕生日だろうか。ああそんなに目を輝かせちゃって、だれも取ったりなんかしないから、ほら落ち着いて蝋燭の火を消して。さあ好きなだけお食べ。あはは、本当に甘いものが好きだなカグヤはさ。

 またまた場面が変化する、でも前にはまだケーキがあるぞ。いや、待てまさかそんなことがあっていいのか。

 「パパ!お誕生日おめでとう!」

 なんという事だろうか、泣いていいかいや泣くね。娘が精いっぱい言葉を覚えて歌ってくれるハッピーバースデイの歌ほど、心が安らぐものはない。ああそうだね、今日はお父さんが、パパが火を消さないとだもんね。

 次の場面はどんなのだろうか、いやさっきより何か空気感が変わったな。なあカグヤってどうしたその態度は、まさかここって反抗期なのか。

 「パパウザイあっち行って。」

 あ、それでもまだパパ呼びなのね、可愛いね。でもマジで言われたら立ち直れなくなりそうだな。世のお父さん方はこれと毎日戦っているんだな、合掌。

 ああもう、さっきから場面の切り替わり速すぎるだろ、もう少しこの反抗期を来たという事への寂しさと嬉しさを楽しませてくれ。ってこれは何だろうか、その隣にいる男は誰だい。待ってまさか、嫌だその先の言葉はまだ聞きたくないし心の準備ができてない。

 「お父さんは認めませんからねぇぇえ!」

 その声で意識が戻って来る、いや本当に戻ってきたと言えるのかの。あれが実は現実で今俺が見ているこの景色こそが夢なのではないのか。胡蝶之夢とは言うなれど、これほどまでに恐ろしきことは無し。

 カグヤはと言うと馬と戯れるのにも飽きたのか、ダンゾーと追いかけっこして遊んでいた。どうやらポツンと俺は突っ立って夢を見ていたようだ、疲れているのかな。

 クイーンセレストが物凄く冷めた目をしてこっちを見てくる。おいなんだ、別にトリップしてたけど戻ってきただけまともだろ。え、まともな奴はそもそも娘がいる家庭の妄想なんてしないって。はいごもっともです、ぐうの音も出ません。

 「子供欲しいな。」

 まさかゲームでそんなこと思わされるなんてな。心が寂しいぜまったく。


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