案の定
お昼です。
大丈夫だよな…(誤字、誤投稿)。
猛スピードで走らせる恐怖を味わった後、馬なりに走らせて戻ることにした。いや馬なりでもいつ気が狂ったように走り出すか不安で仕方がない。さっきみたいな急加速されたら今度こそ落馬してしまう。
ただ、ああこのスピードは気持ちいいな。なんだろう、ちょうどいい風が頬を撫でるというか髪がそれなりにたなびくようだとか、兎に角緩やかな風になった気分の速度だ。
「ああ、この速度でまず慣れよう。気持ち悪くならなそうだし。」
痛みが来なくても衝撃が五臓六腑に染み渡る。そうすると脳が気持ち悪いって誤認し、結果乗り物酔いのような症状が出てくる。実際は揺れてなんかないんだけど、技術の弊害って奴だ。
一ハロンぐらい軽く流して走る、どうやら調子が出てきてしまったようで、セレストはうずうずとしている様子だ。頼むからその興奮をどうにか抑えてくれ、主に俺の胃のために。
「ふぅ、よしまあこんなもんだろ。」
暴走と失速、それから馬なりで走らせた結果門からはそれなりに遠ざかっていた。何メートルほどだろうか、1200ぐらいは走ったような気がする。丁度短距離走と言われるぐらいの距離だな。そういえばこの子の適正距離はどんぐらいだったのだろうか。まあもうあそこで走ることは無いだろうけど、何となく知りたくなってきた。
「やっほーお先~。」
誰だろうか、全く知らない人が横を通って行った。馬に乗ってそれなりの速さで駆け抜けている。まああれぐらいの速さが丁度いいのかもな。
因みに関係ないことにしたいのだが、馬という生き物は競争心が強い。とくに荒くれものの性格の個体は、他の馬に抜かされることをとても気に入らない。さあここで問題です、興奮のボルテージが上がっていて尚且つ気性が荒い馬が、無理矢理速度を抑制されている横を猛スピードでぶち抜かれたらどうなるでしょうか。正解は
「っちょ待ってーーーーー」
そう、暴走だ。ヒヒーンと大きく嘶いて、力強く足で地面を掘るかの如く突き進みだす。もう手綱を握るだけで精一杯だ。しかももう理性もぶっ飛んでいるようで、いくら引いても止まらない。
さっき横を行った人が見える。あと何馬身離れているのだろうか、電光掲示板があったら大差ってつけられてるかもな。まだゴール駆け抜けてないけども。
速度がまだ上がる、さっきまでの速さが全力じゃなかったのは今この瞬間の力強さで理解できてしまう。それに脚質やスタミナ配分的にこの子、長距離馬だ。いやだからと言ってこのスパートを続けてたらすぐバテてしまうし待っているのは故障だけだ。
「んぎぎぎ、ちょっとは言う事聞けこのっ。」
必死に手綱を引くが、一向に首が上がらない。それどころか完全に俺の引く力より首を下げる力の方が勝っている。おかしいな、これでも筋力振りしているんだけどな。
「え、ちょ何で追ってきてるんですか。」
そうだよな、いきなりさっき抜かした奴が後ろからヤバイ速さで迫ってきたらびっくりするしついてきたって思うよな。残念、これは俺の意志じゃないんだよな。助けて。
およそ5馬身差、なんだっけ昔のコマーシャルに5馬身差の余裕ってあったよな。あれ好きだわ。でも弟のコマーシャルは7馬身差の衝撃だったよね、仕方ないよね。
さあ後方から上がってきたクイーンセレスト、その差は3馬身ほどだぞ。一方名も知れぬ馬苦しいけど粘っている。セレストが差し切るかそれとも逃げ切るか。俺はさっさとこの子を止めて引き返したい。
「え、真面目に何で追ってきてるんですか。」
並んだ、いやマジで何でこの脚持ってるのに勝てなかったんだよ。どれだけハイレベルだったんだろうか、このゲームの競馬はさ。
「はぁはぁ、競争心が刺激されたみたいで、この馬が止まらないんだよ。」
多分今は首差かな、因みに抜いたほうです。いやそんな変な目しなくても、今日買ったばかりでまだ懐かれていないし脚質も何も知らないんだよ。
いやこれマジでどこまで行くんだろうか、いい加減止まらないか。そう念じながら思いっきり綱を引く。こいつは抜かしてようやく満足したのだろう、やっと命令に従ってくれた。
「なんか……面白い馬買ったんだね。」
最低限の慰めのような言葉をかけてくる、いや別に後悔はしてないよ。でも確かにユニークと言えば聞こえは良くなるような馬だよまったく。
「すまんな、迷惑かけて。」
実際ペースを乱しただろう、君の馬汗が垂れてきているよ。多分無意識のうちに速度を上げていたんだろう、普通はしなくていい消耗をしたはずだ。
「いや、別にいいよ。」
そう言ってハイヤと腹を叩いてまた道を進んでいく。心広くて助かったな、なあセレスト。そう念込めした目で見つめると、流石にバツが悪いのか目を逸らす。
「…はぁ。」
今ここで叱ってもしょうがない、とりあえず戻ろうか。もちろん馬なりの速さでな。
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