最初の村は
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数百メートルの道のり、ここには危険が潜んでいる……なんてことはなかった。ゲーム序盤あるあるの雑魚敵が襲い掛かってくるわけでもなく、他の初心者プレイヤーと談話するお約束も無く、唯々道なりを進んでいる。
のどかだ、唯々のどかだ。草原にシートを引いて横にでもなればすぐ寝つけるぐらいには平和な空気が漂っている。おかしい、敵がいないのはまだポップしていないか湧き範囲じゃないかのどちらかだと考えられるが、オンラインゲームに人の子一人もいないのは流石に異常じゃないか。もしかして過疎ってる?
結局村の入り口まで誰にも、何にも会わないままで辿り着いてしまった。もしかして俺ゲームにログインしたんじゃなくて異世界に転移したんか。そんな一蹴される妄想までする程気配を感じなかったんだ。村にまで人がいなかったらどうしようか。
「あら、旅の方かしら。ようこそライ村へ、何も無い村ですがどうぞごゆっくりしていってください。」
そんなことはなかった、良かったNPCがいた。…本当にNPCなのか?少し恰幅のよい気のよさそうなおばちゃんだ、頼むNPCであってくれ。
「あら、私としたことが。すいません、身分証見せてもらってもいいかしら。」
身分証?そんなもの持っていない。そもそもアイテムなんぞ初期装備以外所持欄にない。
「すいません、実は身分証を持っていなくて…。」
「あらあら、落としてしまわれたのですか……ああちょうど良かった、今冒険者組合の出張所が出来たところなんですよ。そこで再発行してもらいましょう。」
落としたなんて言ってないが、おそらく進行上の定型文かなんかなんだろう。ここは肯定してついていこう。
入り口からほんの数十歩歩いたところにある木造の平屋、これが出張所らしい。しかし平屋なのか、こういうのは二階以上あって上のランクの人が最上階にいるっていうのがテンプレだと思っていたんだが。
「さぁ、入って」
キイと少し軋んだような音を立てて扉が開く。まだ新築間もないのか新しい木材の香りが室内を漂っている。それに酒の臭いも。
「あら、もうこんな時間からお酒なんか飲んじゃって、お仕事に障りますよ。」
「ええい、ワシら冒険者はいつ死ぬかわからんのじゃ。酒ぐらい好きに飲ませろってんだ。」
間髪入れずの応答。まるで何を言われるか分かっていたかの如き反応速度。
「あなたは冒険者じゃなくて受付でしょ、仕事をしてくださいまったく。」
って冒険者じゃないんかい。一瞬先輩キャラがいろいろ紹介してくれるのかと思ったぞ。
「つったってよぉ仕事なんて全然ないじゃないか。酒を飲む以外にすることあるかい。」
「あるよまったく。旅人さんの身分証作り直す仕事がね。」
本題に入った。再取得も何も俺は所属もクソもないんだが。
「お前さん、名前は。」
赤ら顔のおっさんがこっちを向かずに話しかけてくる。なんならジョッキをさらに傾けている。
「クヌギと言います。」
「ほれ。」
おい、いくらなんでも速すぎないか、今のやり取りほんの数秒だぞ。渡されたものを見れば「冒険者:クヌギ、初級」と木の札に彫られている。
「次は無くすんじゃないぞ。」
そういって受付のおっさんは空にしたジョッキに新しい酒を注ぎ直して背を向けた。
「良かったねぇ、それがあれば基本どんな街でも入れるよ。でももう無くしちゃいけないからね。」
そういっておばちゃんも建物を後にする。俺、どうすればいいんだ、付いていけない…。
それと同時だった。いきなり周りに多数のプレイヤーが現れたのは。
ようやくそろそろ虫が出せそうでせぇ……。