再会
お昼です。
今日のご飯は何ですか。
「カグヤ、何か食べたいものでも見つかったか。」
大通りを歩いて目ぼしいものはないかと探る。カグヤはさっきから頑張って笑顔を見せようとしているけども、さっきの綿菓子を食べていた時のように心の底から笑えていない。
カグヤの顔に何としてでも笑顔を戻さないと、そう思って歩いていると人ごみの中に見知った姿を見つけた、コナラさんだ。
「あ、コナラさん、奇遇ですね。」
「クヌギさん、それにカグヤちゃん。」
カグヤに視線が行った所で語が弱まる。何かあったことを察してくれたのだろう、少し渋い顔をして話しかけてくる。
「……何かあったの。」
「心無い言葉を投げかけられたんです。」
決してなんと言われたかまでは言わない、俺が言って心の傷口をまた開くようなことをしてしまえばもう二度と人を信用することなどできなくなるであろうから。夫人がそうなのだろう、人に封じられたが故に人を憎む。カグヤにはそうなって欲しくはない。
「それで今気分転換できるような場所を探していましてね、良かったら教えてくれませんか。」
「……そう、わかった。ついてきて。」
悲痛そうな顔をしている、本当に優しいんだなこの人は。カグヤのことをちゃんと人として接してくれている、容姿も知っていてしかもあの時攻撃を受けたのにもかかわらずだ。
カグヤの腕を引く。さあもうその顔はおしまいだ、枯れ木に花を咲かせましょうか。
ほんの少し進んでコナラさんが止まる、意外と近かったな。さっきの屋台通りと同じで多くの屋台が所狭しと並んでおり、香ばしい香りに甘い匂い、食欲を誘惑する魅惑的な匂いが辺り一面を覆い尽くしていた。
「すみません、まだあれ残ってる。」
「お、コナラちゃんか。ああまだ残ってるよ、いくつ欲しいんだい。」
コナラさんの手に渡されたそれは、夏祭りといえば何と聞かれた際に、かき氷や焼きそばと並ぶ定番商品、りんご飴であった。え、俺の地元だとりんご飴無かったって。俺の地元だと毎年あった定番だったのさ、地域差と言う奴だ。
「はいこれ、甘くておいしいよ。」
そう言ってカグヤに目線を合わせた状態でりんご飴を手渡しする。カグヤはと言うと、おずおずと手を伸ばしてそれを貰う。ここまで他人を気にするような子だっただろうか、最近の発達と何か相関関係があるのかもしれない、今度運営のページとかでAIに関する情報とかを手に入れないとな。
カリっといい音が鳴る、どうやら気に入ったようでそのまま二口三口と続けて食べ始める。
「美味いかカグヤ。」
こっちを見てにっこりとほほ笑んでいる。良かった、少なくとも笑える元気は出てきたんだな、万歳甘味、万歳コナラさん、そしてペテン師と泣かせたアイツは地獄行き。
「コナラちゃん、その人とはどういった関係で…。」
店のおにいさんがそう聞いてくる、いや分かるよあんちゃん、美人の馴染み客がいきなり見知らぬ男連れてきたらそう思っちゃうよな。だがもう少し考えてくれないか、もし深い関係があるのなら、そもそもここに今までに一度でも顔は見せていることになるだろうに。
「新しいクランメンバー、虫班に配属されることになってる。」
「……あ、そっか、そうだよね!」
おい元気づくな、なんだこのゲーム直結厨多いのか。いやまあ仕方がないと言えば仕方がない、皆美人にアバター作るし何なら現実でも普通にきれいだったってことも多いらしい。何よりゲーム婚というのが前々から流行るようになり、自身の婚期に焦りを感じるようになった奴が多く参入するようにもなった。そりゃ意識もするわな。だが人前だったりモラルを考えてくれ。
「私はヨウソウです、お名前を伺っても。」
「ええ、私はクヌギと言います、よろしく。」
手を握って来る、おい握力強めで握りやがったな。なんだ威嚇かそれとも手を出すなってことか。いや出さないよ、カグヤの情緒教育に悪いし、そうじゃなくても恩人なんだから。
「ところでその子とはどういう」
「NPCだが娘だ、何か。」
おいなんだその目、別にいいだろ。お兄ちゃんだと思ったらその時点でお兄ちゃんなのと同じでお父さんと思ったならもうその時点で俺はもうお父さんなんだよ。
「お、おうそうか。そりゃあ良かったな。」
だから止めてくれその空しいものを見る目をさ、俺は今とても充実しているんだ、まさしく家族の情を覚えているんだ、お前も感じてみたらわかるさ、だから今度魔獣捕まえに行こうぜ、魔物じゃなくて魔獣の方をさ。
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