待ってくれ
ちょっと今回は短めかもしれません。
「だから、さっきからそう言ってるでしょう。」
あれから詰め所に連行され事情聴取を受けている。カグヤとは離れ離れになっている状態、大丈夫だろうかあの子は。何かされてないだろうか。
「いやだがな、あそこまでの服を仕立てられるのは一部の職人だけで、お前みたいな冒険者にあのレベルの服を買い与える財力などあるわけがないだろ。」
さっきからこの繰り返しだ、それはお前らがキャタピラーの生態を知らないからだろ、お前らの無知であの子との時間を無くそうなど言語道断だぞ、いいから離せ。
「所長、少しお話が。」
お、誰か入ってきた。あ、カグヤも一緒だもしかして釈放の時間か。何か耳打ちをしている、そのタイミングでとてとてと歩いてカグヤがこっちに来る。大丈夫だったか、何かされたか。そうカグヤから聞こうとしていると
「ほうそうか。おい嘘つき、その子の親が引き取りに来るとさ。人攫いは重罪だ、縛り首になるか竜谷の刑か覚悟するんだな。」
おい、頭おかしいだろ。この子の親はそいつでも無いし俺でもない、自然だぞ。流石に頭にきたが、ここで槍抜いたら大事になり過ぎる、いやそもそも持てないんだけども。どうにか穏便に行く方法をと思いカグヤの顔を見せるかと考えたが、それはただ彼女の感情を傷つけかねない。
そう窮地に立たされていると、カグヤが今まで被っていた白い布を放り捨て、着物の隙間から第二の腕と翅を出す。その異様さにさっきまでニヤニヤしていた二人のおっさんはぽかんと表情の抜け落ちた顔をしている。
「……これが証明だ、この子の親は人間なんかじゃない、俺でもない、自然だ。」
これで裁かれるのは俺でなくおそらく何処かでカグヤを見た服目当てのペテン師だろう。さあカグヤ、さっさと戻って観光の続きといこうか。
「ば、化け物」
去り際の一言、良かったなお前らここが非武装地帯に指定されてて。武器持ててたら関係なく切り伏せるところだったぞ。
「言ってろ免罪マン。」
こうやって悪口でも言っておかないと怒気を抑えられない。そう苛立って詰所を乱暴に出ていった。
「カグヤ…大丈夫か。」
カグヤは自分の容姿をどう思っているのか分からない。最初から顔を隠せる布を持っているが、これのモチーフは確実に花嫁衣裳だから関係ない。
カグヤはちゃんと人の言語を理解できる、それに最近は発話能力だって発達してきている。そして精神面だが、恐らく見た目通りの児童期と変わらない精神構造のはずだ。
ぎゅっと手が掴まれる、痛みを覚えるであろうぐらいの握力で。フルフルと震えている。ああ泣いているんだな、カグヤは女の子だ誰しも自分の容姿を貶されたら悔しいはずだ。
ぎゅっと俺も力いっぱい抱きしめる。いっぱい泣いていいぞ、落ち着くまでずっとこうしていていいぞ。俺はお前の事、化け物だなんて思ったことないからな。
ゆっくりと背中を撫でて落ち着けるように努力する。ああ、ゆっくりと呼吸しよう、そんなふうに詰まりぎみだと過呼吸になってしまうよ。
「カグヤどうだ、落ち着いたか。」
あれからどれ程泣いていただろうか、カグヤは何とか泣き止むことに成功した。しっかしあいつらうちの娘を泣かせやがって、次野外であったら闇討ち上等でぼっこぼこにしてやるからな。
「また綿菓子でも食べに行くか。」
もしかしたら他のお菓子を作っているプレイヤーもいるかもしれない。とりあえず何か美味しいものでも食べて気分をリフレッシュさせてあげたい、そんな気分だ。
カグヤの精神構造が段々と人へと変化していっています。




