観光?
私の作品が、午後12時をお知らせします。
カグヤの手を引いて道を進む。人の波は治まって、何とか落ち着いた場所に出る。綿菓子はもう食べきったのかそれとも溶けて消えたのか、そのちいさな手には棒だけが握られていた。
「カグヤ、綿菓子美味しかったか。」
「あい!」
ああ可愛い、それしか言ってないがマジで可愛いんだよ。親ばかってやつだろうか、よく娘が歩いたといって写真を何枚も撮ってはきゃあきゃあ言っていた姉の姿と今の俺は多分そう変わらないのだろう。あの時あの丘で刷り込みが行われたのはカグヤじゃなくて俺の方だったのかもな、もしくはカッコウの托卵、いやこれはイメージ的によくないからやめよう。
「さて、適当に流れてきたけど、ここ何処だろうな。」
人の通りは疎らで、さっきからこっちをちらちらと見る目が鬱陶しくて仕方がない。見られる分には全然いい、だがそのなんだ、こう腫れ物を見る目というか異物を見るめというか、なんというか纏っている目線が気持ち悪くて仕方が無いんだ。
「これはちょっと戻った方がいいかもな。」
「おい、ちょっと待ちな。」
踵を返そうとしたタイミングでのっそりと箱、路地から不良だと人目で判断できる人相の悪い奴らがニタニタしながら出てくる。
「えれぇいいもん着せてるんじゃんか、そんなに金持ってるなら分けてくんねぇかな。」
おいおい、刃物に手を掛けていう言葉じゃないぞ。借金取りでももうちょっと穏やかにできるというのにお前らときたら。
槍を取り出す、どうやらこの場所は非武装地域ではないようでそのまま構えることだってできた。
「何で見も知らないお前らに渡す必要がある。」
穂先をしっかりと前に向けて問いただす。おい、何顔真っ白にしてるんだよ。先に売った喧嘩だろ、最後までしっかりとケジメつけるのが筋ってもんじゃないのか。
「お、おいお前ら、数はこっちが上だ。囲んで殺しちまえっつ。」
うーんどうしようか、あダンゾー駄目だぞ、お前が噛んだら殺しちまう。カグヤも駄目だぞ、お前の鱗粉と呪いのコンボだと辺り一帯が死にかねないぞ。
「演舞、今回はまあ殺さないでおいてやるよ。」
そういってカグヤを担ぎ上げる。ごめんな、米俵みたいに持ち上げて。そうやって何する気だと構えているチンピラの空いている包囲網を突いて疾風の如く通り抜ける。
「あ、逃げやがった、追え追えっ。」
ほいほいっと箱を踏んで屋根上に飛び上がる。体が軽い、羽でも生えたかのように軽やかだ。流石に米俵式はお腹にダメージが行きそうなのでお姫様抱っこに切り替える。軽いんだよなカグヤ、もう少し肉付けてやらないとお父さん心配だよ。
次から次へと屋根を飛んで移動する、来た道戻っているはずなのだが結構複雑だったんだな、そしてこんな治安の良くない場所に来たのも人の流れを避けようとした弊害だな。
ここら辺で良いか、もう追手の声すらしなくなった所で屋根から飛び降りる。演舞と落下ダメージのおかげで安全地帯のはずの都市内なのに削れるとかいう訳の分からない状況になっているのおかしいな。
「さあカグヤ、もう大丈夫だぞ。」
そういって降ろそうとする、が両手でしっかりと俺の腕を掴んで離れようとしない。なんならもう二本の腕で俺の体を掴んでいる。これはまさか継続しろと。
「ほらカグヤ、このままだと他の人に迷惑かけちゃうかもしれないだろ。」
「やっ!」
嫌々期でも到来したのだろうか、ああそんな嫌だなんて、自分の意見ちゃんと持っててえらいぞ。もうなんだって褒めてしまいそうだな俺、多分一番教育に携わっちゃダメなタイプだな特に自分の子供の。
「分かった、大通りに出たら降ろすからな。」
条件付けで許可するしかない、いやだってもしかしたらまだ追ってきてるかもしれないしな、別にカグヤの嫌々が俺に対してじゃなく甘えたさから来ているのがうれしいとかそういったものではない。そうだぞダンゾー、だからそのヤレヤレみたいな顔するな。お前蜘蛛なのに何でそんな表情豊かなんだよ、スライムだってそんな顔しないぞ。
そうやって道を進み続ける。なんだかさっきとはまた違った場所で閑静と言えば聞こえはいいが、人の喧嘩話も子供の無邪気な声も、どんな旋律も風に乗らずにただ無音だけが漂っている。
「さっさと大通りまで戻るか。」
そう呟いた辺りで初めて子供がこっちをじっと見ていることに気づく、なんだどうしたんだ。あ、まさか人さらいだとでも思われてるのか。
「おいちゃん、どうしたの。」
あ、話しかけてきた。なんだ困っているのかどうか見極めてたのか。今時こう誰かの為に動こうとする姿勢ってダサく思われちゃうけど、でもその行動のおかげで救われる人って多いのよね。
「ああ、大通りに出たいんだけど道に迷っちゃってね。」
「それならこの道まっすぐで大丈夫だよ。」
ありがとう、そう言おうと思ったら少年は手をずずっとこっちに出して何かを待っている。もしかして金でもねだっているのか、服も襤褸が来ているし多分貧困層なのだろう。
「あいよ、こんぐらいでいいか。」
「うん!」
まあ助けられたしお礼金として渡すとなればまあ大丈夫だろう、100ゲルほど渡しておくことにした。少年は渡された金を数えてその顔を綻ばしている。
少年はそのまま路地裏へと走り去っていった。しかし本当運営はこういった場所作りこむな、繁栄の裏には闇があることをまざまざと突き付けられた気分だ。
程なくして大通りまで戻ることに成功した。降ろそうとする前にご婦人たちを目が合う。今の俺の格好は顔が出てる黒ずくめ、腕の中には純白の絹織物に身を包んだ女の子。
あ、その顔人攫いだとでも言いたいんだなこん畜生、待ってくれ叫ばないでくれ。
「キャーー人攫いよー!」
あっという間に集まってきた衛兵に囲まれる。おいおい、止めてくれよまったく。
カグヤのこと最近幼児化しすぎじゃないか俺?




