観光
最近体調がよろしくなくストックがあまり作れないので、更新頻度が一日一本になる可能性があります。
そこのところよろしくお願いいたします。
「はい、証明書見せて。」
鎧に身を包まれた門番に止められる、という訳ではなく文官のような人による入国(?)審査が始まった。
「えーでは、入城の理由をお聞かせ願いますかな。」
「観光と職を探しに。それと仲間との待ち合わせの場になっているので。」
マジで空港とか国境のあの感じだ、村みたいに適当ではないことを見る限りこうなんというか、安心感を味わうな。
「なるほど、では妹さんの身分証をお見せいただけますか。」
あ、やっぱり妹だと思われるのか。夫人のことを知ってそうな村人がいたしお婆さんの例もある、意外とヒトガタの存在を知っていることもあると思ったのだがまあ普通そうは考えるものでもないからな。
「あの、この子は実は従魔でして……」
「ああ、“そういうこと”ですか。」
何を勘違いしたのかすこしの軽蔑と羨望を混ぜ込んだ視線を投げかけてくる。何がそういうことなのだろうか、もしかして隠語に従魔があるのだろうか。
「ええではどうぞお入りください、ただし何か問題がありましたら即刻退去していただくことになりますので。」
そういって開かれた門へと招き入れられる。いやあ楽しみだ、カグヤに、ダンゾーにいろんなものを見せてやらないとな。
「すっご……」
城壁を見たときと同じ感想しか出ない人間、それが私です。語彙力の海がそこら辺の井戸程度しかない俺に、この秀麗で賛美の送られるべきこの土地を言い表す言葉など浮かび上がってくるはずがない。
カグヤからもワクワクした感情が、腕を通して感じ取れる。そうか、カグヤも楽しみなのか。
「さあ行こうか、いろんな所見に行こうな。」
俺も年甲斐なく胸中をざわつかせている。ワクワクといった感じだ、楽しみでしょうがない。
このゲーム初めて何日が経ったのだろうか、今日初めて大都市に突入するのであった。
回りを見渡せば人、人、人、たまに従魔が辺りを通っては消えていく。町が彼らをかき消しているのかそれとも俺の認識の範囲外に彼らが向かっているのか、なんだからしくないことを考えている。あれか、今になって語彙力の無さに恐怖して頑張ってそれっぽいことでも言おうとでもしたのか俺、センチメンタルかな。
カグヤはと言うと、何かをじっと見つめている。その視線を辿って行ってもただ家があるだけだ、それも少しボロが来ている感じで首都の華々しさには似つかわしくない外装だ。
「カグヤどうした、あの家に何かあるのか。」
カグヤはというと首をフルフルと横に振っている。その代わりと一定のだろうか、触角がピクピクと動いている。何かフェロモンでも感じ取ったのだろうか、向こう側からくるものに反応しているのかもしれない。まあフェロモンをよく感じとるために触角が発達するのは基本オスなんだがな。
とにかく歩いてみよう、もしかしたら何処かでその謎にたどり着けるかもしれないからな。何かの塗料の匂いの可能性もあるし。実際花の香りのする柔軟剤を使った洗濯物に蜂が付きやすかったりする場合がある、因みに体験談だ。その匂いが風に乗ってここまでやってきたのかもしれない。
「やっぱ門から近いからか宿屋だったり飯屋が多いな。」
多分門前町と同じ感じで旅人だったり冒険者を客にしているんだろうな。さっきからあっちこっちから肉の、パンの、香草のいい香りが辺り一帯を包んで鼻を刺激しに来ている感じからして、腹を空かせてガッツリ食べたい奴さあ来いと言っているようなものだし。
ぎゅるるっとお腹の鳴る音が聞こえる。カグヤの腹の虫が鳴き声を上げたようだ、お腹をさすって食事が必要だと目で訴えてくる。
「おあか、すいた。」
いや、なんとまた態度だけじゃなくて言語でコミュニケーションを取ろうとしてきたぞ。これは確実にお腹すいたと言いたいんだろう。ああ、最近娘の成長が早くてお父さん泣いちゃいそうだよ。
「そうだな、何か食べようか。」
屋台が並ぶ方へと足を進める。なんだか祭りを思い出す感じのする人の混みようと匂いだ。焼き鳥とか焼きとうもろこしが食べたくなってきたな。
「あえ!あえ!」
指さして何かを一生懸命に訴えかけている。目が輝いているな、椎茸みたいな目をしている。
何を見つけたのだろうか、指先を目で追っていくとそこには、隅っこに綿菓子を売る屋台があったのだ。他の出店に綿菓子は無いし、あれ確実にプレイヤーだな。
「あれ食べたいのか。」
そう聞くとブンブンと頭を上下に振っている。ここまでハイテンションなカグヤは初めて見たかもしれない。もしかして甘いものが好物なのかもな。
「すいません、一ついくらですか。」
「お、綿あめ買ってくれるのか。」
ああ買うよ、だけどその食いつきようは何だ。もしかして今まで売れてなかったのか。
「うう、ようやく客が付いたぜぇ。」
まあそりゃそうだろ、こんな目立たない場所で商売なんかしてれば誰も来ないだろうに。こんな場所でできるのは隠れた名店みたいに武器になる商品持ってるか利益度外視の趣味だけだぞ。
「それで、ひとつおいくらで。」
「ああ、150ゲルだ」
たっか、俺の感覚からしたら高いぞ。完全にプレイヤーにだけ売ること想定しているな。まあカグヤの為にも買うんだけども。
「まいどあり!」
大きく純白の絹を想起させるふわふわの綿あめをカグヤは美味しそうに頬張る。食べるスピードが速い、よほど気に入ったんだろうな。
歩きながら食べようかとも考えたが、この混みようだ、いらぬ問題を生み出さない為にも、カグヤが怪我しない為にもここで留まって食べさせた。
しかし、本当になんて絵になる光景だろうか。カグヤの服装は白と基調として末端に行くにつれて桃色が入る和服で、綿菓子を持っている様は縁日を思い起こす。
そんなカグヤはいやでも目立つ。まあ服が全部絹だからそっち方面でも目立ってしまう。ようは今食べている菓子が、金持ちの令嬢も満足するものだとNPCには思われているのだ。
段々と人が集まって来る、このままだと人の波に飲まれて流されてしまう。
「カグヤ、行こうか。」
手を引いて少し足早にその場を離れる。あの店の行く末を、下人はまだ知らない。って誰が下人だ。
兎に角今は頑張って数作りますので…




