連絡
お昼です。
今日のご飯は何にしますか、親子丼?かつ丼?それとも牛丼?
最近まで胃腸炎でしたので私はここら辺の肉類が食べたいですね。
「はい、これ鍵ね。」
受付の擦れたお姉さんが鍵をほっぽって来る。値段もお手頃で個室に釣られたのが罠だったか。まあ需要が勝っている状況だからこの対応でも食えているんだろうな。
「鍵無くしたら弁償だから。」
本当愛想無いな、それ受付として適性あるのか。いやもしかしたらそうやってあしらってほしい人向けなのかもしれない。
階段を登って部屋へと向かう。いつの間にかダンゾーは定位置に戻っていた。やはりただの気まぐれであったか。
「ベッドは二つ、部屋はまあ狭めだが許容範囲内かな。」
まさしく寝る為の場所、日本人が想像するホテルだとか旅館だとかそういった場所ではない。どちらかと言えばカプセルホテルとかビジネスホテルに近いんじゃないか。
どっとベッドに横になる。ああ、この絶妙な硬さ、床より柔らかくそれでいて寝具と呼ぶには硬いこの感じ、俺んちのせんべい布団だ。
妙な現実を感じながらチャットを開く。メッセージが届いていたからだ。
ワシミヤ:現時点で研究対象が無い団員を招集する。
ワシミヤ:調査対象は5日後、メディウスに着き次第説明する。
ワシミヤ:そして虫班は全員招集する。
ワシミヤ:注意として今回は我々だけで動く
ワシミヤ:我がクラン以外は全て敵だと思って行動してくれ。
クランチャットの内容だ。虫班、多分コナラさん参加のグループだろう。あと多分俺もそこに入ってると思う。
しかし、極秘任務か、厨二心を擽られますな。何か珍しいものの調査なのだろうか、虫班を呼んでるから虫だろう。何がいるんだろうか、どんな虫なのだろうか。
そう心の中でワクワクした衝動を抑え込みながらにやけていると、ぼすっとベッドの弾力性を証明する音が横から聞こえる。見ればむすっとした顔をして、不満げであることを一切隠さずに見つめる複数の目があった。
「カグヤ、向こうのベッドが空いてるからそっちで」
「やあああぁあ」
ああ、カグヤが喋れるようになった、今日は赤飯でも炊かないとな。いやそうじゃない、頼むカグヤ向こうで寝てくれ。お前の見た目で俺と同衾でもしてみろ、確実に俺につくあだ名は鬼畜ロリコンだぞ。被害妄想だけども。
いや、待て。ボウブさんは俺とカグヤを見て兄妹だと勘違いした。この年の子との二人旅プラス一匹、肉親の情に餓えている小さい妹と一緒に枕を共にするのはあまりおかしなことではないのではないだろうか。
それにこのまま駄々をこねさせるわけにもいかない。そもそもカグヤはさっきまでずっと拘束されていて死ぬかもしれない状況だったのだ、怖かったなどと陳腐な言葉じゃ言い表せない鮮烈な感情を持たされたの違いない。
「仕方ない、ほら今日だけだよ。」
掛け布団を上げてカグヤを招き入れる。するとそのままもぞもぞと入り込んできて顔をうずめてくる。娘がいたらこんな感じなんだろうか。
背中をトントンと一定の間隔で叩く、昔母がよくしてくれたことを思い出しながらの行動だ。やはりこの振動だろうか、カグヤは数分も経たずにすうすうとかわいらしい寝息を立てて眠り始めた。
さて、俺も今日はログアウトするか。
「はい…はい…えっはい分かりました。」
翌日のことだった。いきなり在宅ワークに切り替わると説明を受けたのは。
何でも別部署で流行病の集団感染を確認、感染経路及び無症状者の特定が難しい為に、在宅に切り替えるそうだ。
久しぶりに社内アプリを立ち上げる、うわぁ家にいながら沼河童の顔なんか見たくないなぁ、見ないといけないんだろうけども。
『あ、先輩おはようございます。』
「おうおはよう、音割れしてるぞ。」
スピーカーから音割れした後輩の元気な声が響き渡る。耳が死ぬなこれ。
「そういえば亜紀」
『はいなんです。』
いろいろ聞こうと思った矢先に沼河童が顔を出してくる。くっそ本当に間が悪い人だな、いや妖怪か。
「この前頼んでおいた資料って出来てるかなって。」
本当はまだ時間があるからプレイヤーネームでも聞こうと思ったんだが、まあそんな話すれば妖怪乳狙いがゲームにまで押しかけて迷惑行為を働くことぐらい想像つく。
だからここは仕事の話でもして、私たちは業務内容を話してますアピールをしないと。
『ええ、出来てますよ、今から送りますね。』
ストレス、毎時、無音にて、亜紀が室内を見られたくないからとVR背景を使ったら外せと言い出す沼河童、他のお局様方や俺ら社員にはノーリアクション。
やはり乳か顔か、いい加減にしろよ妖怪若者喰らい、もしくはデカパイ狙い。
これ次回の報告会で上に一耳入れておきますね、だからさっさと別部署行ってください
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