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ラストダンス

今回こそは予約投稿失敗しません、本当です。

 「……あら」

 よくやったぞダンゾー、俺がやられる前によく成し遂げた。でももうちょい早くできなかったかね、お前途中から同族相手に揶揄い目的で跳ね回ってただろ。

 最奥で鎮座していた蜘蛛の巣からカグヤが引きはがされる。面白いことに、巣から剥がされた直後に、彼女を包んでいた糸もはらはらと崩れ落ちていく。それ捕縛用としては欠陥品じゃね。

 「すまないね夫人、どうやら連れが返ってきたようだ。」

 もうダンスの相手はお前じゃない、そう言外に含ませて語りかける。当初の約束通りに帰還させてもらおうか。

 「そうねぇ…でもお嬢さんはまだ動けないみたいね。」

 カグヤは長時間の拘束で疲弊したのか、ぐったりとして起き上がらない。ダンゾーが近づいていく夫人の子供たちに向かって懐かしき威嚇のポーズを取る。おいシュールだぞ。

 「止めなさいあなた達。」

 静止の声は意外なところから、夫人が止まるよう命じたのだ。何がしたいんだ本当に。

 「見つけたら返す、それが約束だもの。」

 なーんでナチュラルに心読んでくるのかね、もしかして脳波から言いたいこと分かってたりするのだろうか。

 「でもね、返したからと言って舞踏会はお開きになるなんて一言も言ってませんのよ。」

 「…おいおい、まさかのまさかかよ。」

 夫人のスタイルが変化する。ボンキュッボンになるとかそういった意味じゃない、武器の構え方が変わる。

 今までは片手剣を振り回していただけだったが、もう一本が追加された。しかもさっきよりどす黒い、あれ当たったら即死の毒塗られてるんじゃないだろうか。

 「ええ、最後まで踊り切りましょ。」

 夫人のボルテージが最高潮に達したようで、動きが凄まじく速い。およそさっきの三倍はあるんじゃないだろうか、赤くなっていないのにな。

 演舞を使っているのにも関わらず追いつけない。てかその手数に対しての攻撃力と状態異常はズルでしょうに。もう距離を取って回避するしかない。

 「あら、なんで逃げるのかしら。」

 笑っている、不快じゃない笑い方だから、この状況を目一杯楽しんでいるのだろう。こっちからしたら堪ったものじゃない。

 「激しいダンスなんかしたらうちの子が嫉妬しちゃうからなっ。」

 逃げていても埒が明かない、そう思い切って踏み込む。もう俺に出来るのは突きだけだろう。偃月は確実に当たらないだろうし。

 槍が脇腹を捉えて刺さる。が、わざと受けたようでその場でカウンターを打ち込もうとしてくる。咄嗟に持っている槍を捨てて回避する。

 「ねえこれ落としてしまいましてよ。」

 これ見よがしに槍を持ってブンブンと振り回している。だがそうしてくれるのはありがたい。

 「いいさ、まだこいつがあるんでね。」

 代用品として愛用し続けた無銘槍を取り出す。お前やっぱ短いな、さっきの槍と比べると穂先も短いしやっぱり安価品なのだろう。

 「お前こそいいのかよ、それ槍だぜ。」

 強さ的にステータスはもうとっくに満たしているだろう。だが槍の特質は剣とは異なる。片手剣ともリーチが違うし、切る面積や場所も違う。

 突きだけの動作なら剣なんかよりも確実に回避できる。問題はこの槍が何処まで耐えらるかだが。

 「さて仕切り直しと行こうかね。」

 俺もリーチの長さだったり刃渡りだったりと、そういったものの違いを頭の中に入れておかないといけない。それを理解しながら姿勢を低くして吶喊する。

 やはりな夫人、あんた槍の使用感自分の足と同じでやっているだろう。直線的過ぎるぜ。その分速いがさっきと違って手数が少ないし何処を攻撃してくるかの予想が立てやすい。

 「貰ったっ。」

 ようやくだぜ、ようやくお前に致命傷を与えらる。殺しはしないさ、さっさと開放してくれそれだけでいいさ。

 胸部を確実に突き刺すコースの一撃、しかしその攻撃は外からの妨害によって受け止められたのだった。

 「おい……嘘だろ」

 突き刺さったのは彼女の子分、中庭で激戦を繰り広げたトリノフンダマシであった。

 威力が足りない、何より刃を貫通させて突き刺すにも刃渡りが足りなさすぎる。結果俺の攻撃はだらりと力を無くした蜘蛛の死体を押し付けるだけだった。


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