マスカレード
祝!9万PV突破!
予てからの目標であった10万PVに手が届きそうです!
これからも本作をよろしくお願いいたします。
─あと少し
糸人形が近づいてくる気配を感じとる。どうやら私の場所の見当がようやくついたようだ。
この気配が無かったら、私はどれ程耐えられなかっただろう。この身であの人を感じられない時間と闇が私を覆い続けることを考えると寒気がする。
でも考えてしまう。あの子はずっとこんな思いをし続けていたのだろうかと。
あの子は私と同じだ、私と同類の匂いがする。
私に愛情が与えられなかったら、もしかしたらああなっていたのだろうか。
私の愛情は豊作だったのに、別の私には稲どころか田すら与えられていない。
同情、それに近いのだろうか。私の胸中は悲しみに溢れていた。
面白くない、それが私の胸の内を渦巻いている。多くの手下を仕向けてもことごとく返り討ちにして先に進んでくる。そういった姿は何回も見てきたから別に何も感じない。
分かっている、私がムカついているのは愛情を向けられている対象に対してだ。
私と同じで醜い存在だというのにここまでも差が生まれると言うのか、私は愛されたことなど無いのに何故お前は愛を知っているのだ。まさしく嫉妬だ。
ああ、何故私の主人とお前の主人が逆じゃなかったのか、変えられない過去にもしもの思いを馳せる。
チクタクと時計の針は進む、でもその針は決して戻ることなど無い。
私はただの蜘蛛であった、ある時偶々人に見つかり捕まって殺されそうになっていた弱小のね。
そんな私を助けてくれたのが主人であった。私はその人の家で飼われることとなったのだった。彼は村一番のお金持ちで、誰よりも広い家を持っていた。
彼は開いている部屋に私を連れていくと、大きめの籠に私を入れこむ。
それからというもの毎日決まった時間に餌を与えられ、毎日可愛がられた。私というものはこの時何が起きているのか全く分からなかった。
その体色から天敵に狙われやすく、力もない私に何故ここまでしてくれるのだろうかと。
私はこの時自惚れたのだ、人間は私を受け入れてくれる仲間だと。この人は私を受け入れてくれるのだと。
私はヒトになる事を願い続けるようになった、そうなれば必ずあの人ともっと触れ合えると信じていたからだ。
ある時商人から珍しい虫を貰ってきたとその人はウキウキして私に与えてきた。
もちろん彼から貰えるものはすべて頂く。あまり美味しくはなかったが味を我慢して咀嚼する。すると段々体に変化が訪れる。
メキメキと視点が高くなり、ヒトの腕が体が頭が生え始める。
程なくして私はあの人より大きくなった。あの人と言うと呆然としていた。
次の日だった、私は地下室の奥に連れてこられた。あの時の私はこれから何が起きるのか知らなかった。ただ彼に連れられることの嬉しさに頭が独占されていたのだ。
私はその薄暗い部屋で彼がまた来るのを待ち続けた。でも彼がこの部屋に来ることは二度となかったのだ。
私は幽閉されたのだ、あの人は私という怪物を恐れたのだ。
どれだけの時間が過ぎたのだろうか、私は部屋に迷い込んでくる虫を食べて生を繋いでいた。今まで開くことの無かったその扉は、ようやく開いたのだった。
扉を開けたのは見も知らない薄汚れた人間だった。盗賊であったようで、金目のものが残っていないか探りに来ていたようだ。
その男を殺して喰らう、人の肉は美味かった。久しぶりに飢餓感が癒え、心地よい空気を吸うことが出来た。
人は弱い。出てきた私の姿を見ただけで足を竦ませて許しを請う。
たった一夜で私は支配者となった。誰も私を傷つけることなどできなかった。
私はまた満たされるようになった、でも何でだろう。何故私は泣いているのだろうか。
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