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三時間目

祝!8万5千PV突破!

ありがとうございます!

 玄関ホールに戻る。ダンゾーはというともう先に戻ってきていたみたいで、花瓶の花に隠れて俺を待っていた。

 「ダンゾー、何か怪しい場所は無かったか。」

 しかしどうにも見つからなかったのか、ふるふると申し訳なさそうに首を振っている。

 「……そうか。」

 仕方がない。現に俺だって何も手がかりを見つけられていない、どうしてそれでダンゾーを責められるだろうか。

 「ダンゾー、こっからは一緒に行動して虱潰しに探すぞ。」

 二階に関してはずっと蜘蛛に攻撃されていたからもう無いだろう。後は一階だけ、こうなったら二人一緒の方が各個撃破されないし上策だろう。

 「行くぞ、さっさと見つけて帰るぞ。」

 ダンゾーが肩に飛び乗って来る。好きだなそこ、最初にあった時もそこだったよな。

 某黄色い電気鼠を想起させながら部屋を巡る。玄関ホール横の小さい部屋に目をつけ入っていく。

 「ここも従業員室か。」

 さっき二階で見た部屋と同じつくりの部屋だった。そして案の定というか予定調和と言うべきか、やっぱり天井から蜘蛛が来る。

 「今度はセアカゴケグモかよ。」

 セアカゴケグモ、オーストラリア原産の毒蜘蛛。毒性を有しているのはメスだけと言われていて、何故メスのみがと色々言われているがまだ分かっていない蜘蛛だ。

 こいつの毒はα-ラトロトキシンと呼ばれる神経毒、痛みはもちろん、筋痙攣に発汗呼吸不全を引き起こす。最悪の場合人すら殺す毒性を持っているのが、セアカゴケグモという生き物だ。実際オーストラリアでは死亡例がある程だからな。

 「噛まれずに倒してくださいってか。」

 さっきまで使っていなかったあのスキルを使用するか、槍を正眼に構える。

 「狩バチの極意、偃月ッ」

 生物特効は常時発動しているが、今回はもう一つの効果を使わせてもらおう。

 危機を感じ取ったのか、今まで受け止めようとしていた体勢を崩して離れようとする。

 「そのデカい図体、今更逃げたところで外すかよ。」

 穂先が体を捉えた、瞬間ひっくり返る。

 「知ってるか、ベッコウバチはな、蜘蛛を子供の餌にするんだぜ。」

 もう動かない蜘蛛にそうセリフを残す。神経が逝かれた状態で動ける生物は、この世界に存在できるはずがない。

 『あらあら、酷いことするのね貴方。』

 「止めて欲しかったら場所さっさと教えな。」

 やはり何処からか見ているのだろう、また的確なタイミングで俺への詰問が飛んでくる。

 『まあ構わないわ、起きなさい。』

 そう声が響いたと思うと、さっきまで転がっていた奴がむくりと起き上がり、そのままさっと逃げ出した。

 『ねえ知ってる、ベッコウバチって狩に失敗すると蜘蛛に食べられちゃうんだよ。』

 「……そんぐらい知ってる。」

 さっきの意趣返しか、嫌味な感じの言葉を受けながら部屋を出る。しかし狩バチの極意を当てれば倒せはしないが一瞬だ。

 「待ってろカグヤ」

 時短の道が見えた、これなら戦闘に時間を使わないで済む。今もどこかで俺を待つ我が子のために、館を走り続ける。





 「想定外だったわ。」

 まさか私の子がやられるなんて、あの男なかなかに危険ね。場所を屋根裏部屋からこっちに変えておいて正解だった。あそこだったら間違いなく見つけられて王手をかけられていたでしょう。

 「哀れよ、あの人も、そしてこの子も。」

 人は自分の理解の範疇から外れたものを化け物と呼ぶ。それは姿形といった、造形にまで及ぶ。

 ただの虫だったあの頃を愛でていても、人の姿を得たその時にあの時と同じ対応をしてくれるとは限らないのだから。

 この子は確かにまだ従魔として重宝されているのでしょう。でもその眼を、顔を隠すために覆われた布が何よりの証拠でしょう、人として愛していないのは。

 「ねえ、貴女はそれでもあの人を愛し続けると言うの。」

 さっきより糸を増やしたからもう答えられないのか、暴れる力も弱ってきている彼女に問いかける。

 「ふふふ、そうよそれでいいの。」

 彼女の瞳には、不安に揺れ動くカグヤの魂がはっきりと見えていた。

 「貴方は所詮虫、あの人は人間。壁は超えられないのよ。」



─止めて

 私を連れ去った張本人が、ずっと暗闇に閉ざされた私に囁き続ける。

 お前は求められていない、だってあなたじゃなくて新参の蜘蛛を選んだんだものと。

 違う違う違うっ。そうじゃない、あの人は違う愛してくれている。じゃなきゃあそこで私を抱きしめてなんかくれない。

 じゃあ何であなたはまだここにいるの、今度はそうやって聞いてくる。

 私は簡単な場所に貴方を隠したのよ。だというのにこの数時間、貴方はずっと暗いままでしょ。所詮その程度の愛だったのよ。

 違う違うちがうっ。嘘を言わないで、あの人はそんなことしないそうじゃない。

 ねえ早く、私を見つけて。



いつもご愛読いただき誠にありがとうございます。

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