二時間目
これが投稿されているということは、恐らく12時だということでしょう。
はい、予約投稿です。
屋根裏部屋から出る。降りる時に腐食した梯子を踏みぬき尻を強く打ち付ける。
痛覚切ってるからただ衝撃が来ただけだけども、これ最悪尾てい骨折るレベルだぞ。
「くっそ、こんなことしてる場合じゃねーのに。」
急いで立ち上がる。二階にはまだ見ていない逆方向の部屋があるはずだ。
勢い任せにドアを強引に開いて走り出す。今は一分一秒が惜しいのだ。
曲がり角でダンゾーとばったり会う、この様子からして手がかりはなかったようだ。
「ダンゾー、何か隠し部屋が無いか探してくれないか。」
蜘蛛が何処からともなくやってくるのだから、確実に通り穴があるはずだ。そこを辿っていけばあの夫人の下にたどり着けるはずだ。
「見つけたら玄関ホールに戻ってきてくれ。」
そう言ってまた別行動を取る。俺の槍で倒せる程度の相手にダンゾーが負けるはずない、その確証からの行動だ。
「頼むぜダンゾー、俺だけじゃ確実に見つけられる気がしないんだ。」
「ふふふ、必死ね。気に食わないなぁ。」
薄暗い部屋の中で私は不機嫌そうに何処からともなく映し出されている映像を見て誰にも聞こえない声量で呟く。
後ろの蜘蛛の巣では、彼が必死に探している彼女が、懸命に暴れて糸を剥がそうとしている。ああ、蜘蛛の巣に掛かった蛾ほど哀れなものはないわね。
目を糸で覆っているからあの子は彼の必死の捜索を知らないから、感情を揺さぶってあげても面白いかもね。
「ねえねえ貴方、ご主人様今にも逃げようとしてるわよ。」
全く別のことを言って嗜虐してみる。あーあ、物凄く暴れてる、哀れね。
「ふふふ、可哀そう。愛されてるって勘違いしてるのね、あの人は貴方のことなんて全く考えていないのに。」
人の愛情が気に食わない。他人の従魔が妬ましい。そして何よりもワタシと同じ虫人でありながらここまで愛されているのが狂いそうになる。
二四時間と言わずに今ここで殺してしまおうか、そう思うぐらいの激情が胸を巣くう。
…いや、それだけは私の美学に背くことになる。それだけは駄目だ。
「あ、そうそう。貴方の呪い、私には効かないから。」
はったりじゃない。私にはそう言ったものをすべて弾く能力がある。
あなたを解放できるのは、あの頼りない人だけなのよ。
「クソっここもハズレじゃねーか。」
二階客室、アシダカグモと戦闘する。立体的に移動するこいつは、今まで戦ってきた奴よりも戦いづらく、互いに攻撃が当たらないといったただ時間だけが過ぎる無駄な戦闘を行っていた。
槍がようやく前肢を捉える。そのまま強引に足を断ち切ろうとするが、穂先がめり込むだけで切断できない。
「何喰ったらそこ硬くなるんだよ。」
まだまだやる気のようでその足を庇いながら突っ込んでくる。たださっきほどの俊敏性が無くなっている。
「偃月、さっさと倒れろやっ」
頭部に強烈な一撃を叩きこむ。さっき怪我した左足のせいで蜘蛛は回避できない。
ドンと重い衝撃を腕から感じとる。決まったなと言える手ごたえ、だが奴はまだ動いた。
「嘘だろっ」
腹に衝突、力を乗せた一撃だったようで、五割も持っていかれる。一撃の重さでは歴代一位の攻撃だ。
「くっ……偃月っ」
苦し紛れの一撃、しかし蜘蛛はあの一撃に力を使い果たしたのか、それとも蓄積されたダメージからか回避行動を取れない。
頭を割る威力の乗った一撃、穂先は確実に脳天を捉えていた。だというのに倒しきれない。
俺から距離を取ったと思ったら、即座に屋根に上って消えていった。
「……これ落としていった装備着ないと死ぬな。」
あいつが落としていった装備品を見る。
『斑大蜘蛛の装束:耐久力+35 敏捷+10』
なかなかに優秀な性能をした装備、多分これ着て戦えという運営からのメッセージであり救済措置なのだろう。
ただこれを集める為に時間を浪費できない、いやしたくない。
「カグヤ…何処にいるんだよ……。」
二階にはいない、二時間の捜索で判明した事実はただそれだけだった。
─嘘だ。
この女の声は信用ならない。何故なら声音に私を虐めようといったニュアンスを感じ取ることが出来るからだ。それにあの人に渡した人形が近くから感じ取ることもできる。
私たちの仲を裂こうとしても無理だ、何故なら認められた仲なんだもの。
呪い殺そうとして力を溜めるもすべてが弾かれている。とても不愉快だ。
ねえ彼方、早く迎えに来て。ここは退屈なんだもん。
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