夫人からの招待状
予約投稿成功(素振り)
ゾンビパニックの翌日、忘れずにログインする。
明日が休みというのは何故こんなにも気持ちの良いものなのか、誰か科学的に証明できないのだろうか。昨日の疲労なんかもう無い、今はこのまま進みたいものだ。
だけどまた集団戦は勘弁な。
昨日のゾンビの討伐、できるだけという文言に果たして満たされていたのかどうか、確認するために泣き止んだカグヤを連れて出張所へと向かう。
あれで駄目だったらもう二度と受けてやるもんかと思うけども、イベント進行の為には必須だし再受注するんだろうなぁ。
ダンゾーも付いてくるらしい、今回はカグヤにくっ付いている。あらかわいらしい。
「ああ、良くご無事で。」
いや全然無事じゃなかったよ。無限腐肉編やるなら先に説明してくれないかなぁ。
「ええ、何とか。命からがらといった形でしたが。」
でも流石にそんなことは口に出さない。人との円滑な関係を育むには多少の本音を覆い隠すのがキモだ。まあ沼河童みたいな奴が相手だと顔に出てしまうかもしれんが。
「そうでしたか、それは何よりです。」
ほらもうニッコニコの笑顔だ、その裏に隠した悔しそうな顔は見なかったことにしよう。
「そうそう、何でも貴方の活躍を称えて、今晩舞踏会に招待したいと伯爵夫人から依頼がありましてね。どうかこの村と奥様の名誉の為にも受けて貰えませんか。」
これが個人依頼か。まあ事前に答えを貰っている、リスクは無に等しいからその罠依頼、踏んでやろう。
「ええ、是非受けさせて頂きましょう。」
笑顔で快諾、個人依頼を初めて受ける。前のお婆さんのあれも個人依頼と考えるなら二回目か。
「ああそれと、何でも奥様は従魔にも興味がある様子。是非連れていってあげてください。」
「ええ分かりました、では。」
『24時間の舞踏会を受注しました』
クエスト名にご丁寧に制限時間書いてくれてるんだな、こりゃあいい。
「カグヤは宿屋で待っててくれ。ダンゾー、行けるか。」
コナラさんが言っていた、昆虫族なら必ず屋根裏部屋、カグヤはどの種族に分類されるのか分からない為、今回は待っててもらう。
「すぐ帰って来るからさ。」
カグヤは不満な様子、また今度ずっと一緒にいるから機嫌直しておいてくれ。
納得はしていない、が待っていてくれるようだ。渋々と部屋に入っていく。うう、凄い罪悪感。
でも戻ってきた。その手には人形だろうか、真っ白な糸でできた不格好なそれをどうやらくれるようだ。お父さん、泣いちゃいそうだよ。
「カグヤの為にもさっさと終わらせようか、ダンゾー。」
一人と一匹、かくれんぼするにはちょうどいい人数じゃないか。
さっきと同じ道を行く。なんでも屋敷は森の奥にあるらしい。
「ゾンビに囲まれた洋館とかどう考えてもホラゲーじゃないか。」
実際さっきから襲ってくるゾンビを切り伏せては前に進んでいる状況だ。
昨日上がったレベルは九、意外と経験値が旨かったようでもう少し倒せていればレベル20になっていただろう。まあそれが出来なかったんだけども。
「まあ道中倒していけば上がるっしょ。」
穂先に残った腐肉を払う。こいつも酷使し過ぎたな、壊れたら困るしどうしようか。
木々の隙間から遠目に屋敷が見える。しっかし雰囲気あるな、ホラゲーとしてのね。
「マジで上がったなレベル」
いや道中にどんだけゾンビ配置されてるんだよ、確実に運営某ゾンビゲー好きだろ。
レベルが20に到達、脱初心者として見られるレベル帯だ。いや遅いな俺、もう初めて二週間は経っただろうに。
「屋敷内にゾンビいるかもだし、ステータス振っておこうか。」
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名前:クヌギ Lv.20 職業:戦士
生命力(体力) 14 +2
精神力(魔力) 5
持久力 22
筋肉(筋力) 34
技量(器用) 20
耐久力(防御) 10 +4
敏捷(速度) 8 +1
運命(幸運) 7
ステータスポイント:0
スキルポイント:0
スキル一覧
狩バチの極意 一閃 速突 槍術の心得 風車(円弧) 偃月 鋼の意志
装備
武器:無銘槍
頭:傭兵の鉢巻き(生命力+2)
胴:傭兵の皮鎧(耐久力+3)
腕:無し
足:傭兵のブーツ(耐久力+1、敏捷+1)
装飾品:カグヤの糸人形 (効果なし)
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スキルから槍用一閃の強化版スキル偃月、円弧の派生風車、そして気絶しなくなる鋼の意志を取得した。もうこれで殴られても心配ないな。いやそうじゃない。
え、体力に振らないのかって。多分火力が足らなくなる、ゾンビとあいつとの戦いで思った。
対生物を繰り広げ続けるならそれも有だ。だが祝福が効かない相手がいたら、無生物が相手だったら、有効打もなくただ負けるだけだ。
「さーてダンゾー、すぐに見つけに行くから心配しないでくれ。」
やれやれと肩で首を振っている、それでも逃げない辺り優しいよなお前って。
門番もいないし鍵も開いている鉄製の門を開ける。鉄のこすれる嫌な音をあげながら開いていくその様は、今から金切声を上げる化け物の口腔の中に入り込むようで気味が悪い。
庭は手入れされているようで荒れている形跡はない、ただ誰かがこの庭にいたであろう痕跡は見受けられない。
「……曇ってきたな。」
上空には厚く黒い雲が日光を遮っている。これは一降りくるな、しかもとびっきりのが。
ここで怖気ついても仕方がない、さっさと行かないと。
なんだか嫌な汗を掻きながら入り口へと向かっていく。まるで手招きされているみたいに。
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