一方的
いつもご愛読いただき、誠にありがとうございます。
畏まっている理由は特にありません、続きます。
「ねえ、もうちょっと悲鳴あげてくれないかしらぁ。」
上げたくても声に出せないんだよ、足に走った激痛を何とか噛み殺して心で叫ぶ。
体力はさっきからあまり減っていない。手加減の賜物だな、クソが。
「次は首に行くわよぉ~。」
首を守る。しまった、敵の言葉に乗ってしまった。
「はい、脇腹がら空きいただきまーすぅ。」
深々と突き刺さる。痛い、悲鳴の代わりに空気がひょうっと漏れ出す。
今ので全然体力が減っていない、もう勘弁してくれとすら思う。
うちの子達は手を出さない、否出せない。カグヤは能力の準備中で今動くことが出来ない。
相手が初見だからまだ見逃されているけどもし標的になったら勝ち目が潰える。
ダンゾーは木の上から動けない。ダンゾーの攻撃スタイルは奇襲を主にしたトラッパーである。つまり意識外にいないといけないのだが、奴は常にダンゾーを警戒している。
恐らくトリッキースパイダーのことを知っているのだろう。俺への警戒3割、ダンゾー7割といった具合から分かるってもんだ。
「一閃、速突、円弧ッ」
カグヤに感ずかれるまで俺は道化を演じなければならない。効かない攻撃を連呼しながら槍を打ち込む。
「ふふ、必死ねぇ。」
躱される、止められる、受けられる。俺が今まで与えたダメージは僅か1割にも満たない。防具の性能も、武器もレベルも、どれもが劣っている。
覆すには急所である首を確実に突き刺さないといけないが、出来るはずがない。
絶望的。それでもあの時、フィールドワーク副団長のコナラさんすら蹲らせたあの力なら、まだ勝てるかもしれない。
だからその時まで無様に舞ってやるさ、蛾の親分にふさわしいだろ。
─見ていられない
それが俺の率直な意見だった。俺の飼い主が圧倒的不利な戦闘をさせられている。
今にも死んでしまいそうだというのに死なないのは、敵が嗜虐心の持ち主でいたぶることを楽しんでいるからだろう。ゆるせん、そう思っても攻撃を仕掛けられない。
あいつの攻撃を受けながらもこっちを警戒する余裕を持っている。
正直に言おう、俺はそこまで強くない。奇襲とこの糸、毒があって初めて強者となる。
気が付かれている暗殺者の短剣を、喉元に受け入れる人間がどこに居るだろうか。今の
俺は戦う牙を失ったただの蜘蛛でしかない。
……だからといってここで手をこまねいているだけなのか、あいつが必死になって戦っているのに、ただ機会が無いと、ここで千日手を打ち続けるのか。
俺はいつでも離脱できる。この蜘蛛糸とばねのある足でこれまでやってきたんだ、今日だってできるさ。
標的に狙いをつける、避けられれば恐らく次はもう無いだろう。
蜘蛛糸を丸めカウボーイのように振り回す。
さあ、ここだ。
「あらぁ」
突然動きが止まる、首筋から体にかけて蜘蛛糸が覆っていく。ダンゾーが一瞬のスキを突いて拘束に取り掛かったようだ。さらに後ろから近づいて噛みつきに行く姿勢を取る。
「甘いわねぇ。まぁ所詮虫のAIだから仕方がないわよねぇ。」
そこに合わせるように剣を振ろうとしている、これが狙いのはず。急いでがら空きになった首を狙って槍を打ち込みに行く。
ダンゾーに剣が届きかける、がその足を巧みに使って飛びのき、顔に蜘蛛糸を吹きかけていく。
「な、なによこれ、気持ち悪い。」
オカマはこれで視界を封じられた、俺への警戒も忘れている。がら空きだぜ、首筋がよお。
「うげぇっ」
クリーンヒット、穂先が完全に首を貫通した。NPCなら確実に倒せるその一撃、だがプレイヤーの体力を消し飛ばすには足りなかった。
「そこねぇっ」
怒気を滲ませた一撃、恐らく手加減が乗っていない。これは回避しないとこやられる。
槍を引き抜いて躱す。俺に意識が向いた瞬間にダンゾーが噛みついた。
「どいつもこいつもぉ、いい加減にしろっ。」
ダンゾーが回避に失敗する。大きく吹き飛ばされ藪の中に落ちていった。
今しかない、怒気に支配されて冷静さを失った今しか。もう一度槍を突き刺そうとする。
だが
「ふざけやがってこん畜生がぁッ」
無理矢理引きはがして剣を大振りに振る。寸での回避、余裕を持って回避したつもりだったのに、さっきより刀身でも伸びたのかと思わざるを得ない。
「こっちが撫でまわしておきながら噛みつくとか超ムカつくぅ。」
「お前が勝手に手抜いてたんだろうが。」
相手から見れば振出しに戻ったのだろう。だが俺からしたら今、ようやく物事が進んだんだ。
もう準備が終わったんだ、今度こそ俺らのターンだ。
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