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先駆け

対戦よろしくお願いします。

 今日も今日とてクエストを受ける。ただ内容はいつものとは異なっていた。

 「ゾンビの始末、か。」

 アンデット族の魔物で、死がその場に溜まると発生する負の念の集合体。死体に入り込んで死の鬱憤を生者にぶつける傍迷惑な奴らだ。

 この前見つけたようにNPC冒険者がそれなりに死んでいるらしく、その死体に乗り移って攻撃してくるらしい。

 「プレイヤーのゾンビって出来たりするのかね。」

 プレイヤーは必ずリスポーンするから死体が残らない。でも何らかの形でゾンビが生まれたらちょっと面白いかもね。多分苦情殺到すると思うが。

 しかし、死体と言っても元人間、似ているだけのゴブリンとは違い、後味があまりよろしくなさそうな戦闘になりそうだ。あと臭いも。

 「…カグヤの鱗粉って奴らに効果あるのかな。」

 カグヤの鱗粉はあくまで毒攻撃である、そしてあいつらは死体だ。もう死んでいる相手に毒物って効くのだろうか。

 いや、そもそも死体をどうやって再度殺すのか。火葬でもしてやればいいんだろうか。

 ゲーム的に考えればぶっ倒せばいいんだろうけども。

 「さあ、行こうか。」

 武器の点検は終わった。気のせいかもしれないけどやっておいた方が威力が高くなっているように感じるから一応毎回やっている。あと壊れられると困るしな。

 カグヤ、ダンゾー両名を連れて森にまた入っていく。最早プレイヤーよりも会っているゴブリンを撫で斬りにしながら探索に向かう。

 今まで回ってきた場所には死体が落ちていなかった、つまり外周部ではなくもう少し内側へ踏み込む必要があるのだろう。

 「もしかして今まで倒してきたゴブリンとかもゾンビになってたりしてな。」

 ダンゾーが食べた分は無理だろうけど、俺が倒した分は発生する可能性が大だ。

 


 「しっかし、こっち側は暗いなぁ。」

 木が鬱蒼と茂り始めた内心部、昼だというのに日光は木で遮られ足元の視界があまりよろしくない。

 整備された道もあるわけでは無く、誰かが押し固めたのかそれとも魔物か、草がかき分けられた獣道だけが足場を許している。

 木々の間隔も狭い。薙ぎ払いは自分の首を絞めることになりそうだから円弧は使えないな。

 「カグヤ、大丈夫か。ダンゾーは……まあ大丈夫か。」

 後ろからついてくるカグヤを気遣う。下手に人型だからこのような悪路走行は難しいだろうし。ダンゾーは木々をぴょんぴょん飛び跳ねて移動できるから心配無用。

 そのカグヤはというと、動き辛そうな服装であるにも関わらず、すすすと前に進めている。動きやすい服装している俺より速くないか、これが敏捷値の差というのか。

 「でも敏捷には振れないしな。」

 これから槍を扱う以上、必須ステータス以外に触れるのは防御か体力ぐらいだろう。

 そこを無理して敏捷に振ったら槍である意味が全くない。武器の振る速度、槍はスタミナと筋力、技量と必須ステータスだけであることも相まっている。

 「何か移動用の馬とかそういうのも手に入れないとな」

 こういった森とかはまだいいけど平地なんて遅すぎてもってのほか、何か乗り物は必須になるだろう。悪い足場を踏みしめながら考え事をしていく。

 「シャアアア」

 突然カグヤが威嚇音を出している。何かを捉えたのか、翅をさっと広げている。

 ダンゾーは樹上で蜘蛛糸を出して攻撃の準備をしている。やはり、何かいる。

 槍を構え直したその時だった。斬撃が飛んできたのは。

 「はあっ!?」

 咄嗟に槍で受ける。重い、この前のゴブリンと比較するのも烏滸がましいぐらいに。

 「へえ、よく受け止めるねぇ。」

 奥から出てきたのは、プレイヤー。昨日のとは違う奴だけど、いきなり切りかかってくるようじゃまともなはずがない。

 「いきなりなんだ、俺はお前の事知らないし攻撃される所以もわからんし。」

 勝つにはカグヤの毒の準備ができるまで対話で時間を稼がないといけない。確実に今の俺で勝てる相手じゃない。

 俺のレベルの何倍だろうか、防御したのに削りで2割もってかれたからな。

 「殺しの依頼があったから来てやったんだよ、有難く死ねぇ。」

 稼げないかもなこれ。強烈な一撃を抑えてそう思う。今のでさらに3割持ってかれた。

 合計5割、たったの二発槍で受け止めただけで半分も持っていかれたのだ。

 「へえ、防ぐねぇ。でも削りで相当くらってるんじゃないニュービー。」

 舐めてやがる、この前から舐められっぱなしだな俺。

 防げているのは簡単な話、こいつがわざと単調な動きをしているからだ。

 「でもこのまま削り倒しだとつまんないからもう少し遊ぼうか。」

 攻撃が早くなる、ただくらうダメージが少ない。

 「不思議がってるねぇ。これは手加減ていうデバフスキルでぇ、ダメージが限りなく低くなる、貴方みたいな雑魚をいたぶるのに使うのよぉ。」

 絶妙にうざいオカマ風の喋り方をしながらも直剣を二本構えて切りつけてくる。

 一本抑えても残りの一本ががら空きの胴に吸い込まれる。

 痛覚を受ける設定にしていなくとも剣が体に叩きつけられると幻肢痛を感じる。

 「くふふ、そうよこの感じ…肉を、人を切るこの感触よぉ」

 頬を上気させた異常者は、そのままうっとりと切りつけた剣先を触っては舐めている。

 「速突、速突、速突ッ」

 三連撃、その隙を突いた攻撃だったはずなのにすべて受け止められる。

 「ふふふ、遅いのね坊や。」

 「うるせえぞ、この、カマ野郎ッ」

 全然届かない、手加減されてこれだ。穂先が頬を掠めることも、大きく距離を取らせることも、何より1ダメージ与えることさえできない。

 「威勢がいいことは重要だけど、それだけじゃ無・理。」

 わざわざ無理という言葉にたっぷり時間をかけて言ったかと思うと、それとは正反対の速攻を仕掛けてくる。

 速すぎる、見切れない。頬を肩を腹を足を手を、ありとあらゆる部位を切り裂いていく。

 これがゲームで良かった、現実ならもう立っていることすら出来なかっただろう。

 「ねえ、痛覚切って安心してないかしらぁ」

 「…は?」

 瞬間、激痛が走る。おかしいおかしいおかしいおかしいっ。俺は確かに確認画面で痛覚を遮断するよう設定していた。だというのになんだこの痛みはっ……。

 立てない、痛みを感じたのはたったの一瞬だった。それでも膝を折るには十分の痛みだった。

 「今のはねぇ、ファントムペインって言う暗殺者の・ス・キ・ル・なの。たった一瞬だけしか効果無いんだけどね。でも十分でしょ?」

 ああ、十分だ。意識遮断によるログアウトが起きてないだけ、まだ日常でありそうな痛みだというのが驚きなぐらいにはな。

 「痛覚を切ってない人に使ってもあんまり効果ないの、だって慣れてるから。貴方みたいな人が標的だ・ぞっ♡」

 俺とはどうやら相性最悪らしい。勝てるビジョンが思いつかない。

 カグヤまだか、まだなのか、こいつをどうにかするにはカグヤの能力しかないんだ……。


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