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魔獣狩りの男

用事があり、午前中に投稿できませんでした。

すいませんでした。

 村に着いたらログアウト、そう思っていた時期がありました。時間経過が普通にあるこのゲームでここまで切迫した状態なら少しやっておかないとバッドエンドに直行しかねないからな。

 頭に蜘蛛を乗せたまま出張所に向かう。……何だろう、凄く視線を感じる、主に頭頂部に。

 蜘蛛がそこまで珍しいのか、それとも従魔にすら過敏になるほど被害が出始めているのか。

 ……後者だな、この環境で蜘蛛が珍しいというのはあり得ないしな。そう決断し足を速める。視線に急かされているようですこし気味が悪いがな。


「おや、貴方が冒険者さんですね、お待ちしておりました。」

 出張所では今か今かと待っていたのか、入り口すぐ手前に関係者が出張って待機していた。

「ええ、何でも被害が増えているとかで力が必要だと。」

「そうなんです、どうかお願いできませんか。」

 公衆の前ですらそんな弱音を出すレベルなのか、これはすぐに受けに来て正解だったな。

「依頼を見せてください、さっそく討伐に向かいましょう。」

「ありがとうございます。ささ、どうぞこちらへ。」

 出張所に入っていく。普通に中で待ってればよかっただろうに。

 しかし、さっきの人も一瞬ではあるが蜘蛛を見て強張っていた。もしかしたら暴れている魔物は蜘蛛なのだろうか。もしくは不吉の象徴なのか。

 建付けが悪いのか、ギイと鈍い音と明けにくい西部劇で見たような扉を開けて入る。

 ここを寄る冒険者はいないのだろうか、プレイヤーが一切いない。それどころかNPCすら見当たらない。いるのはさっきの受付の人だけだ。

「いやぁどうも、この村は魅力が無いようで、いつも閑古鳥が鳴いているんですよ。」

 困ったような顔をして頬をポリポリと掻いている。だから依頼が溜まっていくんだろう。

「そうですか、ではまず急を要するものを紹介してください。」

 俺のレベルはまだ4、緊急のものが難しければ救援を呼ばないといけない。

「こちらです。村の戦力ではどうにも。若いのは皆王都に出稼ぎに行ってしまってて…。」

 ゴブリン討伐クエスト、それも10体以上か。多分欲を言えばもっと狩って欲しいのだろうけど、金銭的なものがあるのかもしれない。

「ええ、そちら受注しますよ。」

「本当ですか。ありがとうございます!」

 おかしい、アナウンスが鳴らない。でもメニューにはクエスト実行中と表示されている。

 バグか、それとも聞き逃したのか。まあそれなら仕方がない。

「裏手の森に行けばあいつらはわんさかいます。気を付けてください。」

「ええ、できるだけ狩り取ってきますよ。期待しててください。」

 さあトリッキースパイダー、お前の能力見せてもらうぞ。

 頭の上の蜘蛛は器用にシャドーボクシングをしていた。なんでできるんだお前。



『ステータスを更新します、この内容でよろしいでしょうか。』

 流石に集団で来られたら今のステだと死ぬ。そこで森に侵入する前に、今まで振ってなかったステータスとスキルを振ることとした。


 ────────────────

 名前:クヌギ Lv.4 職業:戦士

 生命力(体力) 14 +2

 精神力(魔力) 5

 持久力(スタミナ) 12

 筋肉(筋力) 20

 技量(器用) 10

 耐久力(防御) 10 +4

 敏捷(速度) 8 +1

 運命(幸運) 7

 ステータスポイント:0

 スキルポイント:1

 スキル一覧

 狩バチの極意 一閃 速突

 装備

 武器:青銅の剣

 頭:傭兵の鉢巻き(生命力+2)

 胴:傭兵の皮鎧(耐久力+3)

 腕:無し

 足:傭兵のブーツ(耐久力+1、敏捷+1)

 装飾品:無し

 ────────────────

 筋力、持久力、技量それぞれに振り、スキルも一応初級を二つ取っておくことにした。

「ここまでして負けたら多分恥ずかしくてもうこの村に来れなくなるな。」

 気負うためにわざと声に出す。よし気合入った。

「さて、いっちょ行きますか。」

 森に一歩踏み入れる。木が鬱蒼と茂っており、あまり空が見えない。また地面の状況も泥濘になっており、下手をしたら足が取られかねない。

「迷ったり、足を滑らしたら一巻の終わりって奴だな。」

 慎重に進もう。俺は別に強いわけではない。ゴブリン倒せずに道に迷ってたら話にすらならんだろうしな。

 少し進むと開けた場所に出る。住民はここで木を伐採していたりするのだろうか。

 頭の上から蜘蛛が元気よく飛び出していく。おい何するんだ。

 木から木へと飛び移り、完成したのは蜘蛛の巣だった。いやお前徘徊型だろ。

 自信満々の表情(?)をした蜘蛛公はここにおびき出したいのか回りから餌になりそうなものを引っ張ってこようとする。

 いや、流石にゴブリンも木の根は食わないと思うぞ。

 インベントリからまだ余っているキャタピラーの死骸を出す。これ以上浪費するようだったらどこかで調達しないとな。

 それを糸の後ろに置いておく。おい蜘蛛、お前の餌じゃないぞ。



 ぶちゅるぶちゅると気色の悪い音を立てながら、そいつらは歩く。今日の飯を探さないと、

どこに行くか何を食べるか。ふぎゃふぎゃと喧しい鳴き声を上げ口論している。

 そのなかで一番小さい奴があるものを見つけた。キャタピラーの死体だ、しかも臭くない。

 やった、御馳走だ。そう思って全員が我先にと転がった死体にがむしゃらに走りこむ。

 中には味方を転ばして先に行こうとしているものまでいる。

 先に抜けたのはすばしっこいチビだった。手を伸ばす、と同時に体が動かなくなる。

 蜘蛛糸だ、木から木へと繋がっている不可視の罠が小鬼を捉えていた。

 後ろの奴らは何故いきなり止まったのかまだ気づいていない。急いで危険の合図を出そうとする。

 だが時すでに遅し。彼らの後ろから経験値に餓えた死神と、狩に餓えた一匹の蜘蛛がその矮小な命を刈り取りにやってきていたのだ。

 ドベだった一匹の首が飛ぶ。何をされたか分かっていない顔をして絶命した。

 次にその前を行って横取りを狙っていた奴が糸に巻き取られる。そのまま首から毒液を流し込まれる。あれはもう助からない。

 ようやく気付いた真ん中の奴が振り返ってこん棒を構えようとする。だがもう死神の鎌は首に掛かっている。

 腕が飛ぶ。こん棒を握りしめたままの腕が宙を舞って泥に落ちる。返しの刃で肩からずさりと袈裟切りをかまされる。

 いつの間に仕留め終わたのか、2番目を行っていた奴はもう絶命している。どうやら恐ろしい毒のようだ。たった一噛みで殺すだなんて。

「お前で五体目だ。」

 そう死神は呟いて哀れな獲物を切り裂いた。



「あと五体か、これ繰り返せば結構簡単に行くかもな。」

 経験値も美味しい。今のでレベルが2も上がるんだ、いや適正レベルじゃないからなのかもしれんけども。

「うし、この村滞在中に目指せレベル20。なんてな」

 俺が独り言を言う横で、バリバリと音を立てながら蜘蛛がゴブリンを喰らう。いやどこをどうやって食べたらそんな音が鳴るんだよ。

「死体を隠してもう一回、これで行くぞ。」

 食べかけの死体だけそのまま蜘蛛にあげながら、他の死体を処理する。臭いで察知されないよう回りにキャタピラーの体液を撒く。これで犬だって匂いをかぎ分けられないだろう。

「待ってる間、お前の名前でも考えるか。」

 むしゃむしゃとまだ食べている蜘蛛を見る。カグヤと違ってしっかりしていると思ってるんだけど、もしかしてこいつもマイペースなのかもな。

 さて、名前考えますか。


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