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いつの間にッツ

東映版スパイダーマンが最近頭を離れませんどうしたらいいでしょうか。


 気だるげなカグヤの歩みは遅い、牛歩とはこのことだと行っても多分信じてくれるくらいには遅いのだ。

「カグヤ、眠いのは分かるがもう少し早く進めないと。それじゃあいつまで経っても寝床にありつけないぞ。」

 ぶうとむくれた顔でこっちを見てくる。眠さから駄々をこねた姪っ子がこんな感じだったな。

「そんな顔しても無駄だよ、ほら早く足を進めなさい。」

 気分はお父さん、もしくは引率の先生だ。これが父性とやらか、かわいらしく見えて仕方がないし、ついつい甘やかしたくなる。

 だが頑固一徹、この子の為にも俺は厳父となるのだ。まあ十分甘いと思うけどね。

 まあそれ以外にも理由がある。村などのセーフティーエリア以外でログアウトするとその場にアバターだけ残り、敵モブから攻撃を受けることがあるからだ。

 それは自分のペットにも適応される。彼女は強い、が寝首を掻かれれば一瞬だ。ほんの少しの苦労で安全が買えるのならそうすべきなのだ。

「ほら、あそこに村が見えるだろ。そこまで頑張って歩こう、な?」

 とりあえず目標地がどこになるかを見せてやる気を出させないとな、そう思ってそれなりの距離にある村を指し示す。

 この距離なら20分もかからないだろう、だけどもカグヤは足を止め動こうとしない。

「はぁ、仕方がない」

 正直そこまで運べるのか分からないが、こうなっては仕方がない。繭の頃のようにおぶって行こう。

 そう思って彼女の前で背中をおろす。

「ほれ、乗りな。」

 ぽんぽんと背中を叩く、すると俺の指に何かが攻撃してくる。

「な、なんだ」

 手に引っ付いたそれを見ると、さっきの木にいた蜘蛛であった。まさか、付いてきたとでもいうのだろうか。

 また必死に前肢を上げて俺を威嚇している。もう何がしたいのかさっぱりわからない、虫の考えていることは本当に。

 よく見ると肩にうっすらと糸が付いている、これで俺にくっついてきてしまったのか、それとも大きな動物にくっついて長距離を移動する性質を持っているのか。

「これ何喰うんだろうな」

 ちょっと興味が湧いてきた。インベントリから小さくした処理済みのキャタピラーの肉を取り出す。え、何のためにコマ切りにしているのかって?これ意外と美味いんだ、体液抜いたら御馳走だよ。あとカグヤも食べてる。

 ハエトリグモ(仮称)は威嚇しながらも口にくわえ、そのまま食べ尽くした。

 いや、食べるの速くないか、一瞬だぞ。しかも自分と同じぐらいの大きさだぞ。

 蜘蛛は満足したのか威嚇を止め俺の頭の上に移動し始める。流石に気持ち悪い。

 するとカグヤも背中に乗ってくる。おいおい、俺はバスか何かか、いやタクシーか。


『トリッキースパイダーがあなたに懐きました、ペットにしますか。』

 いやチョロいな。カグヤの時と比べて緩すぎないか、もう少し自分というものをだな。

 そんな説教は虫に通用するはずもないし、別にペットになられて困るようなものでは無い。だが流石にお前流されやすくないか?

「まあ首都に向かうまでの暇つぶしもできるし丁度いいって思うか。」

 次の研究は蜘蛛にしようか。そう考えながら村に入っていく、因みにカグヤはまだ背中で寝ている。本当に暢気だなこの子は、そこが可愛らしいんだけども。


「おや旅人さんかい、マヌラ村へようこそ、身分証を伺っても?」

 中年の陽気そうなおっちゃんにそう聞かれる。流石に降ろさないと見せることが出来ないな、カグヤ、すまないが起きてくれ。

 今回は素直にカグヤが背中から降りる。正直ここで駄々こねられると面倒だったので助かる。

「ええこちら、冒険者証で問題ないですか。」

 その言葉を聞いたおじさんは気のせいかと思うぐらいの、ほんの少しだけピクっと反応し、そしてそんなものなかったかのように笑顔で

「ええ、大丈夫です。それに大歓迎ですよ。」

 そう言って村に入るよう促してきた。何故だろうか、ここらは騎士団が巡回していて冒険者は必要なかったのではないのか、そう疑問に思いながら入っていったのだった。


「冒険者さん、出張所はこちらになりますよ、そして向こうが宿です。」

 真っ先に案内されたのが出張所であった、そして隣に宿屋がある。何か出来すぎてないか。

「すいません、ちょっとお聞きしたいことがあるんですが。」

「何で出張所がここにあるかですか?」

 だからエスパー多すぎないか、いや、もしかしたら同じ質問を何回もされたのかもしれないな。

「実は裏手にある森、あそこは騎士団の対応外でして、冒険者を雇わざるを得ないのですよ。ですけどもあまり訪れなくて困っていましてね……。」

 なるほど、だから必死だったのか。もし離れられたら明日の命が危険だから。

 まあ路銀調達もしたかったし、何よりレベリングが出来る。そのついでに村が助かるなら万々歳じゃないか。

「そうでしたか。わかりました、数日間ここに滞在させていただきましょう。」

「本当ですか、ありがとうございます!」

 物凄い感謝のされようだ、それほど切羽詰まっていたのか。カグヤだけでも休ませて少しクエストを消化したほうがいいのかもしれないな。

「ですがすいません、連れがもう疲れているようで寝かしてやりたいんですが。」

 そう断ってから宿に向かう、宿代ぐらいは流石に払えるさ。一室相部屋分だけど。

 さて、カグヤを寝かしてと。

「置手紙しておこうか、いやでも文字分かるかな。」

 正直効果は微妙だが置手紙をすることにした。もし離れている時に起きたら勘違いさせてしまうかもしれないし。

「お前はついてくるか?」

 頭の上の蜘蛛に聞く。前足を器用に振って、賛成だろうか、少なくとも否定の意味はなさそうな動きをしている。それなら連れていくか。

 部屋を出る。何だろうか、一瞬蜘蛛の糸が顔に引っ付いた、そんな気がした。




主人公は蜘蛛男にならないので安心してください。

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