誰だお前はッツ
コッペパーンとジャム、コロッケパーン。
知っている人は多分今回のモチーフとサブタイトルの意味がすぐ分かるはず。
さっきから歩き過ぎだな、村をでて少ししてからそう思い始めた。そろそろ座って休憩いれるのも必要だろう、俺だけでなくカグヤの為にも。
街道から少しそれた先にある大きな広葉樹の下に座り込む。木陰が心地よく、風に揺れ擦れる葉の醸し出す音が風の存在感を訴えかけ何とも涼しげな雰囲気を作り出す。
ふうと一息入れる。例え疲労感をあまり直に感じないゲームだからといって、長時間も歩いていれば気が滅入って疲れ始める。
それにカグヤはこの世界の住人だ、疲れを感じるとしたなら直に受けることとなる。
だから休息は必要不可欠の行為なのだ、俺の足腰がおじさんになったわけでは無い。
「ふう、どうだカグヤ、気持ちいか。」
別にやらしいことはしていない、ただこの温度感が最適か聞いているだけだ。カグヤは人のような見た目をしているが虫は虫、自身に最も合った環境が存在する。
もしここの温度が丁度良いなら南に行くことも、北に向かうことも止めなくてはならないし、何より向こうで気づいたら大問題だ。熱で死なれたら昆虫好き失格である。
「ぇぅあ。」
カグヤが頑張って声を出そうとしている。何を言いたいのかはまだ顔を見ないと分からないが、大きな進歩だ。
表情からして恐らく、気持ちいことを伝えているのだろう。温帯がもしかしたらちょうどいい環境なのかもな、これなら南への行進はせずに東国に直進するべきだろうか。
「そうかぁ、気持ちいか。もう少し休憩していこうか。」
カグヤが俺に寄りかかってくる、まだ眠たいのだろうか。少し歩かせすぎたか、ここは好きにさせてやろう。
風が二人を包み込むように通っては流れて消えていく、そして馬車もまたこちらを意に介せずに街道を砂埃を上げながら進んでいく。少し離れているからだろうか、砂はこちらまで飛んでこない。
俺もなんだか眠くなってきたな。ここで寝たらログアウトするのだろうか、その時はすぐに再ログインしないといけないな。
目をつぶる、耳に入ってくる音はカグヤの寝息と、葉の騒ぐ音だけであった。
目が覚める、回りを見るとベットではなく木陰であった。アナウンスが流れている。
『睡眠を検知しましたため強制覚醒を行いました。お眠りの際はログアウトしてください。』
「現代技術って怖いな。」
時間にして僅か1分の出来事であった、時計を見たから間違いない。
しかし強制覚醒とか大丈夫なのだろうか、脳にダメージ凄そうだが。
カグヤはまだすうすうと気持ちよさそうに眠っている。そっと立ち上がろうとするが、俺の袖を掴んで離さない。
「困ったな、これじゃ動けん。」
起こす選択肢は正直無い、何故なら村を出るときに無理矢理起こしてきてるからだ。
仕方ない、まだすこしぼうっとしているか、そう思ったときだった。ふと左肩に何か違和感を覚える。何かが俺の左肩に乗っかっている、そういった感覚だった。
カグヤがもたれかかっているのは右肩だ、左肩に接触するものは何もないはずだ。
もしかして幽霊か、このゲームの運営ならしかねない、そう思ってゆっくりと顔を左に向け確認する。するとそこには
「なんだ、こいつ」
めっちゃ前足上げて威嚇している小さい蜘蛛がいた、いや小さいと言ってもこのゲーム基準なのだが。
てかいつの間に乗っていたんだ、この1分間ずっと肩に乗って威嚇していたのだろうか。
そう考えるとなんだか可愛いなこいつ
「うりうり、どうだ怖いか。」
手をピンと上げた蜘蛛は俺の指に対して最大限の警戒をする。それはまるで小型犬が触りに来たやんちゃな小学生に精一杯吠えている、そんな感じだった。
「ははは、ごめんよ、驚かして。」
指を下げる、すると蜘蛛も若干だが前足を下げる。この威嚇方法に体格の感じ、恐らくハエトリグモだな。
「ほれ、さっさとお逃げ」
肩から取って草むらに離す、ぴょんと飛び跳ねたと思ったら木の上へするすると登っていく。お前、そこから落ちてきたのか。
カグヤがもぞもぞと動き始める、どうやら動き過ぎて起こしてしまったらしい。
「ごめんなカグヤ、起こしちゃったか。」
眠気眼を擦るその姿は紛れもなくヒトであった。もう少し先にある村で今日はもうログアウトしようか。そう決めて腰を上げるのであった。
「でもほらカグヤ、寝るのなら村行ってからだよ。」
渋々として不貞腐れているカグヤを引っ張って進む。娘が出来たらこんな感じなのだろうか。不思議な気分に包まれて歩みを進める。
首都はまだ見えない。
皆さんは蜘蛛好きですか?
私はハエトリグモのサイズなら好きなんですが、コガネグモやジョロウグモとなると少しおぞましさを感じてしまうんですよね。フォルムはカッコいいと思うんですが何故かあまり触れないんですよ。




