汝親愛を知れ
決して寝過ごしたなんてことはありません、はい嘘です。
昼前にアップするはずが予約投稿失敗してました。
苦しい、ここまで苦しいと思ったのは小さいころに気管支炎が悪化したときぐらいだ。
だが、今は為すべきことをしなければ。そう意気込んで彼女へと歩みを進める。
彼女は嬉しそうな顔をする、多分撫でて褒めて愛してもらえるのだろうと考えているのだろう。……ごめんな。
彼女の前にたどり着く、一回下がらなければこうやって苦しい思いして歩く必要なかったんだけどな。先見の明が全くないな俺。
目だけを見つめ続ける。目は口程に物を言う、目にはただ困惑の二文字だけが存在した。
甘やかすことと愛することは全く別物である。躾のなっていない犬はただの飼育放棄で
あるし、甘やかされて規則を、何かをすれば思い通りになると思い成長すればいつか破綻が来るというのは分かりりやすい未来ではないか。
ライフゲージが危険領域まできたことを知らせる警告音が鳴る。いくら弱毒と言えど、レベル2の体力には猛毒であったのだろう。先に喰らったコナラさんですらまだリスポーンしていないというのに。
彼女が手を伸ばしてくる。じれったくなったのだろうか、向こうからアクションを掛けてきたのだ。
俺はその手を払いのけて、青銅の剣を抜く。そしてその剣を自身の腹部に突き立てる。
瞬間残りのHPを散らして俺のアバターが消滅する。多分NPCからはそう見えているのだろう、俺が一度もやられたプレイヤーを見たことが無いからどんなものなのか知らないが。
そして最後に呟かねば
「ごめんなぁ…ごめんなぁ……。」
はい完璧。
─呆然とする
あの人が私の前に来る。やっと撫でて貰えるのかしら、そう思いながら手を取る為に伸ばす。でもその手は払いのけられ、さらには剣を抜かれる。
何で、貴方は私のことを愛してくれていたのではなかったの。裏切られたような気分に心が塗りつぶされそうになる。でも違った。
彼は自分の体にその刃を突き付けた。彼の背中から深紅の華が咲く、何をしているのかわからない。
何故か彼が謝っている。何で、解らない。私の毒がそうさせたのか、私を愛したくなかったのか。頭の中が思考の渦で機能しなくなる。
私が、彼を、殺した?私の、せい?
頭が真っ白に染まっていく。
村にリスポーンしたと同時に即ダッシュ、丘の左を回って死角に入り後ろを取る。
この世界のNPCが第4の壁を認識していないかどうかが作戦の賭けになるがうまくいって欲しい。その名も死んだと思ったあの人が後ろから愚行を引き留めにきたよくある演出のやーつ、我ながらネーミングセンスが無いな。
目標まであと300メートルぐらいだろうか、他のメンバーが突入していない事を見るにコナラさんはまだあそこにいるし、討伐の判断をしていない。
俺のことを信用してくれているのかそうじゃないのか、それは置いておこう。今はその判断に感謝するだけだ。
遠目から視認できないように回り道をしたせいで少し時間掛かってしまったな。誰だこんな見晴らしのいい丘にしたのは。お婆さんだったは。
彼女はあれから一歩も動いていないようだ。さっきまで俺が立っていた場所をじっと見つめ続けているだけだった。
今なら確実に行ける。そう根拠のない自信を胸に彼女を背中から抱きしめてやる。
え、結局愛与えてるじゃんって?先に死んだショックをこれで上書きして敵対性を弱めるんだよ、これだからトーシローは、はい俺です見切り発車です。
─
なにもおもいつかない。なんでしんだんだろう。わたしいけないこだったのかな。
かみさまはわたしとかれをみとめてくれなかったのかな。
ごめんなさい、でもゆるしてください。
わたしにはかれしかいないんです。
「ごめんな、お前のやったことを叱るのが俺の責務なんだ。辛かったな、苦しいよな、お前の目の前で死ぬなんて残酷だよな。でもこれもお前の為だったんだ。」
昔よくテレビドラマのDV現場で聞いたようなセリフを彼女にかける。見切り発車のツケが一気にいま舞い込んでくる。台本にないアドリブをいきなり入れるからこっぱずかしくなるし空気が死ぬんだよまったく。
これで成功するか分からない、成功してくれれば正直レベル1になっても構わない。
その願いが通じたのか、彼女は勢いよく振り返り、大粒の涙を流しながら俺にしがみつく。
よしよし、背中を撫でる。辺りに舞っていた鱗粉はすべて消えており、あとに残されていたのは蹲ったふりして報告書を書いているコナラさんと気絶しているお婆さんだけだった。
『コノハナ姫があなたの従魔になりました。名前を付けますか』
彼女が泣き止み始めた辺りにそうアナウンスが流れる。どうやら今のタイミングで懐き度が最大になったらしい。
名前は今度決めようか、とにかく今はそれ以外にすることがある。
「コナラさん、大丈夫ですか。」
わざと声掛けをする。これでもしコナラさんが攻撃されたら彼女はまだ危険、他の方法を考えて止めさせないといけない。
だが杞憂だったか。彼女は先ほどと違って余裕綽綽な立ち振る舞いをする。
予想だが父親を取られると勘違いした子供の癇癪のようなものだったのかもしれないな。
「ええ、大丈夫。それより、羽化無事にいって良かったね。」
攻撃までされたのにそう言えるのは肝が太いのかそれとも、とにかく無事で何よりだ。
「村に控えさせてたメンバーには泣き始めたあたりから大丈夫だったと連絡を入れておいた。彼らが何か邪推することは無い。」
そして俺が心配していたことまでケアしてくれている。マジでありがたい、配慮の鬼か。
「私は報告することが出来たから今日はここで別れる。それとコノハナ姫の観察書、書いたら見せて。」
だけどどこまでも自由な人だ。俺言葉交わす間が無かったぞ。
「今日はありがとうございました。」
こうお礼を言うだけで精一杯だった。
多分キャタピラー編はもうそろ終わり。




