例え世界に望まれなくとも
へへ……ストック2話分だけどできたから届けに来たぜ……
背中の繭の胎動が朝よりも激しくなっている、ログイン時の感想はそれだった。
まず繭に注意をもっていく前にチャット爛を確認する。つい10分前にコナラさんから返信が来ていたようだ。
コナラ:あなたの考察は読ませてもらいました。
コナラ:確かにその可能性は十分にあります。ですが
コナラ:“それ”はあなたが何もしなくても今日の夜に羽化します。
コナラ:最悪の事態になった場合、私も協力します。
コナラ:だから絶対に目を逸らさないであげてください。
目を逸らさないで、か。もちろんその気など無い、もう覚悟はしてきた。
討伐することになったとしても、受け入れるにしてもだ。
クヌギ:元よりそのつもりです。
クヌギ:飼育放棄などしてはいけませんから
一応返信しておく。そして意識を繭に切り替える。オニボウフラだってもっと落ち着いている、そう思うぐらい繭の中で動き回っているのだ。
そして先ほどから感じる何かがべたりと纏わりつくような感覚、少し前に一度だけ感じたのだが、それがまた襲ってきた。もしかしたら背中の子が俺に対して何か訴えかけていたのかもしれない。
「その姿になってから撫でるのは久しぶりかな。」
ぎこちなく背中の繭に手を伸ばす。そしてゆっくりと、キャタピラーだったころと同じ力加減で撫でてやる。
瞬間胎動の速度が速まる。もう羽化してしまうんじゃないか、そう感じるほどの速さであった。
腹を撫でてやった時を思い出す。あの時も嬉しそうに体を捩らせていたな。
俺は本質的なことを見誤ってたのかもしれないな。どんな性質を持って生まれるかなど生物にとって環境に適応する為に獲得するほんの一部分でしかない。
例えばヤドクガエルが皮膚に毒を持つようになったように、蜂に擬態するようになったトラフカミキリのように。
しかし性格は個体によって差がでる、千変万化と言う奴だ、あってるか分からんけども。
出会ったばかりの頃、この子はたいして暴れるわけでもなく俺の手中でもぞもぞしているだけだったし、餌やりをしていた時には俺の膝上に登ってきすらした。
この子がこの子であり続けるのなら、例えどんな姿に、どんな性質を持つようになったとしても我が子として愛するのが飼い主の責務だろうに。
ぎこちなかった手はかつて撫でていた時と同じようにスルスルと進むようになった。彼女はというと、さっきまで暴れているかのような胎動をゆったりと落ち着きのあるものへと変化させていた。
もしかしたら、彼女は愛情に餓えていたのかもしれない。纏わりついていた悪寒はもしかしたら愛情が得られないことへの苛立ちだったのかもしれない。
羽化まであと2時間。今まで寂しい思いをさせてしまったことを悔いて、ゆっくりと我が子をあやす様に撫で続けよう。子供どころか彼女いないんだけどね。
─満たされない
あれほどまでに愛情を与えてくれたあの人の体温が忘れられない。撫でて欲しい撫でてて欲しい、そう願えども手はこちらに伸びてこない。
ああ、不愉快だ。これほどまでに私は愛しているというのに。
─愛してほしい
繭になってから私に愛を与えてくれない。どうして、あなたは私のことをあれほど愛してくれていたのに。愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛してあいしてあいして…
あいしてくれればもうなにもいらないの
─ようやく
彼の手が私に伸びる。少しぎこちない触り方だが、私にとってあれほど渇望した愛なのだ、飢えが急速に癒えていく、渇いた体に精力が宿っていくようである。
ああ、ようやくあいしてくれた。もう、わたしを、ひとりにしないで。
祝!1万5千PV!
PVもユニーク件数もブックマーク件数も評価者数も、始めた当初から本当に凄く伸びましたねぇ。
あの頃の自分に言っても多分信じてもらえないでしょう。
本当に皆様には頭が上がりませんよ。
これからもどうかこの拙作をよろしくお願いいたします。




