コノハナ姫 サクヤ姫
祝!PV9000突破!目標の1万まであと少しです!
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「わしはここからずっと東に行った皇国のその先、とある群島に生を受けたんじゃ。」
お婆さんは自らの出自を明かし始める。やっぱりこのゲームにも極東ってあるんだな。
「その時住んでおった里ではな、キャタピラーの糸を朝廷に献上する大役を請け負っていたんじゃ。」
養蚕のようなものなのだろうか。しかし低確率の産物をどのようにして献上するのだろうか。数産ませて処分するのだろうか。
「わしらの里にはキャタピラーに糸を吐き出させる技を一子相伝で守ってきたんじゃよ。」
また顔に出ていたのだろうか。今度鏡でも見てチェックしないとな。
「わしの家もキャタピラーの飼育をしておった。朝畑に出して夕方に戻す、これがいつもの生活だったんじゃ。」
養蚕業というよりは畜産業に近いようだ。しかし、あれ食べられるのか。蛹になると臭みでも無くなるのだろうか。
「ある日のことじゃった。一匹だけ部屋に帰ってこんかったのじゃ。一匹一匹が陛下への献上品だと皆認識しておったから急いで総出で探したんじゃ。」
どうやらその極東の島国のモチーフは日本のようだ。しかも恐らく平安時代の頃だろう。
戦国時代だと求心力は相当下がっているだろうし。
「探していると木の幹に真っ白な繭が一つできかけていたんじゃよ。そう、おぬしの背中にあるそれと似た繭がな。」
「それで、どうしたんですか。」
「わしは走って母にそのことを伝えに行ったのじゃ。何故ならわしらの村には言い伝えがあったんじゃよ。」
「それはどんな言い伝えなのですか。」
今まで口を閉ざしていたコナラさんがここで聞きに入る。いや、俺も聞こうとしてたし。
「キャタピラーの白繭は女神が降臨する器である、繭が生まれた年は今までで最も良き年になり世は安泰となる、そういったものじゃった。」
虫の神様、なのだろうか。幸福をもたらす昆虫といえばテントウムシだが、キャタピラーの繭がその役割を担っていたのだろうか。
「里長はすぐ早馬を飛ばして朝廷にこのことを上奏したんじゃ。陛下はこれを喜んでその繭を献上するように言ったんじゃ。」
「それで、献上を」
「ああ、幹ごと切り倒し繭を壊さないよう慎重に帝都に運んで行ったのじゃ。」
だがそれだとかつて成虫を見た話と食い違わないだろうか。献上したのならその先のことなど知らないのでは。訝しんでいるとお婆さんは俺の態度に気づいて苦笑し
「繭は陛下に献上したその瞬間に羽化してしまったんじゃよ。」
どうやら話のさわりを無理矢理引き出させてしまったらしい。
「お前さんの繭はあれとは恐らく違うのじゃろう。わしらの時は朝日を浴びながら繭を破って出てきたのじゃ。その時の美しい御姿は、陛下がもっていた杓を落としてしまうほどじゃった。」
この感じ、虫では無く人型だな。異類婚姻譚でも始まるのだろうか。
「里長は朝日を一身に受けて生まれたその人をサクヤ姫と呼んでいた。もし月光を浴びて出てきていたのなら、それはコノハナ姫だと帰りの道で言っておった。陛下はサクヤ姫を娶り子を設けた、そう聞いたのじゃ。」
なるほど、美しいとはそのことだったのか。俺はてっきり少年の日の思い出に出てくるクジャクヤママユのようなものなのかと思っていたのだが。
「話してはいけない理由を語ろうかの。」
多分お婆さんにとってこれからが本題なのだろう。
「サクヤ姫はたった一日でその逢瀬を終えてしまった。たったの一日の寿命だったのじゃよ。」
短命すぎる。朝に羽化し朝に消える。まるで蜉蝣の如しだ。
だがヤママユガ等の蛾は成虫になると食事が取れなくなり、交尾して産卵したらもうそれで役目を終えるという。もしかしたらそういった面が反映さえているのかもしれない。
「じゃが彼女が残した娘はサクヤ姫によく似ておった。その艶やかな姿に見ほれた貴族らがこぞって里に押しかけあれを産ませろと命令してきたのじゃ。どこで尾ひれがついたのか、サクヤ姫を娶れば自身が皇帝になれるという噂まで流行り、里自体を征服しようとしたものまで出たのじゃ。」
ふうっとお婆さんは一息入れてまた口を開こうとする。しかし出てきたのは先ほどの続きでは無かった。
「お前さんの背中のそれは、恐らくコノハナ姫じゃろう。わしはおろか、里の人間ですら今まで一度も見たことが無いんじゃ、ちゃんと羽化するときは見せに来るんじゃぞ。伝承じゃと満月の日にその姿を見せると言われておるんじゃ。」
恐らく言いたいことはあるんだろう。だがそれを飲み込んでこっちに話題をずらしてきた。ここはその意図を汲まないとな。
「満月ってあと何日後ですかね。」
「明日」
コナラさん…早いってかよくこのゲームの月の周期知ってるな。
「明日、畑の裏の草原に来ると良い。あそこはよく月の光が届くじゃろうし。」
羽化の現場はいつもの場所に決まったのだった。
コノハナサクヤヒメ、日本神話に登場する桜の女神様で山の神の娘です。
かなりの美貌の持ち主で、当時の天皇であるニニギ命と一夜の契りを結び海幸彦山幸彦を設けます。
しかし実は結婚の場にはもう一柱いるはずだったのです。
その名はイワナガヒメ、サクヤヒメの姉です。
これがどう関係するって?さぁどうなんでしょうね。




