タネさえ割れれば
僅かな硬直。冒涜的な見た目をしてやがるカミキリモドキたちは、今初めて仲間が死に眼にあったのだろう。さっきまでの静止状態が舐めた態度によるものならば、今の硬直は唖然、だろうか。そういった人間らしい感情を持っているかはわからないが。
力任せに槍を振り下ろす。切るのではなく叩くイメージで、硬い外骨格の内側に響くように。少なくとも斬りおとすような攻撃よりかは効果があるはずだ。
奴らの圧倒的な防御性能は硬い外骨格による物理攻撃、中でも切断に対する絶対的な耐性によってもたらされていると考えられる。
この防御性能を保ちながら高速移動を可能にするには、中身を極力減らす必要があるはずだ。衝撃を与え続けて、外傷よりも内臓への損傷を優先させるべきだ。
「うらぁぁぁぁあっ!」
「ギギッ!?」
まだ奴は、目の前の個体は仲間がやられたという現実を処理できていない。さっきまでなら軽々と受け止めていた俺の攻撃を、それも直撃を許していた。
頭部への一撃。振動による脳震盪と、押し込みによるノックバックが期待できる一撃だった。
しかし
(重てえっ…なんつう重さだ、まるで木を殴りつけてるみたいだ)
予想が裏切られた。その体はずっしりと重かった。これが外骨格の重みだとしたら、こいつは自重で立てないはず。つまりはこの黒い甲冑の下は、びっしりと筋肉が詰まってるということだろう。
よろめかせて二歩、三歩後ろに下がらせたが、思ったように体勢を崩し切れない。
(物理で抜くのはほぼ不可能……魔術への耐性が皆無と見るべきか、それとも特定属性にだけ弱いタイプか。)
カグヤは確かに火で焼き払った。しかし、カグヤの攻撃は基本呪いが付与された攻撃。あんまり考えたくないけど火属性にすら耐性がある可能性だってある。いやどんなクソMOBだよ。
「消エテッ!!」
ごうっ。黒炎がヘビのように走り、目前の敵に鎌首をもたげる。
「ギチギチ……」
ボロボロと炭化した手足が崩れ落ちている。仲間が死んでからずっと、カグヤの危険性だけは認識できていたようで、すんでの所で致命傷を逃れていた。左腕二本を犠牲にして。
『装備を呪殺の槍に変更しました』
その隙にインベントリから、再利用可能なところまで戻してもらった槍を出す。うっすらと呪いの籠った武器、穂先から死者の怨念みたいなエフェクトが出ててちょっとキモイ。
「ギヤッギヤッ」
以外な反応をしたのはバケモン。見るからに拒否反応を起こして今にも逃げ出そうとしている。左腕を失ってバランスが崩れたせいで走れていないが。
『五月雨突きっ』
あんなに硬かったはずの外骨格に、さっくりと穂先が突き刺さる。
「ギヤッ……」
奴は、短い断末魔を上げて死に絶えた。最後の一撃は切ないとはこのことか。