クエストというより雑用
フライングトード、あれは強敵だった……。大雑把に速く、そして滞空時間が長かった。スパンおじさんから貰った西部劇に出てくるような縄じゃまず届かなかった。
本来ならどんどん森に追い込んで、飛べなくしてから縄をかける、それがこのクエストの大筋であり、一番手っ取り早い方法だ。だが…
「むんっ!」
カグヤが飛んだ、自前の翅を使って。そしてダンゾーを抱えて。
何をしているのかと聞かれれば簡単な話である。ダンゾーの糸を奴にくっ付けて、下に引きずり降ろす作戦なのだ。
「付いたか?」
「うん!」
カエルの右脚ににキラリと光る蜘蛛の糸、ダンゾーの鋼鉄より硬い必殺の武器だ。
「引っ張るぞ」
俺一人のSTR対抗はまず勝てない、だからまずセレストの上に今回の立役者を鎮座し力比べ。そこに俺とカグヤを加えた4対1の綱引きにするのだ。
「せーのっ」
あえて言おう、カグヤのステータスは俺より高い。忘れていたわけではない、もちろん。
「ぐべぇっ!?」
悠々と浮かんでいた奴が地面に叩き落される。もう少し拮抗すると思ったんだが、普通にカグヤがぎゅっと引っ張っただけでこうなった。
「……俺支援職にしたほうがいいのかな」
「?」
おかしいね、俺前衛のはずなのに後衛キャラのカグヤより筋力低い……。
「…こほん、ひとまずこれで1ポイントゲット」
トードの首に縄をかける、これでクエストは終了になる。なんでもかけた瞬間に何処からともなくスパンさんが
「いやーおみごと、ありがとうございます!」
出てきた、今までここ人っ子一人いなかったというのに。
『クエストが達成されました クエスト名:スパンおじさんと空飛ぶカエル
報酬:ステータスポイント+1』
とにかくこの調子でレベルとステータスポイントを稼いでいこう。
ただあまりにも見せ場が無い、とてもつまらない絵になるのは確かだろう。
「んしっ……何でゲームのなかで草むしりなんかしてるんだろうか俺」
セレストがもしゃもしゃと青草を貪り、食べなかったものや根っこ等を毟っていく。そう言えばいつも庭の草むしりは俺の仕事だったな。終わった後の麦茶が美味かったなあ。
「確かにこれでステポ1は破格なんだろうけどさ」
運営は何を思ってこんなクエスト用意したんだろうか。支援職や生産職であまりレベリングできるフレンドのいない人への救済措置的な奴なのだろうか。
ただ武装した男が草むしりしている様はなんと珍妙だろうか。別の家で除草作業に取り掛かっていた聖職者系のプレイヤーならまだ慈善事業の一環に見えるのだが。
「あ、バッタ」
残り少ない草むらから手のひらサイズのバッタが飛び出した。ショウリョウバッタのメスの成虫並みだろうか、体の細長さも結構似ている。
ぱくっ
「あ」
捕まえようとしたその時、腹が減っていたダンゾーがさくっと食べてしまった。猛毒の鋏角で動きをとめ、ちゅるちゅるとその体液を啜っていく。
『クエストが達成されました クエスト名:見えない地面
報酬:ステータスポイント+1』
「やっぱり戦闘系を中心にしよう」
戦闘回避できたら楽だと思っていたんだけど、これは流石に暇すぎる。