対比
誰よりも簡単に答えにたどり着く奴がいる。
天才はいる、悔しいが。
「わしがキャタピラーを育てている理由はな、お前さんの背中にあるそいつを生み出すためなんじゃ。」
なんと畑にいたアイツらは養殖されていたものだったらしい。じゃあなんで討伐依頼なんて、間引きか何かか。
「何で依頼で討伐させてたか、そう考えてるんじゃろ。」
マジでエスパー多くないか。それとも俺顔に出やすいのか?
「間引く、それだけじゃない。あんたが背負ってるそいつ、それを生み出すために私は育ててると言ったじゃろ?」
こいつを?どういうことだってばよ。
「わしゃ昔そいつを見たことがある。その美しさに目を奪われて以来ここでキャタピラーを育ててるんじゃ。でもこの40年一度も生まれ出たことはなかったんじゃ。」
嘘だろ、つまり普通だと繭を作らないのか。もしかして
「すいません、一つ聞いても?」
「ああ、かまわないよ。」
「キャタピラーが普通に成長したらどうなるんですか。」
繭を40年見ていないのなら、こいつらはどのように成長するのが普通なんだ。
「ついてきい。」
そう言って席を立つ。向かった先は部屋の隅っこにある下戸、そこを開け地下へと入っていく。
「なんですか、これ……」
言い表すなら蛹室、なのだろう。無数の蛹が土壁いっぱいに安置されていた。
「これがキャタピラーの蛹さ、普通に成長した場合のね。」
どれも角が無く丸みを帯びたフォルムだ。だがすべてメスというわけでは無いはずだ。
顔の作りはカナブンらしくない。当初のコガネムシという仮説は合っていたのかもしれない、食性はまったく別だったがな。
「何年もここで育て上げては失敗を繰り返してきた。薬草の研究も進めて今年こそはを何回繰り返したかねぇ。」
凄いな、まるでファーブルみたいだ。一種類の昆虫に掛けられる情熱も年月も、かつての偉大な先人に相似している。
「まあ、今日ぽっと出のあんたに先越されたんだがね。」
苦笑して婆さんはぽつりと言った。
申し訳ない気持ちはなかった。ここで俺に謝られたところで屈辱に感じるだけだし。
「聞かないんですか、どうやってこうなったかを。」
ただ、これだけは聞いておきたかった。そこまで求めているのに聞かないのかを。
「ふん、舐めるんじゃないよ若造。お前さんに答えを聞かんでも再現して見せるわい。」
やっぱりそうだ。この人は自分で見つけ出したいのだ。面倒くさいけど、分からなくない。
「わかりました。では、もしどうしても知りたくなったら声かけてください。」
何となくだが、この婆さんの人となりが分かった。多分俺と同類だ。昆虫の魅力にやられた同士なんだ。だけどあの偏屈さはいただけないな。
「また来ます。その時は成虫を見せてください。」
「いいじゃろう。その代わりお前さんもその子を見せるんじゃぞ。」
そう言葉を交わして、家を後にする。
背中の子が羽化するまで村には居座れない。しかし外でログアウトしたらPKに会う可能性がある。結局人目だけ避けて畑の裏の草原でログアウトすることにしたのだった。
努力とは必ずしも結ばれるものではない。
現実は常に残酷だ。
だというのに何故こうも美しいのか。