強面鍛冶師はやっぱり存在する。
「これが霊峰の葉……。」
じっくりとコナラさんは若草色をした一枚の葉っぱを眺め続ける、こうなるぐらいには向こうの素材というかモノと言うべきか、情報が少しでも詰まったものは流通していないのだろう。ほんの少しの情報がライバルたちに流れてしまって旨味を独占し続けられないといったことにでもなれば、独占者たちの持っていたアドバンテージは一気にゴミと化すからな。
「……すんすん。」
あ、匂い嗅ぎ始めた。そういえば葉っぱの匂いは嗅いでなかったな、ハッカっぽい匂いを引き継いでいるのだろうか。そういった面で考えたらお茶にしたり薬品にしたりとかいろんな選択肢がありそうだ、もう一回行けるか分からないけども。そう考えると樹液も採取してくるべきだったな、メープルシロップみたく食べられたかもしれないし。
「ありがとう…返すね。」
十分堪能したのだろうか、葉っぱを千切れないように慎重に返してきた。それを破かないように受け取る、ほんのり温かい。
「そういえば虫はいた?」
「いえ、生き物自体全くと言っていい程でしたね。」
やはりそこは生物観察クランフィールドワーク、そこに虫がいたかどうかは十分必要な情報だ。でも残念、ゴキブリすらいないような空間でした。あんだけ樹液出てたらカミキリムシとかハチとか、そういった生き物でもいそうなものなんだけどもな。
「そう……。」
見るからに残念そうな顔に変わる、こんなに表情がコロコロ変わるコナラさんは初めて見たかもしれない。まあまだ付き合いが短いってこともあるんだけどさ。
「…その槍は?」
あ、やっぱりコレ眼中になかったんですね。まあ仕方がないよね、こんな錆びついた骨董品より絶対情報の詰まった葉っぱの方が、クランの方針的にも重要視されるものだし。
「これ世界樹みたいなでかい木にぶっ刺さってたんですよ、多分前訪れたプレイヤーが足場にでも使ったんじゃないですかね。」
結構力強くぶっ刺さってたし確実にピックの代わりに使ったんだろうな、そんで抜けなくなったか落ちたかでずっと放置されてたんだろう、もう意匠も彫りも全部が錆に覆われてみることができなくなっている。
「……直してみる?」
「研いで元に戻すってことですか。」
どうしようか、もうコレの持ち主は俺だけども、もし元の持ち主が見つけ出して難癖付けてきたら。正直一度面倒事に巻き込まれたことがあるセイでそういうのちょっと怖いんだよなぁ。
「鍛冶師ならクランにもいる。」
うーん、でも確かに装備の更新はしたいと思っていたし性能がどうか分からないけどももし斑蜘蛛の槍よりもいいものだったら使いたいしな。どうしようかな。
「因みにその方って今います?」
欲が勝った、もうこれは俺のだからそんな問題なんて些細なもんだ。それにもう取りに行けない場所に足場として使ったのだからそこまで思い入れのあるもののはずもない。
「いる、そこに。」
コナラさんが指をさす、その先にはいかにも力持ちだと言わんばかりの筋肉に身を包んだ男性が佇んでいた。ナイスバルクとでも声掛けようか、いやそれともキレてるとか肩にちっちゃい重機乗せてるのかいだろうか。
「ミミズク…ちょっといい?」
「どしたお嬢。」
あ、可愛らしい声。どうやら男性ではなく女性だったようだ。俗にいうネカマアバターと言う奴だろうか、男性のふりをする女性にこれが当てはまるか知らんけども。
「新人の武器直してほしい。」
「あ?……ああアレか。」
ふいっとこっちを見て、俺の手に握られている錆びだらけの槍を険しい目で見る。あれまさかこれもしかして手入れが杜撰な奴がやらかしたとでも思われてる?
「拾ったんだって。」
「…そりゃまた。」
ズンズンとこっちに歩いてくる、正直怖い。筋骨隆々の大男が肩で風を切って歩いてくる様を真正面から見て恐怖しない奴がいるだろうか、いやいない!
「貸しな、直してやる。」
「はひっ……!」
情けない声を出しながら槍を渡す。それを受け取った彼女(?)はそのまま鍛冶場と思われる小屋へと姿を消していった。