霊峰とは
「あー、コナラさん……?」
顎に手を当てて一人ずっと考え事を続けるコナラさんに声を掛ける、いやずっとそこで佇んでブツブツ言っている様は正直幽鬼のようで物凄く怖い。兎に角思考の世界からこっちの世界に戻さないと。
「…ごめん、どうしたの?」
ようやく帰ってきたようだ。回りの人たちはもう慣れたとでも言うのか一切かかわろうとしていなかったし、多分普段からこんなふうに思考の渦に飲み込まれて過ごしているのだろう。それ結構危なくね?
「いやその……何考えてたのかなって思いましてね。」
「…そういうこと。」
納得したのかスンといつもの無表情に戻ってこちらを向く、目だけはじっとこちらを覗き込むような色を持っていて少しだけうすら寒さを感じてしまうのだが。
「座標バグと言ってたけど、そこどんな場所だった?」
ずっと考えていたことはどうやらバグって何処に飛ばされていたのかということだった。もしかして再現性見つけようとでもしているのだろうか、多分そっちだったら結構無意味だと思う、だってなんかいつの間にか着いてたし。
「さっきも言ったようにどでかい木があるんですよ。」
「それはどれぐらいの大きさ?」
多分場所を絞ろうとしているのだろう、そこまでしてくれなくてもいいんだけどもな。
「多分ですけど…恐らく100メートルはあったんじゃないですかね。登りきる前に死にましたし。」
「……周りの風景は?」
俺の返答を聞いてから少し黙って、そこの風景を聞いてくる。もしかしてピンときた場所があったのだろうか、それとも聞いたことの無い場所だったから聞きたいのだろうか。
「そうですねぇ……起伏が激しい土地で、いたる所に谷や滝がありましたね。」
「…そう、分かった。」
「ああ……勿体ないっすね。」
いつの間に後ろにいたのだろうか、フソウ君も話を聞いていたらしい。しかし勿体ないとはどういう事だろうか。
「まあ知らないっすよね、霊峰って場所。」
「…極僅かな確率で飛ばされるフィールド。」
なんでも俺がいつの間にかいたあの場所は座標バグでも何でもなく、低確率で飛ばされるボーナスステージのようなものだったらしい。
「因みになんですけども……そこってどんなものがあるんですかね。」
「分からない…一度も行ったことないから。」
「皆情報封鎖していて…どんな場所かしか出回って無いんですよね。」
うわぁ…超もったいないことしたな俺。もしかしたら超経験値手に入るモンスターが湧く場所だったのかもしれないし、レアなアイテムが手に入ったのかもしれない。俺はほんの少しの好奇心によってそこで得られたはずの知識を一気にドブに捨てたのだ。
「あー!持ったいねぇ…。」
「まあ初見じゃ絶対分からないっすよ。」
フソウ君が慰めるようにそう言ってくれる、でもポカさなければ有益な情報持って帰れたと思うとさ、そうも言ってられないのよ。
「……何か持って帰ってこれたりしていない?」
そう落ち込んでいるとふとコナラさんがそう聞いてきた、恐らく兎に角何でも持って帰る俺の習性とも言える行動を知っての言動だろう。俺ドロップアイテム全然捨てないからな。
「ちょっと待っててくださいね、確認しますから。」
いそいそとアイテム欄を探る、前整理したのにまた汚くなり始めているそれから探すのは少しだけ時間を有した。
「あったあった、これです。」
取り出したのは引っこ抜いた槍と、落ちた時に掴んだ葉っぱだ。いっさいテキスト読んでいないからコレが何かはまだ分かっていない。
「……よく見せて。」
コナラさんが食らいついた、葉っぱの方に。まあコナラさん槍使わないからね、しょうがないね。