出口を探して
セレストの背に跨って森を走り抜ける、今この場には賑やかしも娘も、いつもそばでニヒルに控えている忍者もいない。いつもであれば何かしら言葉や温もりのある背中には、ただ吹き抜けていく風が触れていくのみであり、より一層一人であると強調されている。
「…もう少し速くいけるか?」
セレストの走り方は馬なりという気分に任せたものであり、人で言えば動きたい気分だからジョギングしている程度のものだ。人よりかははるかに速いのだが、いつもの速度に慣れてしまっていると結構物足りなく感じてしまうものだ。
「いや…なんでもない。」
だがそう言ってから考えた、この前からセレストには辛い走りをさせてばかりだった。鼻血が出るということは肺まで傷ついていたと考えられるほど馬にとっては重症、そうなっても俺を届ける為に走り切った執念に甘えて走らせ続けたのは俺だ。今日みたいな日ぐらい自分の気ままに走らせるべきだろう。
「本当だったら放牧とかするんだろうなぁ。」
現実のサラブレッドは出走後疲れをとる為に放牧に出されるという、あれほど激しい走りをした彼女も同じようにされるべきなのだ。だけどゲームの仕様上牧場施設の整った場所でしか放牧は出来ないようになっている、トラブル回避のためだ。
簡単に見えるかもしれないが管理費を納入する必要がある、しかもそれが結構かかるのだ。今ポケットの中に集まっているドロップ品を売りさばいて何とかというレベルのお金が。
コネがあればもう少し割引できるかもしれないが、俺が持っているネットワークは少ない。ゴリ押ししようにも確実にクランの皆に迷惑がかかる、それだけは避けなければならない。
「…一応クラン拠点に牧場はあるけども。」
獣医師を目指している人達が作った牧場があるのだが、そこに入れるにも順番というものがある。今どれ程入っているかは分からないが、先の遠征で馬を多く使ったはずだから確実に空きは埋まっているだろう。
「乗るの控えて休ませる…か。」
だがセレストの性格上走らないということが出来ない。彼女はどれだけ傷つこうが走ろうとする。
「うーん……。」
そんなふうに考えていると時間というものは簡単に過ぎていってしまう。森から草原へといつの間にか背景は切り替わっていた。
「あれっ…セレストこっちじゃないぞ。」
だがここには来たことが無かった。確かに草原だが、よく見ればど真ん中に大きな木が一本生えており、それによって背丈の高い木が生えない状況になったとしか言えない場所であり、この森に入り込んだ草原ではない。
弱ったなあ、考え事し過ぎたせいでどっち方面から来たのか憶えていない。転移門も開いているのは開いているのだが、あれは町から町へしか飛ぶことができない仕様になっている。つまりこの森からは飛ぶことができないのだ。
「しゃあねーか。」
ゆっくりとセレストから降りる、こうなったらここら辺でも探索して帰る道探すだけだ。
「うへぇ…でっかいな。」
世界樹とでも言うべきか、がっしりとした幹はビルよりも太く、その背丈は山のように高い。木登りは得意だけどもあの先端までは絶対に行けないな、気絶する自信がある。
「セレスト、そこで待っててくれ。」
そういって草を食んでいるセレストを待機させて木によじ登る、意外とゴツゴツしていて乗りやすいかもなこの木。
「こんだけ高かったら見渡せるだろ。」
ただしどれだけ高いかは考慮しないものとする。