終わりに向かって
「ほれほれ、これも好きか?」
アイテムボックスに眠っていた大量のアイテムを取り出しては擽ったりちょっかいを掛けたりと遊んであげる。まるで遊びたがりの子犬や子猫をじゃらしているような感覚だ。
特に気に入った様子なのは前に倒した鳥の羽のようだ。くすぐったいのかコロコロと転がりながらもその羽を追っかけては逃げていく。構って欲しい子がちょっかいかけては逃げていくような感じで随分と可愛らしい。
「とと様!」
……カグヤ今なんて言った、ワンモアタイム。思考停止しながらも腕はじゃらし続ける、けど弱くなったようで羽を伝って登ってペシペシと腕を叩いてくる。でも今それ以上の衝撃が襲ってきててねえ。
「カグヤ、もう一回呼んで?」
「…?とと様?」
…これもアップデートの力だろうか、俺絶対運営にこれからもついていくぜ。
「ん゛ん゛……それでカグヤ、どうしたんだい。」
「私も一緒に遊びたい!」
そう言ってそこら辺から抜いてきたのか、ねこじゃらしのような見た目をしている雑草を手に取ってこちょこちょーと口に出しながら紙魚を撫であげる。あれは絶対こしょばゆい、想定していた通り紙魚は笑い転げるように暴れまわって紙面上を逃げ惑う。でも時折わざとスピードを落としているあたり嫌がっているわけではないのだろう。
「…じっ。」
「どうしたカグヤ。」
手に持っている羽に目線が行っている、もしかしてこれが欲しいのだろうか。だったらと思って最近整理したボックスから手当たり次第にドロップ品を取り出していく。多分欲しいものだって見つかるだろう。ついでに紙魚にも見せてみよう、何か気にいるもんだって出てくるはずだから。
「…あんだこれ?」
こんなアイテムいつの間に手に入れていただろうか、そんなものが占めている俺のアイテム欄だが、それらとも一線を画す全く訳の分からないものが置いてあった。こんなものを取った記憶なんて一切存在しないな、これ以外は何となく分かるんだけども。
『食い破られたページ:レア度1』
「…本当に記憶にねえな。」
多分こういうのってハズレアイテムを引いたときか、何か本でも引きちぎらないと手に入らないはずだ。もしくはアンデットやゴースト系で尚且つ本に関する敵を倒さない限り。
「一応候補はいるけどさ。」
野狗子はある意味小説から出てきた怪異だ、だけど内容通りなら落とすのは牙だしな。そう思いながらページを具現化する。その間に欲しそうなものは好きなだけもっていきなと声を掛けておく、俺の作業を待っていても楽しくないだろうし。
「…うわあ。」
文字化けに文字抜けに虫食い、酷い状態の古書のようなものが出てきた。相当ひどい状態で管理されてきたのだろう、田舎の図書館でも見ないようなボロボロ具合だ。
「でもやっぱわかんないんだよな。」
こんなものを手に入れた記憶が本当に無いのだ。それに実体化できない、さらに説明文すら無いと来た。これじゃあ分からないものだらけだ。
「…放っておくか。」
もうこれに時間割く必要もなくなったしな、カグヤの遊び方でも観察してようかな。
「ってこらこら。」
紙魚突き過ぎだよ、もうこんなにグロッキーになってるじゃないか。少し休ませてあげないと倒れちゃう……、いや待て今あれから何時間経過した?
「約一時間半、か。」
体内から生命力が失われていっているのだろう、だからもう十分に動かす体力が無くなってきているのだ。一寸の虫にも五分の魂とは言うが、もうその半分は消費しているのだ。
「…こういうふうにするなんて考えてなかったぞ運営。」
もう少し晴れやかに逝かせてやるのかと思っていた、こんなに湿り気のある死に際を作るとは考えていなかった。