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最後の観察

 ちょちょいと動き回る紙魚を眺める。場所は初期リス村から離れて回りに何もないまっさらな草原で、動き回る風の音が心地よい。本当に最初の場所は心地よさと旅立ちをテーマにしているのだろう、寂しさを感じると同時に心地よさを与える采配は、運営並びに制作陣営のセンスの良さが光っている。そしてこの心地よい風は来るもの拒まず去る者は追わずの、まさしく故郷のような懐深いものを感じてしまうのは私だけではないだろう。

 「よし、カグヤダンゾー、それにセレスト、遊んできていいぞ。」

 そう掛け声一発、その瞬間にうずうずしていたカグヤは走り出していった。それに続くのはやれやれといった感じで首を振りながらも足取りが軽いダンゾーだ。遊びたいなら素直になればいいのにな本当に。セレストはのんびりとしたいようで、ゴロンと横になってそこらに生えているタンポポに似た花を手繰り寄せてはムシャムシャと食んでいる。そんなことしてると太るぞ。

 『え、私は遊ばせてくれないんですか!?』

 「ロベリアは遊ぶための足が無いだろ。」

 貝にだって足はありますぅーとぶうぶう垂れている、確かにあるけどもそれ陸上生活する為に作られてないじゃんか。お前は二枚貝から巻貝になって、さらにカタツムリとかナメクジに進化するんか。

 『海辺にしてくれたら良かったじゃないですかー!』

 「海まで行ってたら時間無くなるだろ。」

 ここから海は遠い、セレストがいくら速いと言っても、どれだけスタミナがあるといっても生物の限界からは逸脱できていない。辿り着いたころにはあと1時間もないなんてことになるのは目に見えている。いや一応メディウスの転移門は開いたけどさ、フラグリセットされたこの状態で使えるかどうか分からないじゃん。

 「……今度は海にしてやるからさ。」

 『…約束ですよ?』

 そう言ってクレームはもう飛んでこなかった、ひとまずこれにて一件落着と。

 「よっこいせっと。」

 草むらに直に座る、少し湿った感触がケツに襲い掛かるが今は別に気にしない。手帳を広げて紙魚を書き写す、ああそんなにうろちょろしないでくれ、輪郭が歪んじゃうだろ。

 「……。」

 少しいじわるな考えが頭に浮かび、手に持っていたペンで紙魚の背中を軽く突く。紙魚は驚いたように逃げ回るが、俺の悪戯であったことを知ると安堵したように落ち着き、今度はペンに向かってゲシゲシと蹴って挑発している。その姿は天井から垂れ下がった照明の糸を揺らしてシャドーボクシングでもしている子供のようであった。

 ペンで追い回した後に軽く文字を書いていく、ペン本来の用途に戻してその後を見る。

 紙魚は描かれた文字を興味深そうにのぞき込んだが、それよりも今もなお文字を生み出しているペンに興味をそそられているらしく、そっちを追い始めた。

 「…そりゃそうだよな。」

 問題だったデータ破損をそのまま残して3時間一緒になんてはならないだろう。普通に考えてさ、原因そのまま残してもどうせ消すからええやろなんてなったら逆に頭を疑うからな。

 ペンと止めた手をペシペシと叩く感覚が襲う、みると触角で器用に叩いて動かせ、遊べと紙魚が催促していた。

 「おりゃおりゃ、これがそんなに気に入ったか。」

 ペンで突っついて走らせる、すると嬉しそうにペンを追ってはよろけて、突かれては丸まって走り出す。あと3時間だけの命なのだ、ここは思いっきり遊ばせてやろう。

 


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